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ビリヤード
第138幕
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名誉は命よりも尊い。
それは、ベータ性やオメガ性には、理解し難い価値観なのかもしれない。しかし、常に世界に君臨し続けるアルファ性にとって、「恥」を晒すことは何事にも耐え難いことであった。
狼の世界では明確な序列が存在する。けれど、彼等は常に神経を尖らせ、同族に対して臨戦態勢を崩すことはない。隙をみせれば、狼の鋭い牙で、寝首を噛み千切ぎられてしまうだろう。それは、アルファ性の宿命とも言えた。
攻撃は最大の防御である。ならば、他者への攻撃は、自己防衛の一種と捉えることもできるだろう。
結城博己が神崎薫に牙を剥くことは、ほとんど反射的であったのかもしれない。神崎薫は、結城博己に屈辱を味わわせた唯一の存在である。それも相手が最下層の卑しいオメガであったとなれば、博己にとって、許し難い「羞恥」であった。
神崎薫は、その存在すら罪である。
どれ程、執拗に罰しても、決して神崎薫を許せる日は訪れることはない。鞭を振り下ろし、罵り、従わせることで、少しずつ壊れゆく魂の番を見下ろしながら、僅かな愉悦に浸ることが、博己の仮初めの慰めであった。
けれど、そのような不毛で不健全な行為を繰り返しても、悪戯に虚無感を膨らませるだけである。そして、不幸なことに、結城博己は最上位のアルファ性であるが故に、助言を仰げるような第三者にも恵まれていなかった。
まるで、たった一人きりで、底の見えない闇の中に飲み込まれていくような錯覚に陥っていた。それは、結城博己が初めて感じた「恐怖」でもあった。
神崎薫は、罪深い。
あろうことか、更に罪を重ねたのだ。
夏の地区大会の会場で、神崎響に腕を引かれる薫の姿は、博己を明確に裏切る行為であったと言えよう。底なし沼に片足を沈めている博己を置き去りにして、眼前で薫は元恋人の腕の中に逃げ込もうとした。
アルファ性の尺度で測れば、その罪は、死を以て償わせるべきではなかったか。
それでも、結城博己は、足繁く「452号室」に通い続けている。それは、神崎薫を罰すると共に、罪人をこの世に繋ぎ止める手段でもあった。
病衣を開き、裸体を晒したオメガの肢体の上を博己の指が滑っていく。しっとりと汗ばんだ肌は敏感に反応し、ツンと立った胸の突起に触れれば、薫はむず痒い疼きを感じて、ふっと熱っぽい息を溢した。
人形のように投げ出された肢体は、両足を左右に開かせれば、軽く勃ち上がりかけた初心なぺニスや、雄にしては熟れた穴が露になる。
「……ん、……ふ、……」
発情期している雌の穴に触れれば、愛液が溢れだし、美しい博己の指を汚した。薫は羞恥に頬を染めて、目を逸らす。けれど、博己の指を招き入れよう蠢く穴は、はしたなくも貪欲であった。
「…………ぁ、……ん、」
博己は、熱いオメガの膣に指を差し入れると、探るように肉壁を撫でた。快楽に従順な雌は、肢体をくねらせて、小さく喘ぐ。言葉を発することを禁じられたからか、唇を噛みながら、声を抑えようとする様は、扇情的であった。
オメガ性の放つ甘く淫らな香りは、狼の血を滾らせる。博己は腹の底に沸き上がる熱を感じて、小さく喉を鳴らした。
「……ん、……」
抜かれていく指を甘く締め付けて、薫はぴくんと腰を揺らした。次の瞬間、開いた穴に押し当てられた熱に、薫の肢体は歓喜と緊張が走った。
「……あ、……ああ……ッ」
ゆっくりと挿入されれば、オメガの肢体もゆっくりと仰け反った。甘い疼きに晒された肢体は、悦楽を期待する。けれど、番以外の雄を拒絶する膣は、それを上回る苦痛をもたらした。
手荒く犯されれば、痛みだけが尖り、刹那的な苦痛に耐え凌げばよかった。けれど、じわりじわりと挿ってくる博己のペニスは、薫の肢体をじわじわと切り裂き、拒絶する一つ一つの苦痛を味わわされる。凍えた心臓からは、冷たい血液が全身を駆け巡り、寒くもないのに、ガタガタと身体を震わせた。
結城博己は、苦痛に歪むオメガの顔を見下ろした。鞭を振り下ろすことも、他の狼に喰わせることも、優しく愛でることも、神崎薫にとっては同じ苦痛であるのだと知らしめられる。
かつての番である響に抱かれる薫は、どんな風に乱れ、どんな風に悦ぶのだろうか。
再び薫を捨てて、他の女と婚約する男の顔を思い出す。
博己は、自嘲気味に薄く笑うと、思考を飛ばすように、或いは怒りをぶつけるように、強く腰を打ち付けていく。
「ひ、……い、……ぁ、ああ、……ッ」
ぐちゅぐちゅと卑猥な水音と、微かな呻き声が室内に響く。若いアルファとオメガの間には、苦痛と快楽、歓喜と虚無が混ざり合う。
「ーーーーッ」
腹の奥を抉るように突き上げられれば、薫は強制的な射精を強いられ、博己のぺニスを搾りとるように締め付ける。博己は抗うことなく、薫の膣の中に精を放った。
薫は、腹の奥に感じた熱い液体に肢体を震わせ、胸が熱くなる。子を成せない身体であっても、博己の精を受けることが、薫の唯一の生きる意味であった。
甘い多幸感の余韻に浸りながら、至近距離で見上げた先には、伏し目がちな博己の赤い瞳があった。なぜ、そのように感じたのか、薫は博己は「泣いている」のだと思った。
薫は引き寄せられるように、浅い息を繰り返す唇に自身の唇を重ねた。博己は意表を突かれて、薫の瞳を見つめた。
「ごめんなさい」
神崎薫は、叱られた犬のように怯えたように瞳を泳がせた。薫には、博己の心情など何一つ理解することができない。
博己もまた、薫の心情など何一つ理解することはできない。
博己は溜め息を吐いて身体を起こすと、気だるげに乱れた着衣を整える。薫も合わせるように、開いた病衣を閉じて、肌を隠した。
「可哀想なやつだな」
ぽつりと呟いた言葉は、博己にしては珍しく、同情めいた言葉であった。
「神崎家の長男が婚約するそうじゃないか」
「………ぁ…そう、……」
薫は目を丸くしたものの、俯いて、納得したように頷いた。心の奥底で、絶望と安堵が入り交じる。父に叱責され、説得された兄は、あの時のように「神崎」を選んだのだ。兄は迎えになど、来ないのだ。
「それだけか?」
泣き喚く姿を想像していた博己は、怪訝そうに問いかけた。
「兄さんには、幸せになってほしいから」
薫は、優しく微笑んだ。その顔は矮小なオメガには珍しく、慈愛に満ちた綺麗な笑顔だった。十四歳の薫であれば、泣き喚き、裏切るなんてあんまりだ、と兄を恨んでいただろう。
「俺は、……」
博己は口を開きかけて、閉じた。
薫は不思議そうに首を僅かに傾げた。
「なんでもない」
博己は立ち上がり、上着を掴むと、颯爽と病室を後にする。薫は、立ち去っていく運命の番を愛しそうに目で追うばかりであった。
それは、ベータ性やオメガ性には、理解し難い価値観なのかもしれない。しかし、常に世界に君臨し続けるアルファ性にとって、「恥」を晒すことは何事にも耐え難いことであった。
狼の世界では明確な序列が存在する。けれど、彼等は常に神経を尖らせ、同族に対して臨戦態勢を崩すことはない。隙をみせれば、狼の鋭い牙で、寝首を噛み千切ぎられてしまうだろう。それは、アルファ性の宿命とも言えた。
攻撃は最大の防御である。ならば、他者への攻撃は、自己防衛の一種と捉えることもできるだろう。
結城博己が神崎薫に牙を剥くことは、ほとんど反射的であったのかもしれない。神崎薫は、結城博己に屈辱を味わわせた唯一の存在である。それも相手が最下層の卑しいオメガであったとなれば、博己にとって、許し難い「羞恥」であった。
神崎薫は、その存在すら罪である。
どれ程、執拗に罰しても、決して神崎薫を許せる日は訪れることはない。鞭を振り下ろし、罵り、従わせることで、少しずつ壊れゆく魂の番を見下ろしながら、僅かな愉悦に浸ることが、博己の仮初めの慰めであった。
けれど、そのような不毛で不健全な行為を繰り返しても、悪戯に虚無感を膨らませるだけである。そして、不幸なことに、結城博己は最上位のアルファ性であるが故に、助言を仰げるような第三者にも恵まれていなかった。
まるで、たった一人きりで、底の見えない闇の中に飲み込まれていくような錯覚に陥っていた。それは、結城博己が初めて感じた「恐怖」でもあった。
神崎薫は、罪深い。
あろうことか、更に罪を重ねたのだ。
夏の地区大会の会場で、神崎響に腕を引かれる薫の姿は、博己を明確に裏切る行為であったと言えよう。底なし沼に片足を沈めている博己を置き去りにして、眼前で薫は元恋人の腕の中に逃げ込もうとした。
アルファ性の尺度で測れば、その罪は、死を以て償わせるべきではなかったか。
それでも、結城博己は、足繁く「452号室」に通い続けている。それは、神崎薫を罰すると共に、罪人をこの世に繋ぎ止める手段でもあった。
病衣を開き、裸体を晒したオメガの肢体の上を博己の指が滑っていく。しっとりと汗ばんだ肌は敏感に反応し、ツンと立った胸の突起に触れれば、薫はむず痒い疼きを感じて、ふっと熱っぽい息を溢した。
人形のように投げ出された肢体は、両足を左右に開かせれば、軽く勃ち上がりかけた初心なぺニスや、雄にしては熟れた穴が露になる。
「……ん、……ふ、……」
発情期している雌の穴に触れれば、愛液が溢れだし、美しい博己の指を汚した。薫は羞恥に頬を染めて、目を逸らす。けれど、博己の指を招き入れよう蠢く穴は、はしたなくも貪欲であった。
「…………ぁ、……ん、」
博己は、熱いオメガの膣に指を差し入れると、探るように肉壁を撫でた。快楽に従順な雌は、肢体をくねらせて、小さく喘ぐ。言葉を発することを禁じられたからか、唇を噛みながら、声を抑えようとする様は、扇情的であった。
オメガ性の放つ甘く淫らな香りは、狼の血を滾らせる。博己は腹の底に沸き上がる熱を感じて、小さく喉を鳴らした。
「……ん、……」
抜かれていく指を甘く締め付けて、薫はぴくんと腰を揺らした。次の瞬間、開いた穴に押し当てられた熱に、薫の肢体は歓喜と緊張が走った。
「……あ、……ああ……ッ」
ゆっくりと挿入されれば、オメガの肢体もゆっくりと仰け反った。甘い疼きに晒された肢体は、悦楽を期待する。けれど、番以外の雄を拒絶する膣は、それを上回る苦痛をもたらした。
手荒く犯されれば、痛みだけが尖り、刹那的な苦痛に耐え凌げばよかった。けれど、じわりじわりと挿ってくる博己のペニスは、薫の肢体をじわじわと切り裂き、拒絶する一つ一つの苦痛を味わわされる。凍えた心臓からは、冷たい血液が全身を駆け巡り、寒くもないのに、ガタガタと身体を震わせた。
結城博己は、苦痛に歪むオメガの顔を見下ろした。鞭を振り下ろすことも、他の狼に喰わせることも、優しく愛でることも、神崎薫にとっては同じ苦痛であるのだと知らしめられる。
かつての番である響に抱かれる薫は、どんな風に乱れ、どんな風に悦ぶのだろうか。
再び薫を捨てて、他の女と婚約する男の顔を思い出す。
博己は、自嘲気味に薄く笑うと、思考を飛ばすように、或いは怒りをぶつけるように、強く腰を打ち付けていく。
「ひ、……い、……ぁ、ああ、……ッ」
ぐちゅぐちゅと卑猥な水音と、微かな呻き声が室内に響く。若いアルファとオメガの間には、苦痛と快楽、歓喜と虚無が混ざり合う。
「ーーーーッ」
腹の奥を抉るように突き上げられれば、薫は強制的な射精を強いられ、博己のぺニスを搾りとるように締め付ける。博己は抗うことなく、薫の膣の中に精を放った。
薫は、腹の奥に感じた熱い液体に肢体を震わせ、胸が熱くなる。子を成せない身体であっても、博己の精を受けることが、薫の唯一の生きる意味であった。
甘い多幸感の余韻に浸りながら、至近距離で見上げた先には、伏し目がちな博己の赤い瞳があった。なぜ、そのように感じたのか、薫は博己は「泣いている」のだと思った。
薫は引き寄せられるように、浅い息を繰り返す唇に自身の唇を重ねた。博己は意表を突かれて、薫の瞳を見つめた。
「ごめんなさい」
神崎薫は、叱られた犬のように怯えたように瞳を泳がせた。薫には、博己の心情など何一つ理解することができない。
博己もまた、薫の心情など何一つ理解することはできない。
博己は溜め息を吐いて身体を起こすと、気だるげに乱れた着衣を整える。薫も合わせるように、開いた病衣を閉じて、肌を隠した。
「可哀想なやつだな」
ぽつりと呟いた言葉は、博己にしては珍しく、同情めいた言葉であった。
「神崎家の長男が婚約するそうじゃないか」
「………ぁ…そう、……」
薫は目を丸くしたものの、俯いて、納得したように頷いた。心の奥底で、絶望と安堵が入り交じる。父に叱責され、説得された兄は、あの時のように「神崎」を選んだのだ。兄は迎えになど、来ないのだ。
「それだけか?」
泣き喚く姿を想像していた博己は、怪訝そうに問いかけた。
「兄さんには、幸せになってほしいから」
薫は、優しく微笑んだ。その顔は矮小なオメガには珍しく、慈愛に満ちた綺麗な笑顔だった。十四歳の薫であれば、泣き喚き、裏切るなんてあんまりだ、と兄を恨んでいただろう。
「俺は、……」
博己は口を開きかけて、閉じた。
薫は不思議そうに首を僅かに傾げた。
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博己は立ち上がり、上着を掴むと、颯爽と病室を後にする。薫は、立ち去っていく運命の番を愛しそうに目で追うばかりであった。
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