夜更けのカスタードプディング

nao@そのエラー完結

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夜更けのカスタードプディング

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「おつかれさま」

 夜更けに鳴ったインターフォン。玄関の扉を開けると、眼前にコンビニ袋が差し出された。横から、ひょいっと覗いたのは見慣れた男の笑顔だった。仕事帰りらしく、いつもは整えた髪も少し乱れて、ネクタイもだらしなくゆるんでいる。

「ありがとう」

 受け取ったコンビニ袋にはプリンが二つ。気持ち程度の手土産に苦笑いを浮かべて、男を部屋へと招き入れた。

 彼は身勝手な男である。一ヶ月も連絡がないこともあれば、こうして急に訪ねてきたりする。こちらの都合などお構いなしに、なんでも自分の思い通りにしなければ気がすまない男には、いつも振り回されてばかりだ。それでも、こうして安易に彼を招き入れてしまうのは、彼のそんな図々しいところが、少し羨ましいからかもしれない。他人の顔色ばかり窺ってしまい、何をするにも一本踏み出せない俺には、とても真似できない。

 湯を沸かして、急須で彼の好きなほうじ茶を淹れる。クッションを抱いたまま、ソファにぐったりと沈んでいる彼は、いつになく無口だった。いつもは軽口ばかりを叩いて、うるさい程の彼にはしては珍しい。その顔色はどこか暗く、張りのある肌もやつれていて、瞳は充血し、目の下には隈なんかもできている。

 何かあったのか? なんてことは聞かない。

「いただきます」

 彼の隣に腰をおろし、スプーンでプリンを掬って、口に含む。滑らかな舌触りのカスタードは優しい甘みで、ほんのり苦いカラメルソースは香ばしい。こんな夜更けに食べるには、少し罪深い。

「お前は、本当にプリンが好きだなぁ」

 いつも先に食べ終わるのは彼の方。手持ち無沙汰なのか、俺がプリンを頬張る様子を、くしゃりとした笑顔でからかってくる。

 彼を初めてこの部屋に招き入れた夜だったろうか。何気なく「これ好きかも」なんて言ったコンビニのカスタードプリンは、すっかり彼の中では俺の好物になっているらしい。本当のところは、さほど好きというわけでもない。プリンにしてはウマイというぐらいの些細な感想でしかなかったのだ。だからといって、わざわざ訂正するほどのことでもないから、俺の好物ということにしておいて、最後の一口を口に含んだ。

「ごめんな、急に来て、」

 謝罪の言葉とは裏腹に、唐突に強い力で抱きすくめられる。

「大丈夫だよ」

 ポンポンと頭を撫でる。ワックスのついた少しベタくつ固い髪に、なんとなく唇を寄せる。彼のつけているコロンは夜にはずいぶんと薄まり、ほのかに煙草の臭いがした。
 男の体重が重くのしかかり、重力に従ってソファに押し倒されることには、抵抗しないことにした。

「俺、がんばってるんだけどな」
「うん」
「うまくいかなかった」
「そんなこともあるよ」
「…………くやしいんだ」
「ああ、がんばったんだから、悔しいよな」

 仕事でうまくいかないことでもあったのだろうか。世の中、努力すれば必ず報われる、というほど単純であればいいのだけれど――上手い慰めの言葉なんてかけられないから、彼の吐き出す弱音に耳を傾けながら、背中に腕を回す。

「ベッドいくか?」
「うーん、もう少しだけ」

 眠たそうな声が返ってくれば、成す術もない。のしかかる体重も決して軽くはないし、二人かけのソファはかなり窮屈だった。仕方なく背中を擦っていれば、いつしか寝息まで聞こえてくる始末。男を揺すってみても、起きる気配もなかった。

 ――全くもってマイペースで自分勝手な男だ。平日の夜だぞ。明日は早く出社しなければならないっていうのに――

 深く溜め息を吐いて、天井を仰いだ。それでも不思議と悪い気がしないのは、惚れた弱味というやつだろうか。




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