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nao@そのエラー完結

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11月23日(金)

第22話

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「すみません、遅くなりました!」

 土下座の勢い謝りながら、店内に長身の男が入ってくる。篠田マネージャーは、可笑しそうに笑って、目配せで、隣に座るように促した。

「お疲れ様。うちは営業部と違って、そのあたりはゆるいから気にしなくていいよ」
「ありがとうございます。でもまあ、けじめなんで、駆けつけで一杯失礼します」

 吉田は、手酌で空のグラスに残りのビールを注いで、一気に飲み干した。はぁーっと息を吐くと、篠田マネージャーを挟んで俺の方に身を乗り出した。

「てか、瀬川、呑み過ぎじゃないか? 顔真っ赤」
「お前が遅れてくるのが悪いんだろ」
「まあまあ、じゃあ、大将、揃ったからお任せで出してくれるか?」

 大きな宝石ように綺麗な寿司が列べられる。旬のヒラメは透明度の高い艶やかな白で、口にすると、淡白ながらも深い味が口内に広がる。
 タイミングを合わせるように、徳利とお猪口が三つ置かれた。トクトクとお猪口に注がれる透明の液体。日本酒のほの甘い香りが鼻孔をくすぐる。

「瀬川くんも甘口ならイケるだろ?」
「篠田マネージャー、もう瀬川に呑ませないで下さいよ。こいつ、あんまり強くないんで。酒の相手なら、俺がしますから」
「吉田くんは、瀬川くんには優しいなぁ」
「いやいや、こいつ潰れたら、介抱するのは俺ですよね?」

 カチンときて、お猪口に口をつける。

「一杯ぐらいなら、イケますよ」
「あ、バカ……ッ」

 ぐいっと飲むと、甘く滑らかな液体が喉通り、胃の中で燃え上がる。時間差で、カァと体の内面から熱が上がってくる。少し涙腺が緩んだのか、視界がぼやけてきた。

「瀬川くん、大丈夫か?」
「ん、大丈夫です……」

 少しぼんやりとしてきたが、目の前の艶かしい赤身の寿司に手を伸ばす。口に含むと、中トロの甘い脂が、しゃりと混ざり合って官能的な美味さが体に染み渡る。

「吉田くんは、独身だったかな?」
「ええ。まあ、付き合ってる相手はいるんですが、結婚となると難しいですね」
「最近の若いヤツは、なかなか結婚しないなぁ。瀬川くんも独身だし。君らみたいなマシな男がいつまでも独身ってのが不思議だよ」
「マシってなんですか、こんなイイ男を目の前にして」
「そう思うなら、さっさと身を固めろよ」

 おどける吉田と楽しそうに窘める篠田マネージャー。なんだか一人だけ取り残されたような気になった。手酌でもう一杯、日本酒を煽る。

「俺は、一生結婚できない気がします」
「これはまた、こじらせてるな。瀬川くんはモテるだろ?」
「モテませんよ。俺は女性からあまり男として意識されるタイプじゃありませんし、たまに好いてくれる人もいますが、」
「いますが?」

 頭の中が朦朧としてくる。促されるままに、言葉が溢れてくる。

「たぶん、俺はつまらない男なんだと思います。家では寝てるだけだし、趣味らしい趣味もないし。最初はいい彼氏のフリできるんですけど、すぐに面倒になってしまって、素を出した途端に幻滅されでしまうみたいで」
「あはは、お前、結構暗いヤツなんだな」

 吉田の笑い声に感化されて、自嘲気味な笑みが溢れる。

「そうだよ。俺は根が暗いんだ。だから、早く目を覚まして。俺なんかじゃなくて、もっと、マトモなやつと付き合えばいいのに……」

 矢口の顔が浮かんで消える。

「瀬川くん、付き合っている人がいたのか?」
「付き合わされているだけです」

 しん、と空気が静まる。

「今のは、忘れてください……」

 視界がぐらついて、瞼を開けていられない。テーブルに肘を付き、額を押さえて、どうにか頭を支えた。ドクドクと心臓の音がやけに耳に響く。酔いに任せて、何か余計なこと言ってしまった気がする。


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