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12月12日(水)
第39話
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冬の薄曇りの空からは、ぽつぽつと冷たい雨粒が降っていた。
コンクリートに囲まれた駅構内は凍えるような寒さだったが、乗り込んだ新幹線は、空調が効きすぎているのか、じんわりと暑いほどだった。ビジネスバックを足元に置くと、コートをひざ掛けにして窓際の席に座る。イヤホンを耳に着けて、パソコン開くと、メールをチェックして、今日の打ち合わせで使う資料の内容に目を通した。そうしている間に、電車がすべりだす。
停車駅事に、わらわらと乗車してくる気配を感じるが、構わずに資料に没頭していた。
「瀬川くん、おはよう」
軽く肩を揺すられて、顔をあげると、長身の眼鏡をかけた男が微笑んでいた。
「おはようございます」
「今日はよろしくな」
イヤホンを外して頭を下げると、細川リーダーが俺の隣の席に腰かけた。
今回のF社への出張は、YシステムとNシステムの合同のプロジェクト報告会ということで、細川リーダーと同行することになっていた。F社との打ち合わせは普段はWEB会議で事足りてはいるが、年末ということもあり、忘年会がセッティングされていたため、折角だからと対面で実施することにした。普段は遠隔でコミュニケーションを取っているからこそ、こういう機会は逃せない。
なんとなくパソコンを閉じようとすると制止されてしまう。
「そういえば、プロジェクト報告書のフィードバックがまだだったよな」
毎月先方に提出しているプロジェクトの報告書とは別に、部内でもプロジェクト報告を行っているが、引き継ぎ先である細川リーダーにも先月より確認してもらっていた。
電車が動き出すと、細川リーダーが自らのパソコンを開いて、資料を開いて見せてくれた。俺とはまた違う観点で、プロジェクトの状態を分析してくれていたらしく、グラフ化したものをいくつか説明される。
「瀬川くんは少し慎重すぎるところがあるから、テスト量がやや過剰になりやすい傾向があるな。効率の良いテスト計画をもう少し練った方がいいけど、まあ、そこは気にする程のことじゃないだろう。それよりも、瀬川くんが一人で仕事抱え込み過ぎる傾向を改善して、負荷を分散するようにしないとチームとして成長していかないよ。引き継ぎに苦戦しているのも、そこが原因だろうな」
「うわ、朝っぱらから、本気のダメ出ししないでくださいよ」
「初めてのリーダー経験にしては、まずまず優秀な方だと思うよ?」
細川リーダーはクスクスと笑って、パソコンを閉じた。こうして数字化されると自分の足りていないスキルが見えてくる。細川リーダーの分析が的確すぎて、グサグサと胸に刺さったが、こういうやりとりも少しだけ懐かしい。
「少しの間だけど、また瀬川くんと仕事できるのは楽しみだよ」
「ええ、俺も細川さんがいてくれて心強いです」
細川リーダーは、ふっと顔を緩めた。
Yシステムの一次開発の頃を思い出す。今のような客先でのテスト工程は細川リーダーと俺の二人で客先にY社に常駐していた。あの頃は、深夜残業も休日出勤も当たり前で、ズタボロになりながらも、なんだかんだで達成感があり、成長している手応えを感じられた。
神戸で借りた部屋が隣同士だったこともあり、よく細川リーダーの部屋に招かれて鍋を囲んだり、二人で飲み歩いたりもしていたし、SF映画の好みが似ていたので、少し余裕があった時期には、互いのお勧めのDVDを借りてきて、一緒に観賞しては意見を語り合ったりもした。
週末には、細川リーダーの奥さんが、よく神戸にまで遊びにきていたようで、俺の食生活の酷さを不憫に思ったのか、ついでだからと俺にまで手料理を振る舞ってくれたことも何度かあった。
そんな、楽しかった記憶が急に甦る。
「今思うと、俺も結構な生意気なことばっかりいってましたよね。自分がリーダーやってみて気づくことも多いです」
「随分、殊勝なことをいうようになったんだな。俺に意見するような骨があるヤツもいなかったから、瀬川くんはなかなか面白いと思ったよ。そんな君だかこそ、俺もYシステムを任せようって気になったんだし」
「あはは、光栄です」
「今のNシステムのメンバーが、なんていうか気が利くやつがいなくてさ。ストレスが半端ないんだよな。瀬川くんが、ずっと俺のサブリーダーでいてくれたら楽できるんだけどなぁ」
「それは篠田さんに言ってくださいよ」
「……まあ、無理だよな。瀬川くんも主任になっちゃったんだし」
「じゃあ、細川さんがマネージャーになればいいんじゃないですか? そしたら、俺を自由に使えますよ」
「あはは、そうだな。まあ、それも悪くないね」
冗談目かして、言葉を発すると、細川リーダーは満更でもなさそうに肩をすくめてみせた。
コンクリートに囲まれた駅構内は凍えるような寒さだったが、乗り込んだ新幹線は、空調が効きすぎているのか、じんわりと暑いほどだった。ビジネスバックを足元に置くと、コートをひざ掛けにして窓際の席に座る。イヤホンを耳に着けて、パソコン開くと、メールをチェックして、今日の打ち合わせで使う資料の内容に目を通した。そうしている間に、電車がすべりだす。
停車駅事に、わらわらと乗車してくる気配を感じるが、構わずに資料に没頭していた。
「瀬川くん、おはよう」
軽く肩を揺すられて、顔をあげると、長身の眼鏡をかけた男が微笑んでいた。
「おはようございます」
「今日はよろしくな」
イヤホンを外して頭を下げると、細川リーダーが俺の隣の席に腰かけた。
今回のF社への出張は、YシステムとNシステムの合同のプロジェクト報告会ということで、細川リーダーと同行することになっていた。F社との打ち合わせは普段はWEB会議で事足りてはいるが、年末ということもあり、忘年会がセッティングされていたため、折角だからと対面で実施することにした。普段は遠隔でコミュニケーションを取っているからこそ、こういう機会は逃せない。
なんとなくパソコンを閉じようとすると制止されてしまう。
「そういえば、プロジェクト報告書のフィードバックがまだだったよな」
毎月先方に提出しているプロジェクトの報告書とは別に、部内でもプロジェクト報告を行っているが、引き継ぎ先である細川リーダーにも先月より確認してもらっていた。
電車が動き出すと、細川リーダーが自らのパソコンを開いて、資料を開いて見せてくれた。俺とはまた違う観点で、プロジェクトの状態を分析してくれていたらしく、グラフ化したものをいくつか説明される。
「瀬川くんは少し慎重すぎるところがあるから、テスト量がやや過剰になりやすい傾向があるな。効率の良いテスト計画をもう少し練った方がいいけど、まあ、そこは気にする程のことじゃないだろう。それよりも、瀬川くんが一人で仕事抱え込み過ぎる傾向を改善して、負荷を分散するようにしないとチームとして成長していかないよ。引き継ぎに苦戦しているのも、そこが原因だろうな」
「うわ、朝っぱらから、本気のダメ出ししないでくださいよ」
「初めてのリーダー経験にしては、まずまず優秀な方だと思うよ?」
細川リーダーはクスクスと笑って、パソコンを閉じた。こうして数字化されると自分の足りていないスキルが見えてくる。細川リーダーの分析が的確すぎて、グサグサと胸に刺さったが、こういうやりとりも少しだけ懐かしい。
「少しの間だけど、また瀬川くんと仕事できるのは楽しみだよ」
「ええ、俺も細川さんがいてくれて心強いです」
細川リーダーは、ふっと顔を緩めた。
Yシステムの一次開発の頃を思い出す。今のような客先でのテスト工程は細川リーダーと俺の二人で客先にY社に常駐していた。あの頃は、深夜残業も休日出勤も当たり前で、ズタボロになりながらも、なんだかんだで達成感があり、成長している手応えを感じられた。
神戸で借りた部屋が隣同士だったこともあり、よく細川リーダーの部屋に招かれて鍋を囲んだり、二人で飲み歩いたりもしていたし、SF映画の好みが似ていたので、少し余裕があった時期には、互いのお勧めのDVDを借りてきて、一緒に観賞しては意見を語り合ったりもした。
週末には、細川リーダーの奥さんが、よく神戸にまで遊びにきていたようで、俺の食生活の酷さを不憫に思ったのか、ついでだからと俺にまで手料理を振る舞ってくれたことも何度かあった。
そんな、楽しかった記憶が急に甦る。
「今思うと、俺も結構な生意気なことばっかりいってましたよね。自分がリーダーやってみて気づくことも多いです」
「随分、殊勝なことをいうようになったんだな。俺に意見するような骨があるヤツもいなかったから、瀬川くんはなかなか面白いと思ったよ。そんな君だかこそ、俺もYシステムを任せようって気になったんだし」
「あはは、光栄です」
「今のNシステムのメンバーが、なんていうか気が利くやつがいなくてさ。ストレスが半端ないんだよな。瀬川くんが、ずっと俺のサブリーダーでいてくれたら楽できるんだけどなぁ」
「それは篠田さんに言ってくださいよ」
「……まあ、無理だよな。瀬川くんも主任になっちゃったんだし」
「じゃあ、細川さんがマネージャーになればいいんじゃないですか? そしたら、俺を自由に使えますよ」
「あはは、そうだな。まあ、それも悪くないね」
冗談目かして、言葉を発すると、細川リーダーは満更でもなさそうに肩をすくめてみせた。
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