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nao@そのエラー完結

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12月13日(木)

第43話

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 随分と早い年忘れだったが、平日の夜から呑んで騒いで、居酒屋を出ると、満足して帰っていく者、まだ呑み足りない者とに分かれていった。

「瀬川くんは、こーへんの?」

 上機嫌の岡本氏が俺の肩に手を置いて尋ねてきた。どうやら、今から行きつけのスナックに向かうらしい。いつもなら、二つ返事でお供させてもらうところだったが、生憎、手に持っているビニール袋には濡れた衣類が入っていた。

「すみません。これ、ホテルで洗濯しないとなんで」
「湯川のダボ……」
「まあ、まあ、過ぎた話やないですか」

 湯川氏が「もう言わんといて」と岡本氏に泣きつく真似をする。細川リーダーはというと、明日は始発の特急で東京に戻る予定らしく「これ以上は、すみません」と、申し訳なさそうに頭を下げた。

「年明けは、ずっとこっちにいるので、また、改めて呑みに連れて行ってください」
「せやな、うまい神戸牛、食べさせななぁ」

 岡本氏は地元の連中を三人引き連れて、夜の街に消えていく。湯川氏も岡本氏に連れていかれるようで、軽く手を上げて、ほな、なんて無邪気に笑っていた。

「瀬川くんもいつものホテル?」
「ああ、はい。あそこは、アクセスもいいし、安くていいですよね」

 細川リーダーも同じビジネスホテルにチェックインしているとのことで、連れ立ってホテルへ向かった。
 何度もF社に通っているため、宿泊するホテルもほぼ固定化されている。今日予約したホテルも、細川リーダーに教えてもらったところで、俺も真似して愛用させてもらっていた。

「なんだか懐かしいよなぁ。瀬川くんと神戸で会っているのが久しぶりだからかな?」

 細川リーダーとは、Fシステムの一次開発の時は、公私共に一緒に過ごしていたが、プロジェクトが分かれると自然と疎遠になってしまっている。報告会の日程もズレることが多く、神戸に訪れていてもスレ違ってばかりだった。

「そういえば、年明けからのマンスリーの手配はよかったんですか? あまりホテルと経費も変わらなさそうでしたが」
「うーん、なるべく東京にいようと思ってね」  

 眼鏡の男は、ふっと夜空を見上げて嬉しそうに微笑んだ。なんだか、こちらも嬉しくなるような満ち足りた雰囲気で「どうしたんですか?」なんて、肘で、彼の腕を突いた。

「じつは、夏に子供が産まれることになって」

 照れ臭そうに細川リーダーが微笑んだ。

「あ、ああ! おめでとうございます。それなら、なるべく奥さんの側についていた方がいいですもんね」
「ああ、今までみたいに、気軽にこっちに出て来いってもの言えないからな」

 困ったように、けれど嬉しそうに細川リーダーは笑った。
 神戸まで遊びに来ていた彼の奥さんは、夫である細川リーダーのことが、好きで好きで堪らないらしく、いつも瞳の奥にハートマークがついているような可愛らしい女性だった。美人で、聡明で、優しくて、とてもお似合いの夫婦だった。結婚して五年、子どもに恵まれなかった細川家にも、ようやく新しい家族が増える。

「細川さんがパパになるんですね」

 これまでで一番、細川リーダーが眩しく見えた。きっと、彼は良い父親になるだろう。それと同時に、自分だけ取り残されてしまうような焦燥感にかられてしまう。

「瀬川くんも、早くパパにならないとな?」
「はは、いろんなステップ飛ばしすぎですよ……」

 細川リーダーの軽口を、今は上手くやり過ごすことができなかった。足元に視線を落として、小さく唇を噛んだ。細川リーダーは人生の先輩として、アドバイスをくれようとしているのだろう。俺のことを心配しているのが半分で、自分の幸せを語りたいのが半分。

 素敵な女性と出会って、恋をして、家庭を築いて、子どもを育てる。誰もが思い描くような在り来たりなストーリー。それなのに、今の俺にはあまりにも遠くて、現実味のない未来にしか思えなかった。



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