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nao@そのエラー完結

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12月15日(土)

第51話

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 スマホで時間を確認すると夕方近くになっていた。
 暁斗の住まいであるアパートに訪れて、外階段を登る。肩に下げたトートバックの中には、泊まる準備もしていた。部屋の扉の前に立ち、息を吐く。けれど、インターフォンを押しかけて、固まってしまった。

 コートのポケットから煙草の箱を取り出して、外廊下の角に身を寄せる。二階の高さから町並みを見下ろしながら、煙草を口に咥えて一服着いた。

 部屋の中では吸えないから。

 そんな言い訳をしながら、インターフォンを押すまでの、僅かな時間を稼いでいる自分が情けなくなる。
 やはり泊まりたいというのは、迷惑だったのではないか。そういう顔を暁斗にされてしまったら、などと思うと怖じ気づいてしまった。
 矢口暁斗のことが恋愛的な意味合いで、好きなのだと、自覚してから安定しない情緒に辟易としてしまう。

 ガチャリと機械音がした。顔だけ振り返ると、暁斗と目が合った。怪訝な顔つきで首を傾げられる。

「そんなところで何してるんですか?」
「ちょっと煙草吸ってて……もう終わったから」

 慌てて煙草を携帯灰皿に押し込んで、苦笑いで誤魔化した。

「暁斗はどこか行くのか?」

 暁斗はモッズコートを羽織り、外出の出で立ちだった。

「遅いから迎えに行こうかと……。電話したんですけど」

 コートのポケットからスマホを取り出す。確かに着信はあったようだが、バイブモードにしていたため、気づかなかった。

「ほんとだ。悪かったよ」

 暁斗は、小さく溜め息を吐いて、部屋の中に入るように促してきた。

 バツが悪くて、頭をかく。靴を脱いで、コートを脱ぐと、暁斗が自然と俺のコートを受け取り、ハンガーにかけて部屋の隅にかけてくれた。カーキのモッズコートと紺のダッフルコートが並ぶ。

 ソファに座るように目配せされて、それに従う。暁斗はキッチンでお茶を淹れてくれようとしていた。ぽつりと、暁斗が不機嫌そうに言葉を発する。

「気が変わったのかと思いました」
「うん、遅くなって悪かった」
「煙草なんて、俺と会ってからでも吸えたんじゃないんですか?」
「そうだよな。悪かった」

 気まずい沈黙が流れる。暁斗がローテーブルに湯気が立つマグカップを置いてくれた。男は右隣に少し距離を置いて腰を下ろす。暁斗は少し息を吐いてから肩を落とした。

「あの、すいません。イヤな言い方をしました」
「いや、俺が悪かったから」

 項垂れる暁斗に、俺の方から距離を詰めて座り直した。しばらく躊躇したが、俯いたままの暁斗の肩に手を起き、軽く揺すって、顔を覗き込んだ。

 暁斗が少し驚いた顔で、見つめてきた。それでも、暁斗の手が、頬に添えられて、愛しそうに撫でられる。顔が近づいてきて、瞼を閉じて顎を上げる。けれど、鼻先まで感じた暁斗の気配が急に遠ざかり、瞼を開く。

「キス、してもいいですか?」

 暁斗が俺の唇を親指でなぞる。暁斗の唇を待っていた自分が恥ずかしくなって、かぁっと顔に熱が上がる。

「そんなこと聞かなくてもいいだろ」

 暁斗は親指で俺の唇の感触を確かめるように、ゆっくり弄りながら、じっと唇を見つめ続けている。それから、絞り出すように謝罪の言葉を口にする。

「すみません。佑介が押しに弱いことをいいことに、ちょっと調子に乗りすぎていたかなって」

 どうやら俺は押しに弱いと思われていたらしい。

「佑介の気持ちも考えずに、強引になんでも進めてしまって、困らせてばかりで、嫌われてもおかしくないよなって、それで……」
「なんだよ、暁斗らしくないな」

 今更過ぎて、逆に驚く。それなら、最初の告白から遠慮してくれれば、こんなことにならなかっただろうに。まさか、今更、ごめんなさい、なんて引き返すつもりなのか、と僅かに苛立ちを覚える。

「だって、佑介、ずっと怒っていますよね?」
「あれは……自分に対してイラついてただけだから」

 暁斗との関係を進めながらも、覚悟しきれない自分に対して。自分が同僚と呑みに行くのを優先しているのに、暁斗が同じことをしたときに、快く送り出せない自分に対して。大人としての余裕もなく、みっともない自分が恥ずかしい。

「もう、いいじゃないか」

 誤魔化すように、暁斗の唇に自身の唇を重ねた。暁斗の唇は温かい。俺の煙草の臭いが漂って、少し申し訳ない気持ちになったけれど、構わず唇に舌を這わせた。

 暁斗の唇が開いて、舌を絡め取りにくる。膝の上に跨がって、暁斗の胸板に自身の身体を密着させる。暁斗が熱っぽい溜め息をついて、腰に手を回してくる。尻を撫でられて、びくりと腰が揺れた。
 唇を離そうとすると、後頭部を抑えられ、更に深く舌を差し込まれる。くぐもった吐息が奪われて、息が上がっていく。

 身体が火照り始めて、少し動悸が早くなる。角度を何度も変えて、お互いの熱を確かめ合う。身体を寄せあっていれば、小さなすれ違いなどは、些細なことのように思えてくる。

 ようやく、離れた唇から、ふっと熱い溜め息が溢れた。暁斗の欲情して潤んだ瞳に、きゅっと腹の底が締め付けられる。

「佑介、俺のこと、好きですか?」
「暁斗のこと好きだよ」

 暁斗はふっと微笑んで、俺の胸に顔を埋めてくる。小さくはない男に、ぎゅーっと両腕で腰に抱きつかれて、なんとなく大型犬を連想する。
 暁斗の柔らかい髪に指を絡ませながら、こういうのを幸せっていうのだろうか、なんて柄にもないことを考えた。


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