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nao@そのエラー完結

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12月15日(土)

第57話

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「お、うまそー!」

 風呂から上がると、ローテーブルに並べられた夕飯に目が止まった。食卓の前に腰を下ろしていた暁斗は、俺に苦笑いを向けた。

 手作りのミートドリア、シーザーサラダ、野菜スープが彩りも豊かに並んで、相変わらずカフェのようだ。チーズと挽肉の焼けた香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、昼食を抜いた空っぽの腹がぐぅと鳴った。

 男の隣に座って笑顔を向けると、暁斗は少し視線を落とした。いただきます、と手を合わせて温かい食事にありつく。
 コンビニやファミレスで食べるドリアとは違い、手作り特有の優しい味付けに、ほっとする。うまい、と顔を綻ばせて暁斗の腕を肘に押しつけた。暁斗は「よかったです」と寂しげに笑って、自分も食事を始めた。

 しばらくお互いに無言で食べ進めていたが、躊躇いがちに、暁斗がスプーンを置いた。

「俺、何か気に障ること、しましたか?」

 瞬間、身体が強張った。俺の失言は、やはり取り繕うのは難しく、誤魔化すことはできそうになかった。暁斗の暗い顔に、溜め息を吐いた。

「暁斗は何も悪くないから」
「やっぱり重いですか。俺って」
「そんなんじゃない」

 綺麗に整えられた部屋。水カビ一つないバスルーム。ふわふわのバスタオル。華やかに並べられた手料理。そういうものを素直に受け入れられたのは、暁斗と関係を続けるつもりがなかったからかもしれない。

「何かあるなら言ってください」

 暁斗の言葉に観念する。

「俺は家事とか苦手だし、だらしないから、暁斗みたいにできないと思っただけだよ」
「そんなの気にしませんけど」

 俺の言葉に、暁斗は怪訝な顔つきで視線を寄越した。暁斗からすると、きっと、意味がわからないだろうな、と思うと気恥ずかしい。

「だから俺の問題なんだって」

 暁斗にとっては、特別なことではないのだろう。けれど、俺には難しいことを、暁斗は容易くこなしてしまう。ただ一方的に与えられると、気後れしてしまう。この綺麗な部屋を散らかしてしまいそうで。そうして、ある時を境に「疲れたな」というような溜め息を吐かれるのではないか、なんてツマラナイことを考えてしまう。

「課題の共有はしていただけないってことですか?」

 暁斗が無表情で言い放った。

「なんで、そうなるんだよ」

 どこか怒りのようなものを感じて、内心焦る。

「佑介は、はぐらかしてばかりじゃないですか。なんでも一人で自己完結してしまって、俺には何も言ってくれませんよね?」

 暁斗がじっと瞳を射ぬいてくる。スッと血の気が引いて、じんわりと嫌な汗が額に滲んだ。

「嫌われたくないんだよ」
「え?」
「嫌われたくないんだ。暁斗に」

 目を見開く暁斗に、恥ずかしくて思わず顔を背けた。結局、俺の悩みの行き着く先はそれしかない。暁斗に嫌われるんじゃないかと思うと、自分に自信がなくなっていく。

「俺は、暁斗が思うほど大人じゃないし、これから幻滅していくことの方が多いと思うんだ。現に、今、暁斗に不快な思いをさせているだろ?」

 暁斗は何も言わない。呆れてしまっただろうか。しんと静まり返った空間に堪えられずに、顔をあげた。
 暁斗は、じっとこちらを凝視して微動だにしない。

「暁斗?」

 暁斗は俺の頬に手を添えて、唇を重ねてきた。呆気に取られているうちに、何度も唇を重ねられ、だんだん熱くて深いものになっていく。されるがままに、舌を絡ませながら、意味がわからなくて、少し混乱してくる。
 口蓋に舌を這わされて、ゾクゾクと背筋が甘く痺れた。ようやく離れた唇からは、浅い息遣いが漏れだしてくる。暁斗の熱っぽく潤んだ瞳と目があった。

「なに、するんだよ」

 暁斗の手が腰に回されて、そのままラグの上に寝かされた。見下ろしてくる暁斗は、少し困ったように笑う。

「佑介のことを嫌いになるなんて、ないですから」

 暁斗の燃え上がり方は、情熱的で、盲目的で、ある時に、一気に冷めてしまいそうで、少しこわい。そういう、今、考えても仕方のない未来ばかりに気を取られて、目の前の暁斗を蔑ろにしている自覚もある。そんなマイナス思考な自分は好きではなくて、そんな格好悪い自分は、暁斗に嫌われてしまいそうで。

「……ん、」

 暁斗は、なんだかスイッチが入ってしまったらしく、俺のシャツの中に手を滑らせてくる。けれど、肌を重ねるのは暁斗を感じられて、安心するから、こうして流されてしまうのも悪くないかもしれない。つまらない思考を裁ち切るように、暁斗の首に腕を回して、自ら唇を重ね合わせた。



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