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12月17日(月)
第58話
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「おはようございます」
始業時間の直前に、唐突に現れた男に、フロア全体がざわめいた。メンバーたちの頭の上に疑問符が浮かんでいる様が可笑しくて口元が緩んだ。
「おはよう、佐々木くん」
声をかけると、佐々木はぺこりと頭を下げた。無精ぽく伸ばした髪をサッパリと切り、イマドキっぽい黒髪スレートのショートヘア。眼鏡も細身のシルバーのフレームに代えたようでアーモンド型の大きな瞳を引き立たせている。
野暮ったい根暗な男から、急にキレイめなイケメンに姿を変えたことで、注目を集めた佐々木だったが、どうにも居心地の悪さを感じたらしい。仄かに頬を染めると、俯き加減で正面の席にビジネスバッグを置き、足早にグレーのコートを掛けにハンガーラックの前に移動してしまう。
「佐々木さんだったんですね」
俺のディスクの横に立っていた有沢が、驚いたように、小さく呟いた。
「イメチェンしたみたいだね」
「ちょっと驚いちゃいました。佐々木さんは、綺麗な顔してると思っていたんですが、あんなに変わるなんて」
さすが女性は、よく見ているな。俺は先週、佐々木が眼鏡を外したのを見て、ようやく気づいたのだけれど。
「瀬川さん、神戸出張のメンバーを顔で選んだんですかぁ?」
有沢は茶目っ気ぽく含みを持たせて笑いかけてきた。
「あはは、それなら、有沢さんを一番に指名してるよ」
「えー? ホントですか?」
「ホント、ホント」
調子を合わせて受け答えしていれば、有沢も満更でもないのかコロコロと鈴を転がしたように笑い出した。
「瀬川さん」
矢口が斜め前の席から、物言いたげな視線を寄越していた。一応、この手の軽口は相手を見て言うようにはしているが、今のはマズかっただろうかと、思わず有沢を見上げた。
「今のって、セクハラになるかな?」
「そうですね。ギリギリセーフですよ」
有沢は、少し考えた素振りを見せながらも、ふふっと楽しげに笑った。そうして、時計を見上げて、こちらに会釈をすると自席に戻っていく。
ムッとしている矢口の後方を、佐々木が通り過ぎ、俺に軽く会釈をしてから、正面の席に腰かけた。矢口もやはり驚いているようで、見違えたキレイな男を見つめていた。佐々木は、困ったように隣の席の矢口に小首を傾げる。
「何か……変かな」
「いえ、似合っていますよ。サッパリしましたね」
矢口が自分の髪を指差しながら微笑むと、佐々木は照れ臭そうな笑みを溢す。二人のやり取りを見守りながら、一息吐く。
「佐々木くん、急で申し訳ないんだけど、十一時から打合せさせてもらっていいかな」
佐々木に投げかけると、前方の二人が顔を見合わせる。
「あの、俺と佐々木さんでテスト設計書の対面レビューを実施予定です」
佐々木が口を開くより先に、矢口が答えた。
「あ、そうなんだ。じゃあ、四時はどうだろう?」
改めて佐々木に確認する。
「大丈夫です」
少しの間が空いてから、佐々木は、か細い声で答えた。自分の今日のタイムスケジュールを頭の中で組み換えたところで、始業開始のベルが鳴る。それに合わせて立ち上がる。
メンバーの顔を一人一人見渡して、視線が自身に集まっていることが確認できると、笑顔を作る。
「じゃあ、朝のミーティングを始めようか」
始業時間の直前に、唐突に現れた男に、フロア全体がざわめいた。メンバーたちの頭の上に疑問符が浮かんでいる様が可笑しくて口元が緩んだ。
「おはよう、佐々木くん」
声をかけると、佐々木はぺこりと頭を下げた。無精ぽく伸ばした髪をサッパリと切り、イマドキっぽい黒髪スレートのショートヘア。眼鏡も細身のシルバーのフレームに代えたようでアーモンド型の大きな瞳を引き立たせている。
野暮ったい根暗な男から、急にキレイめなイケメンに姿を変えたことで、注目を集めた佐々木だったが、どうにも居心地の悪さを感じたらしい。仄かに頬を染めると、俯き加減で正面の席にビジネスバッグを置き、足早にグレーのコートを掛けにハンガーラックの前に移動してしまう。
「佐々木さんだったんですね」
俺のディスクの横に立っていた有沢が、驚いたように、小さく呟いた。
「イメチェンしたみたいだね」
「ちょっと驚いちゃいました。佐々木さんは、綺麗な顔してると思っていたんですが、あんなに変わるなんて」
さすが女性は、よく見ているな。俺は先週、佐々木が眼鏡を外したのを見て、ようやく気づいたのだけれど。
「瀬川さん、神戸出張のメンバーを顔で選んだんですかぁ?」
有沢は茶目っ気ぽく含みを持たせて笑いかけてきた。
「あはは、それなら、有沢さんを一番に指名してるよ」
「えー? ホントですか?」
「ホント、ホント」
調子を合わせて受け答えしていれば、有沢も満更でもないのかコロコロと鈴を転がしたように笑い出した。
「瀬川さん」
矢口が斜め前の席から、物言いたげな視線を寄越していた。一応、この手の軽口は相手を見て言うようにはしているが、今のはマズかっただろうかと、思わず有沢を見上げた。
「今のって、セクハラになるかな?」
「そうですね。ギリギリセーフですよ」
有沢は、少し考えた素振りを見せながらも、ふふっと楽しげに笑った。そうして、時計を見上げて、こちらに会釈をすると自席に戻っていく。
ムッとしている矢口の後方を、佐々木が通り過ぎ、俺に軽く会釈をしてから、正面の席に腰かけた。矢口もやはり驚いているようで、見違えたキレイな男を見つめていた。佐々木は、困ったように隣の席の矢口に小首を傾げる。
「何か……変かな」
「いえ、似合っていますよ。サッパリしましたね」
矢口が自分の髪を指差しながら微笑むと、佐々木は照れ臭そうな笑みを溢す。二人のやり取りを見守りながら、一息吐く。
「佐々木くん、急で申し訳ないんだけど、十一時から打合せさせてもらっていいかな」
佐々木に投げかけると、前方の二人が顔を見合わせる。
「あの、俺と佐々木さんでテスト設計書の対面レビューを実施予定です」
佐々木が口を開くより先に、矢口が答えた。
「あ、そうなんだ。じゃあ、四時はどうだろう?」
改めて佐々木に確認する。
「大丈夫です」
少しの間が空いてから、佐々木は、か細い声で答えた。自分の今日のタイムスケジュールを頭の中で組み換えたところで、始業開始のベルが鳴る。それに合わせて立ち上がる。
メンバーの顔を一人一人見渡して、視線が自身に集まっていることが確認できると、笑顔を作る。
「じゃあ、朝のミーティングを始めようか」
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