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nao@そのエラー完結

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12月20日(木)

第64話

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「佑介、そろそろ起きた方が」

 肩を揺すられて、重たい瞼を開く。カーテンの隙間からは、清々しい朝の白い光が差し込んでいる。遠くで、ちゅんちゅんと雀の鳴き声が聞こえてきた。

 温かい布団の誘惑を断ち切って起き上がるのは、苦痛でしかない。それでも、今日は平日であることを思い出して、気力を奮い立たせて身体を起こした。あくびを噛み殺しながら、スマホで時間を確認する。
 スウェット姿の暁斗は、シャワーを浴びた後のようで、まだ乾ききっていない髪に、首にはタオルが掛けられていた。

「コーヒー淹れるので、その間にシャワー使ってください」

 朝のシャワーは面倒ではあったが、暁斗が「寝癖ついてますよ」なんて、後頭部を撫でてきたので、やんわりと手を振り払って、ベッドから起き上がった。

 やはり身体の節々、主に腕や股関節が鈍く痛み、アナルは何かが挟まっているような違和感が拭えない。本当は、昨夜は準備もしていなかったので、アナルプレイまでするつもりはなかった。粗相してないか気になったが、なるべくそのことを考えないようにして、バスルームに足を向けた。

 熱めのシャワーを浴びながら、鏡に映った胸元を見ると、赤い痣が二つ付いていた。昨夜、風呂に入ったときは気がつかなかったが、どう見てもキスマークだ。
 もう付けないと約束したはずなのに。そう思いながら、小さく溜め息を吐いた。

 脱衣所から出ると、香ばしいコーヒーの匂いが鼻孔を擽る。暁斗が豆から挽いた、淹れたてのコーヒーをマグカップに注ぎ、ローテーブルに並べてくれた。
 サイフォンで本格的に淹れたコーヒーは癖になりそうな深みとトゲのないまろやかさで、思わず顔が綻ぶ。
 ふっと息を吐いて、暁斗に視線を投げた。暁斗は、両手で持ったマグカップをぼんやりと眺めていた。心ここにあらずと言った雰囲気に、暁斗の顔を覗き込む。

「どうかしたのか?」
「いえ、」

 暁斗は、やんわりと笑いながらも、再びマグカップに視線を落とした。

「今週末、一緒にいてくれるんですか?」
「あ、ああ、」
「どこか出かけたりしますか?」

 昨夜、居酒屋で手を握りあったときに、隣の男が噎せていた映像が脳裏を過った。

「ここで、いいんじゃないか?」

 暁斗は、薄く微笑んで、マグカップに口をつけた。

「そうですね。じゃあ、俺が何か美味いもの作りますよ」
「あ、負担だったら、外食でも」
「いえ、大丈夫ですよ。前にもいいましたけど、料理するのが好きなので」

 会話はそれきりで、キスマークのことを言おうかと思ったが、なんとなく言い出せず、暁斗の整った鼻筋を盗み見ながら、黙ってコーヒーを飲んだ。

 暁斗は相変わらず甲斐甲斐しく、洗濯済みのYシャツと靴下を出してくれる。昨日と同じシャツにネクタイを結ぼうとすると、暁斗がクローゼットから、ネクタイを一本取り出して、差し出してきた。 

「ネクタイは代えませんか?これ、俺は使ったことないので、よかったらもらってください」
 
 光沢のある黒ベースに、白いドット柄のネクタイは、少しカジュアルな気もしたが、ありがたく借りることにした。堅苦しいジャケットを羽織ると、自然と頭が仕事モードに切り替わる。

 スマホで時間を確認する。いつも通りの時間に出社するなら、そろそろ暁斗の部屋から出なければならない。暁斗は、まだスウェットのままで、キッチンでコーヒーメーカーを手洗いしていた。

「俺は、もう出るけど」
「ええ、はい。俺は、部屋を片付けてから出るので、先に出勤してください」

 暁斗は、俺に目を合わせない。少し気にかかったけれど、コートを羽織って、暁斗の部屋を後にした。

 早朝の電車に乗り込んで、つり革に掴まる。なんとはなしに、窓上ポスターを眺めた。ショッピングモールのバーゲンの広告は、華やかな赤と緑の配色に、Merry Xmasの文字が踊る。

「あ、クリスマスか」

 思わず、口から独り言が溢れ落ちた。今週末は、三連休で、祝日の振り返り休日。クリスマスイブであることを思い出した。
 ここ数年はクリスマスは仕事をして過ごしていたし、恋人もいない独り者だからと、あまり意識しないように努めてきた。

 締められた黒いネクタイに視線を落とす。暁斗に、何かプレゼントを用意した方がいいだろうか。なんだか、恋人っぽいことを考えて、暁斗は恋人なんだと、思い直すと、少し気恥ずかしくて、口元がゆるんだ。



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