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12月21日(金)
第66話
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「本日を持ちまして、Yシステムの結合テストフェーズは完了となりました。期限内になんとか完了できたのは、みなさんの多大なご尽力のおかげです。来月からは佐々木くんと矢口くんと共に、神戸でリリースを行ってきます。また、一緒に仕事をしましょう! それでは、乾杯!」
乾杯の音頭を取って、ビールジョッキを掲げる。各々がジョッキ同士をぶつけ合いながら、打ち上げが始まった。
今回の打ち上げは、離脱するメンバーを労うのが目的だった。席を何度か移動しながら、一人一人に酌をしていく。あまり量が呑めないので、酒好きというわけではなかったが、飲み会の雰囲気は好きだと思う。
「佐々木さんって、どうしてイメチェンしたんですか?」
「……えっと、その、」
隣に座る有沢がキラキラと好奇の色で、斜め向かいの佐々木を見つめる。他のメンバーも気になっていたようで、自然と佐々木に注目が集まった。佐々木はみるみる顔を赤くしていく。
「俺の上司命令だよ」
一気に注目が俺に集まる。
「来月から客先に行くわけだし、俺が佐々木くんに『気合い入れて髪短くしてこい!』って強制させたんだ」
と、いうことにしておこう。 佐々木は、彼等の想像以上に勇気を振り絞って、隠していた顔を晒しているはずだから、からかわれるのは心が痛む。
「えーそれ、パワハラじゃないですか?」
有沢が冗談めかしてツッコミを入れてきたので、素っ恍ける。
「え! そうなのか? 佐々木くん、ごめんな」
「……い、いえ、」
佐々木は、顔を赤らめながらも首を横に振った。他のメンバーたちが、佐々木を品定めするように観察して、言葉を継ぐ。
「それにしても、佐々木さんって、女の子みたいに綺麗な顔してたんですねー」
「有沢さんよりカワイイんじゃないか?」
酔ってヘラヘラと悪意がなさそうに笑う男たちに、佐々木は苦痛そうに顔を歪めて俯いた。
「フツーそういうこと言いますか?」
有沢の一言で、ピリリと空気が張り詰めた。有沢は笑顔を作りながらも、抑えきれない明確な怒りを瞳に宿していた。
「まあ、有沢さんも佐々木くんも、俺の可愛さには敵わないけどな!」
頬に手を当てて、にっこりと微笑んで、もう一度、俺に注目を集めておく。
「ないわー!」
「きもちわる!」
ドッと空気が沸いて、ケラケラと笑い声が響いた。
「えー? 前は、みんな俺のこと『可愛い』とか『ゆうちゃん』って言ってくれてたのにー?」
「あーはいはい、ゆうちゃんは可愛いですよ」
ヒラヒラと面倒臭そうに手を振られる。そうして、また、笑われる。
誰かが嫌な気持ちで、この飲み会が終わるのは避けたかったので、有沢と佐々木がクスクス笑っているのを確認して、安堵する。
ドンッと音がして、横目で反対側の端の席に目をやると、矢口がグラスをテーブルに置いて、立ち上がっていた。言葉少なに大人しく呑んでいた矢口は、宴会場を離れていく。
トイレにでも行くのだろうか。その姿を目で追ってしまう。
「矢口さん、最近、少しおかしくないですか?」
隣に座る有沢が小声で俺に訊ねてくる。
「そうかな?」
「矢口さんと何かありました? なんがた最近、瀬川さんと話さなくなりましたよね」
「矢口くんには、佐々木くんとペアの仕事を任せているから、俺と話す機会が減っているだけだよ」
有沢は、そうですか、と納得していなさそうに眉を寄せた。
有沢に指摘されて、内心ドキリとした。矢口とは目が合わない。それだけではなく、矢口から話しかけてくることがなくなった。俺から声をかければ、応えるが、会話が続かない。必要最低限で済ませようとされている。
仕事は問題なく進められているので、なるべく気にしないようにしていたが、やはり、第三者の目から見ても、俺たちは、ぎこちなく映っているらしい。
この場の話題が代わっていることを確認して、席を立つ。有沢に「どこに行くんですか?」と訊ねられたので、微笑んだ。
「ちょっと、お手洗いに行ってくるよ」
乾杯の音頭を取って、ビールジョッキを掲げる。各々がジョッキ同士をぶつけ合いながら、打ち上げが始まった。
今回の打ち上げは、離脱するメンバーを労うのが目的だった。席を何度か移動しながら、一人一人に酌をしていく。あまり量が呑めないので、酒好きというわけではなかったが、飲み会の雰囲気は好きだと思う。
「佐々木さんって、どうしてイメチェンしたんですか?」
「……えっと、その、」
隣に座る有沢がキラキラと好奇の色で、斜め向かいの佐々木を見つめる。他のメンバーも気になっていたようで、自然と佐々木に注目が集まった。佐々木はみるみる顔を赤くしていく。
「俺の上司命令だよ」
一気に注目が俺に集まる。
「来月から客先に行くわけだし、俺が佐々木くんに『気合い入れて髪短くしてこい!』って強制させたんだ」
と、いうことにしておこう。 佐々木は、彼等の想像以上に勇気を振り絞って、隠していた顔を晒しているはずだから、からかわれるのは心が痛む。
「えーそれ、パワハラじゃないですか?」
有沢が冗談めかしてツッコミを入れてきたので、素っ恍ける。
「え! そうなのか? 佐々木くん、ごめんな」
「……い、いえ、」
佐々木は、顔を赤らめながらも首を横に振った。他のメンバーたちが、佐々木を品定めするように観察して、言葉を継ぐ。
「それにしても、佐々木さんって、女の子みたいに綺麗な顔してたんですねー」
「有沢さんよりカワイイんじゃないか?」
酔ってヘラヘラと悪意がなさそうに笑う男たちに、佐々木は苦痛そうに顔を歪めて俯いた。
「フツーそういうこと言いますか?」
有沢の一言で、ピリリと空気が張り詰めた。有沢は笑顔を作りながらも、抑えきれない明確な怒りを瞳に宿していた。
「まあ、有沢さんも佐々木くんも、俺の可愛さには敵わないけどな!」
頬に手を当てて、にっこりと微笑んで、もう一度、俺に注目を集めておく。
「ないわー!」
「きもちわる!」
ドッと空気が沸いて、ケラケラと笑い声が響いた。
「えー? 前は、みんな俺のこと『可愛い』とか『ゆうちゃん』って言ってくれてたのにー?」
「あーはいはい、ゆうちゃんは可愛いですよ」
ヒラヒラと面倒臭そうに手を振られる。そうして、また、笑われる。
誰かが嫌な気持ちで、この飲み会が終わるのは避けたかったので、有沢と佐々木がクスクス笑っているのを確認して、安堵する。
ドンッと音がして、横目で反対側の端の席に目をやると、矢口がグラスをテーブルに置いて、立ち上がっていた。言葉少なに大人しく呑んでいた矢口は、宴会場を離れていく。
トイレにでも行くのだろうか。その姿を目で追ってしまう。
「矢口さん、最近、少しおかしくないですか?」
隣に座る有沢が小声で俺に訊ねてくる。
「そうかな?」
「矢口さんと何かありました? なんがた最近、瀬川さんと話さなくなりましたよね」
「矢口くんには、佐々木くんとペアの仕事を任せているから、俺と話す機会が減っているだけだよ」
有沢は、そうですか、と納得していなさそうに眉を寄せた。
有沢に指摘されて、内心ドキリとした。矢口とは目が合わない。それだけではなく、矢口から話しかけてくることがなくなった。俺から声をかければ、応えるが、会話が続かない。必要最低限で済ませようとされている。
仕事は問題なく進められているので、なるべく気にしないようにしていたが、やはり、第三者の目から見ても、俺たちは、ぎこちなく映っているらしい。
この場の話題が代わっていることを確認して、席を立つ。有沢に「どこに行くんですか?」と訊ねられたので、微笑んだ。
「ちょっと、お手洗いに行ってくるよ」
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