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12月21日(金)
第67話
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居酒屋の最奥に「お手洗い」の文字を見つけると、鍵がかけられた扉を確認し、対面にある壁に背中を預けて、先客が出てくるのをしばし待った。
「ああ、矢口くん」
扉を開けて出てくる男に、声をかける。矢口はゆっくりと顔をあげた。浮かない顔、というより、少し青白く、どこか疲れを感じさせる顔をしていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
矢口は俺に場所を譲るように、扉の前から退くと、すれ違おうとする。逃げようとする、その腕を掴んだ。
「俺、何かしたか?」
「いいえ」
矢口は視線を合わせない。
「課題の共有はしてくれないのか?」
微笑みながら、以前、自身に向けられた言葉を、そのまま返した。矢口は目を瞑って、しばらく考えあねぐる。
「少し、一人で考えたくて」
「…………そうか、」
俺に視線を寄越して、苦し気に笑う。そんなことを言われてしまえば、掴んだ腕を離すしかない。
「体調も悪いので、今日は、もう帰えらせていただいても?」
「ああ、本当に大丈夫か?」
矢口は小さく頷いた。具合が悪そうに見えなくもないが、それよりも、この場に居たくない、という雰囲気をヒシヒシと感じる。
「明日は、何時に行けばいい?」
「すみません、明日は、予定があるので」
一瞬、気が遠退いた。週末に会う約束も反故にされるのか。思わず溜め息が溢れてしまう。
「明後日、会えませんか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
矢口が少し焦りの色を出して顔をあげたので、笑顔をつくった。けれど、上手く笑えずに、たぶん、少し、ぎこちない。
小さく会釈して、立ち去ろうとした男の腕を、再度掴んだ。
「瀬川さん……?」
少し動揺している矢口に構わず、空いたトイレに連れ込んで、鍵を閉める。
「ちょっとだけ、いいだろ?」
首に腕を回して、暁斗のブラウンの瞳を覗き込むと、そっと、唇を重ね合わせた。触れ合わせた男の唇は、いつになく、ひんやりと冷たい。角度を変えて、もう一度、唇を重ね合わせる。けれど、暁斗の手は、そっと俺の胸を押した。そうして、暁斗は、苦痛そうに眉を寄せて、顔を逸らした。
「すみません」
眼前の男は、首に回された腕を振りほどいて、扉を開き、この場から立ち去っていく。一人置き去りにされた俺は、男の背中を追うこともできず、呆然とするしかない。
すみません、ってなんだよ。
溜め息を吐いて、扉に鍵をかけると、洋式の便座に腰を下ろし、天を仰いだ。
口元を手の甲で抑えた。キスを拒まれたのは、思いのほか、堪えた。
暁斗が悩んでいる理由はいくつか考えられたが、本人が話してくれなければ、わからない。この関係を続けるために悩んでいるのだろうか。それとも、終わらせるために悩んでいるのだろうか。
追いかける恋愛ではなくなって、俺が暁斗の気持ちに応えたから、急に熱が醒めてしまったのだろうか。男同士で何やってるんだ、なんて正気に戻ってしまったのだろうか。いいや、それとも、俺の欠点を、嫌な部分を、見つけてしまっただろうか。
それでも、今ここで、別れを切り出されたわけではない。
そう思い直して、立ち上がる。鏡に向かって、笑いかけ、笑顔の出来映えを確認する。瀬川佑介らしい笑顔をつくれているだろうか。
まだ、宴会は続いているのだから。
「ああ、矢口くん」
扉を開けて出てくる男に、声をかける。矢口はゆっくりと顔をあげた。浮かない顔、というより、少し青白く、どこか疲れを感じさせる顔をしていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
矢口は俺に場所を譲るように、扉の前から退くと、すれ違おうとする。逃げようとする、その腕を掴んだ。
「俺、何かしたか?」
「いいえ」
矢口は視線を合わせない。
「課題の共有はしてくれないのか?」
微笑みながら、以前、自身に向けられた言葉を、そのまま返した。矢口は目を瞑って、しばらく考えあねぐる。
「少し、一人で考えたくて」
「…………そうか、」
俺に視線を寄越して、苦し気に笑う。そんなことを言われてしまえば、掴んだ腕を離すしかない。
「体調も悪いので、今日は、もう帰えらせていただいても?」
「ああ、本当に大丈夫か?」
矢口は小さく頷いた。具合が悪そうに見えなくもないが、それよりも、この場に居たくない、という雰囲気をヒシヒシと感じる。
「明日は、何時に行けばいい?」
「すみません、明日は、予定があるので」
一瞬、気が遠退いた。週末に会う約束も反故にされるのか。思わず溜め息が溢れてしまう。
「明後日、会えませんか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
矢口が少し焦りの色を出して顔をあげたので、笑顔をつくった。けれど、上手く笑えずに、たぶん、少し、ぎこちない。
小さく会釈して、立ち去ろうとした男の腕を、再度掴んだ。
「瀬川さん……?」
少し動揺している矢口に構わず、空いたトイレに連れ込んで、鍵を閉める。
「ちょっとだけ、いいだろ?」
首に腕を回して、暁斗のブラウンの瞳を覗き込むと、そっと、唇を重ね合わせた。触れ合わせた男の唇は、いつになく、ひんやりと冷たい。角度を変えて、もう一度、唇を重ね合わせる。けれど、暁斗の手は、そっと俺の胸を押した。そうして、暁斗は、苦痛そうに眉を寄せて、顔を逸らした。
「すみません」
眼前の男は、首に回された腕を振りほどいて、扉を開き、この場から立ち去っていく。一人置き去りにされた俺は、男の背中を追うこともできず、呆然とするしかない。
すみません、ってなんだよ。
溜め息を吐いて、扉に鍵をかけると、洋式の便座に腰を下ろし、天を仰いだ。
口元を手の甲で抑えた。キスを拒まれたのは、思いのほか、堪えた。
暁斗が悩んでいる理由はいくつか考えられたが、本人が話してくれなければ、わからない。この関係を続けるために悩んでいるのだろうか。それとも、終わらせるために悩んでいるのだろうか。
追いかける恋愛ではなくなって、俺が暁斗の気持ちに応えたから、急に熱が醒めてしまったのだろうか。男同士で何やってるんだ、なんて正気に戻ってしまったのだろうか。いいや、それとも、俺の欠点を、嫌な部分を、見つけてしまっただろうか。
それでも、今ここで、別れを切り出されたわけではない。
そう思い直して、立ち上がる。鏡に向かって、笑いかけ、笑顔の出来映えを確認する。瀬川佑介らしい笑顔をつくれているだろうか。
まだ、宴会は続いているのだから。
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