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12月25日(火)
第81話
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会社近くの定食屋で、矢口と二人で夕飯を採ることにした。
矢口は妙に上機嫌で、よくしゃべるものだから、俺は相槌を打ちながら、鰤の照焼を口に放り込んでいった。それでも、アルコールのない食事は直ぐにでも終わってしまう。混雑する店内で長居するのは悪い気がして、早々に会計を済ませた。
店内の暖かい空気に慣れた身体では、冬の夜風は冷たすぎて、ぶるりと身震いする。マフラーを首に巻いて、口元まで覆う。
腕時計を見れば、まだ九時前だった。「じゃあ、帰るか?」なんて、矢口に笑いかけて、品川駅の方に足を向けると、少し強く腕を掴まれた。振り返ると、照れ臭そうに微笑んだ「暁斗」がいる。
「あの、少し歩きませんか?」
「歩くって?」
「少しだけ、付き合ってくれませんか?」
冬の夜。会社帰りに散歩なんて、と思わなくもなかったが、暁斗が「本当に少しだけですから」なんて言い張るし、腕を引いてくる暁斗の力が強かったので、根負けして散歩に付き合うことにした。
けれど、散歩に誘ったきた癖に、暁斗は口数も少なくて静かなものだった。目的地を尋ねても「遠くありませんから」なんてはぐらかされる。
まさかホテルに向かっていたりしないよな。なんて思い当たって首をすくめた。
幾らなんでも、こんな会社の近くのホテルを選ぶわけないよな。昨日、あんなにしたのに、今日もなんて無理だぞ。いや、こんな言い方だと誤解されかねない。暁斗とするのがイヤなわけではないが、まだ身体が回復してないから困る。ああ、でも、どうしても、暁斗がしたいというのなら……抜き合うとか、フェラだけなら。
そんな取り纏めもないことが、頭の中にグルグルと回り出す。
歩いて二十分程だろうか。寒さと緊張で、背中が丸まり、俯き加減で歩いていると、不意に暁斗が立ち止まった。
男に合わせるように立ち止まって、顔を上げると、視界いっぱいにピンク色が広がっていて、面食らう。
目黒川沿いの並木は、桃色に染まっていて、どこまでも続いているようだった。よくよく見れば、葉の落ちた冬木の枝の一本一本に、小さな電飾が絡み付いて、それがいくつも重なって桃色のイルミネーションを造り出している。
「意外と空いていますね」
暁斗は疎らな人混みに嬉しそうに笑うと、電飾で彩られた木々を見上げた。その微笑んだ横顔がやんわりと桜色に染まり、ドキリとした。
川の方から吹き込んでくる夜風は冷たいのに、春めいた暖色のためか、胸の奥に仄かに熱を帯び、不思議と温かく感じる。
暁斗の横顔に見惚れてしまったことを誤魔化すように、俺も電飾の花が咲き誇る冬木を見上げた。
「桜みたいだな」
「ええ。桜の木にLEDの電飾をつけているらしいです」
暁斗は電飾の桜を見上げながら、目を細めて、このイルミネーションを解説してくれた。人工的な桜は、自然の桜よりも鮮やかで、華やかで、都会らしい。
「綺麗だな。まさか冬にお花見ができるとは思わなかったよ」
「春になったら、本物の夜桜を見たいですね」
「ああ、そうだな」
真冬に狂い咲いた桜を見上げなから頷くと、ぐいっと腕を引かれた。
「約束ですよ」
暁斗の瞳があまりにも真剣なものだから、なんだか気恥ずかしくて、誤魔化すように笑ってしまった。
矢口は妙に上機嫌で、よくしゃべるものだから、俺は相槌を打ちながら、鰤の照焼を口に放り込んでいった。それでも、アルコールのない食事は直ぐにでも終わってしまう。混雑する店内で長居するのは悪い気がして、早々に会計を済ませた。
店内の暖かい空気に慣れた身体では、冬の夜風は冷たすぎて、ぶるりと身震いする。マフラーを首に巻いて、口元まで覆う。
腕時計を見れば、まだ九時前だった。「じゃあ、帰るか?」なんて、矢口に笑いかけて、品川駅の方に足を向けると、少し強く腕を掴まれた。振り返ると、照れ臭そうに微笑んだ「暁斗」がいる。
「あの、少し歩きませんか?」
「歩くって?」
「少しだけ、付き合ってくれませんか?」
冬の夜。会社帰りに散歩なんて、と思わなくもなかったが、暁斗が「本当に少しだけですから」なんて言い張るし、腕を引いてくる暁斗の力が強かったので、根負けして散歩に付き合うことにした。
けれど、散歩に誘ったきた癖に、暁斗は口数も少なくて静かなものだった。目的地を尋ねても「遠くありませんから」なんてはぐらかされる。
まさかホテルに向かっていたりしないよな。なんて思い当たって首をすくめた。
幾らなんでも、こんな会社の近くのホテルを選ぶわけないよな。昨日、あんなにしたのに、今日もなんて無理だぞ。いや、こんな言い方だと誤解されかねない。暁斗とするのがイヤなわけではないが、まだ身体が回復してないから困る。ああ、でも、どうしても、暁斗がしたいというのなら……抜き合うとか、フェラだけなら。
そんな取り纏めもないことが、頭の中にグルグルと回り出す。
歩いて二十分程だろうか。寒さと緊張で、背中が丸まり、俯き加減で歩いていると、不意に暁斗が立ち止まった。
男に合わせるように立ち止まって、顔を上げると、視界いっぱいにピンク色が広がっていて、面食らう。
目黒川沿いの並木は、桃色に染まっていて、どこまでも続いているようだった。よくよく見れば、葉の落ちた冬木の枝の一本一本に、小さな電飾が絡み付いて、それがいくつも重なって桃色のイルミネーションを造り出している。
「意外と空いていますね」
暁斗は疎らな人混みに嬉しそうに笑うと、電飾で彩られた木々を見上げた。その微笑んだ横顔がやんわりと桜色に染まり、ドキリとした。
川の方から吹き込んでくる夜風は冷たいのに、春めいた暖色のためか、胸の奥に仄かに熱を帯び、不思議と温かく感じる。
暁斗の横顔に見惚れてしまったことを誤魔化すように、俺も電飾の花が咲き誇る冬木を見上げた。
「桜みたいだな」
「ええ。桜の木にLEDの電飾をつけているらしいです」
暁斗は電飾の桜を見上げながら、目を細めて、このイルミネーションを解説してくれた。人工的な桜は、自然の桜よりも鮮やかで、華やかで、都会らしい。
「綺麗だな。まさか冬にお花見ができるとは思わなかったよ」
「春になったら、本物の夜桜を見たいですね」
「ああ、そうだな」
真冬に狂い咲いた桜を見上げなから頷くと、ぐいっと腕を引かれた。
「約束ですよ」
暁斗の瞳があまりにも真剣なものだから、なんだか気恥ずかしくて、誤魔化すように笑ってしまった。
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