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nao@そのエラー完結

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12月28日(金)

第83話

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「瀬川くんって、家事が全然できないんだよ。部屋はモノが散乱してて汚いし、食事もコンビニ弁当とかカップ麺ばっかりだろ?……だから、たまに俺が夕飯作ってやってたんだよ」

 こちらに笑みを向けてくる細川リーダーに、笑みを返しながらも、手の平に嫌な汗が滲む。

「そうですね。その節はお世話になりました」

 細川リーダーは「一人で食べるのは味気ないから」と、よく食事に誘ってくれた。二人で飲み行くことも多かったけれど、部屋にも呼んでくれて、如何にも男の料理という感じの手料理を振る舞ってくれた。野菜炒めや鍋料理など、大味なものが多かったが「ちゃんと野菜も食べろよ」と、出される料理には具沢山の野菜が投入されていたことを思い出した。
 細川リーダーの奥さんが俺の食生活を心配してくれていたように思っていたけれど、細川リーダー自身も俺のことを心配してくれていたのだろうか。

「瀬川くんって本当にポンコツなんだよ。『米をといでくれ』って頼んだら、頭をかきながらスマホで検索し始めて……」

 有沢が、ぶっと吹き出した。気をよくした細川リーダーは、言葉を弾ませる。

「それで、ようやく米をといだと思ったら、今度は、じぃっと炊飯器を睨み付けて動かないんだよ。それで、神妙な顔で『炊飯器の取説はありませんか?』なんて聞いてきて、俺、腹抱えて笑っちゃったよ」

 わかった。細川リーダーは俺のことを心配してくれていたんじゃない。面白がっていたんだ。

 細川リーダーは、やや大袈裟に話を盛りながら笑っている。矢口は、俺に後頭部を向けたまま固まっていて、どんな表情をしているのか窺い知れない。

 家事スキルの高い矢口からすると、俺の不甲斐なさは絶句ものだろう。呆れられている気がして、居たたまれずに目を伏せるしかない。

「瀬川さんって『男子厨房に入らず』の世代でしたっけ?」
「有沢さんは、手厳しいな」

 有沢も愉しそうに笑いながら「家事のできない男など前時代的だ」と揶揄してくる。

「それで、少しは自炊できるようになったのか?」
「あ、いえ……」

 片眉を上げながら、細川リーダーに覗き込まれた。

「瀬川さんのことは、俺がちゃんと面倒見るので、安心してください」

 沈黙していた矢口が低い声で言い放った。そうして、テーブルの下で、矢口の手の甲が太股に押し付けられて、息を呑む。

「あはは、瀬川くん、カワイイ後輩が面倒見てくれるってさ。よかったな」

 細川リーダーは、肩を震わせて笑い出して、矢口は俺の足から手を離して、再び黙った。頭痛がしてきて、目元を手で覆う。

「瀬川さんって、料理上手な彼女さんがいるんですよね? 神戸に来てもらえばいいんじゃないですか?」
「有沢さん、ちょっと、声大きいから」

 妙案と言わんばかりに、有沢が声を上げた。男ばかりの低い声の中、女性の高い声はよく通り、周囲の同僚たちがこちらに視線を寄越して、自然と注目が集まる。

「彼女?」

 矢口が怪訝な顔で振り返った。

「矢口さん、知らないんですか? 瀬川さんには素敵な彼女さんがいるんですよ!」
「そうだったな。美人でカワイイ自慢の彼女ができたんだったけ?」

 有沢が、俺の右手の指輪を指差して矢口に笑いかける。カァと顔が熱くなる。

「ああ、そうなんですか。おめでとうございます」

 顔を上げると、矢口が動揺したように眉を寄せて、俺から目を逸らした。

 どうしようか。恥ずかしくて、死にたい。



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