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12月28日(金)
第84話
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忘年会が終わって店を出ると、一旦解散となった。「よいお年を」と姿を消していく者や「二次会に行くやつはこっち」と仕切る者など様々だ。少し前までは、俺も率先して二次会を仕切っていたが、最近では若手社員にその座を譲って、彼等を見守る側に回ってしまった。居酒屋の前で各々の動向を窺っていると、軽く腕を引かれる。
「瀬川さん、この後、どうしますか?」
聞き慣れた矢口の声に、前を向いたまま、二次会組の参加メンバーを確認する。
「このまま二次会に行くつもりだけど」
彼等が次の店を向けて、動き出す。釣られるように足を踏み出すと、腕を強く引かれた。
「あの、二人で……」
振り返ると、矢口が何か口ごもるように言葉を発していた。けれど、周囲の喧騒で、よく聞き取れず「なんだ?」と聞き返しているうちに、矢口の背後にあった居酒屋のドアが開き、暖簾を掻き分けるようにして篠田PMが顔を覗かせた。
「お、瀬川くん」
にこりと微笑んだ第二グループのボスに、笑みを返して会釈する。矢口が俺の腕を離して、篠田マネージャーに道を譲った。
「この後、いつもの店に寄ろうと思うんだけど、瀬川くんは行けるかい?」
「はい。俺でよければ、ご一緒させてください。……あれ? 細川さんは?」
見渡しても細川リーダーの姿は見つけられなかった。
俺の中では、篠田マネージャーと細川リーダーはニコイチだ。飲み会ではいつも、篠田マネージャーは一次会まで参加するが、その後は、細川リーダーと適当な誰かを連れて、馴染みのクラブに向かうスタイルが基本である。飲み会の中心は若い連中なのだから、自分のような年長者が参加しては気を使うだろう、と二次会以降は遠慮しているようだった。
そうすると自然と細川リーダーや他のリーダークラスに声がかかる。
役付きの立場として、部下たちに対する配慮なのだろう。いや、それとも、単純に少人数で飲みたい、というのが本音かもしれないが。
「ほら、細川くんは奥さんがおめでただろ? それで今日は断られてしまってね」
「あーなるほど」
腹を擦る仕草で、篠田マネージャーは細川家の事情を伝えてきた。けれど、矢口には上手く伝わらなかったようで、曖昧な笑みを浮かべている。
「矢口くんも来るかい?」
「よろしいんですか?」
「ああ、イケメンを連れて行けば、ママも喜ぶだろうからな」
篠田マネージャーは満足そうに笑って、スマホを取り出すと、俺たちに背を向けるようにして、クラブのママに電話をかけ始めた。
「ゆうちゃん、二次会は行かないのか?」
二次会組の最後尾の先輩が、立ち止まっている俺たちに気付いたようで、顔だけ振り返ると、怪訝な視線を寄越した。
「すみません、先約が」
苦笑いして電話をかけている篠田マネージャーの背中を、こっそりと指差すと、納得した顔で頷いた。
「矢口くんも?」
「すみません」
「了解。よいお年を」
先輩は軽く手を振ると、第二グループの群れの中に溶け込んで、眩いネオン街の方に消えていく。
その後ろ姿が見えなくなった頃、篠田マネージャーが笑みを浮かべて振り返る。年の瀬のこの時期は、夜の店はどこも混み合う。けれど、運良く篠田マネージャーの懇意にしているクラブは入店可能らしかった。
「悪いな、おっさんに付き合わせて」
「いえ、そんな」
篠田マネージャーが、俯いていた矢口の肩を軽く叩いた。矢口は少し慌てたように笑顔をつくった。
篠田マネージャーが店の方に足を向ける。それに連れられるように矢口と肩を並べて歩き出す。
矢口はやはり俯き加減で、押し黙り、じっと足元を見つめていた。その浮かない横顔が少し気になって、肘で軽く矢口の腕を突いた。
「どうかしたのか?」
矢口は困ったように笑みを向けて、小さく首を横に振った。
「瀬川さん、この後、どうしますか?」
聞き慣れた矢口の声に、前を向いたまま、二次会組の参加メンバーを確認する。
「このまま二次会に行くつもりだけど」
彼等が次の店を向けて、動き出す。釣られるように足を踏み出すと、腕を強く引かれた。
「あの、二人で……」
振り返ると、矢口が何か口ごもるように言葉を発していた。けれど、周囲の喧騒で、よく聞き取れず「なんだ?」と聞き返しているうちに、矢口の背後にあった居酒屋のドアが開き、暖簾を掻き分けるようにして篠田PMが顔を覗かせた。
「お、瀬川くん」
にこりと微笑んだ第二グループのボスに、笑みを返して会釈する。矢口が俺の腕を離して、篠田マネージャーに道を譲った。
「この後、いつもの店に寄ろうと思うんだけど、瀬川くんは行けるかい?」
「はい。俺でよければ、ご一緒させてください。……あれ? 細川さんは?」
見渡しても細川リーダーの姿は見つけられなかった。
俺の中では、篠田マネージャーと細川リーダーはニコイチだ。飲み会ではいつも、篠田マネージャーは一次会まで参加するが、その後は、細川リーダーと適当な誰かを連れて、馴染みのクラブに向かうスタイルが基本である。飲み会の中心は若い連中なのだから、自分のような年長者が参加しては気を使うだろう、と二次会以降は遠慮しているようだった。
そうすると自然と細川リーダーや他のリーダークラスに声がかかる。
役付きの立場として、部下たちに対する配慮なのだろう。いや、それとも、単純に少人数で飲みたい、というのが本音かもしれないが。
「ほら、細川くんは奥さんがおめでただろ? それで今日は断られてしまってね」
「あーなるほど」
腹を擦る仕草で、篠田マネージャーは細川家の事情を伝えてきた。けれど、矢口には上手く伝わらなかったようで、曖昧な笑みを浮かべている。
「矢口くんも来るかい?」
「よろしいんですか?」
「ああ、イケメンを連れて行けば、ママも喜ぶだろうからな」
篠田マネージャーは満足そうに笑って、スマホを取り出すと、俺たちに背を向けるようにして、クラブのママに電話をかけ始めた。
「ゆうちゃん、二次会は行かないのか?」
二次会組の最後尾の先輩が、立ち止まっている俺たちに気付いたようで、顔だけ振り返ると、怪訝な視線を寄越した。
「すみません、先約が」
苦笑いして電話をかけている篠田マネージャーの背中を、こっそりと指差すと、納得した顔で頷いた。
「矢口くんも?」
「すみません」
「了解。よいお年を」
先輩は軽く手を振ると、第二グループの群れの中に溶け込んで、眩いネオン街の方に消えていく。
その後ろ姿が見えなくなった頃、篠田マネージャーが笑みを浮かべて振り返る。年の瀬のこの時期は、夜の店はどこも混み合う。けれど、運良く篠田マネージャーの懇意にしているクラブは入店可能らしかった。
「悪いな、おっさんに付き合わせて」
「いえ、そんな」
篠田マネージャーが、俯いていた矢口の肩を軽く叩いた。矢口は少し慌てたように笑顔をつくった。
篠田マネージャーが店の方に足を向ける。それに連れられるように矢口と肩を並べて歩き出す。
矢口はやはり俯き加減で、押し黙り、じっと足元を見つめていた。その浮かない横顔が少し気になって、肘で軽く矢口の腕を突いた。
「どうかしたのか?」
矢口は困ったように笑みを向けて、小さく首を横に振った。
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