そのエラーはハンドリングできません

nao@そのエラー完結

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12月28日(金)

第87話

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「まあ、瀬川くんと神戸で練習してみて、出れそうなら来春のコンペの参加を検討してみてくれよ」

 篠田マネージャーの上機嫌な声が耳に入りながらも、矢口の嘘臭い笑顔から目が離せないでいた。

「本気なのか? ゴルフ用品を揃えるのも結構かかるし、無理するなよ」
「父がゴルフを趣味にしているので、実家に道具は揃ってますよ」

 笑顔を張り付けたまま、ハッキリとした物言いで矢口は応える。「でも、」と言いかけたところで、篠田マネージャーが口を挟んだ。

「そうだな、矢口くんも、いずれは営業に進むつもりなら、ゴルフはマストではないけど、嗜む程度にできた方が、ベターかもしれないな」

 きゅっと胸の奥が締め付けられた。

「営業に、興味があるのか?」

 矢口は息を飲んで、俺から視線を逸らした。俺たちの様子に、篠田マネージャーは片眉を上げて、気まずそうに苦笑いする。

「もしかして、瀬川くんは知らなかったのか?不味かったかい?」
「あの、今は営業には、あまり興味はなくて、エンジニアでやっていこうと思っていますよ」

 矢口は少しだけ声を上ずらせて、篠田マネージャーに返答した。

「まあ、矢口くんは、まだ若いからね。また気が変わることもあるだろうから、その時は、いつでも相談に乗るからな」

 眩暈がして、目元を手で覆う。まだ何か矢口と篠田マネージャーが会話を続けていたけれど、キーンと耳鳴りがして音が遠くなる。怒りとも悲しみともつかない感情が押し寄せて、熱いものが込み上げてきた。

「ゆうちゃん、大丈夫?」

 優しく肩を揺すられて、溜め息を吐いた。こんなところで、負の感情を露にするわけにはいかない。振り返って心配げな女の顔に、笑顔をつくった。

「大丈夫だよ。少し疲れたみたいで」
「お水、飲みましょう?」

 黒服が静かにグラスを置いて立ち去っていく。目の前のグラスを手に取って、口をつける。

「瀬川さん」

 声をかけられて、無意識に矢口に視線をやったけれど、直ぐに目を逸らした。矢口の物言いたげな顔を見ていると、何か余計なことを言ってしまいそうで、平静を保てる自信がなかった。

「いらっしゃいませ」

 落ち着いたトーンの男の声が遠くで聞こえた。新たな客の来店した空気に、ママが敏感に反応する。

「篠田さん、ごめんなさい。少し席を外しますね」

 ママが少し困ったように微笑みながら、篠田マネージャーの肩をポンポンと叩いた。篠田マネージャーは、周囲を見渡して空席がないことを確認すると息を吐いて、ママに苦笑いする。

「俺たちも、そろそろお暇するよ」
「あら、まだ、ゆっくりしていらしても」

 ママと少し言葉を交わしながらも、篠田マネージャーは、黒服に手渡された伝票にクレジットカードを挟んで「また来るよ」と微笑んだ。



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