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nao@そのエラー完結

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12月28日(金)

第88話

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 冬空の下は酷く冷え込んでいた。
 店先まで見送ってくれたママと女の子たちに軽く手を振って、タクシーが見つかりそうな通りまで歩いた。
 矢口が不安げに篠田マネージャーに声をかける。

「あの、お会計は」
「ああ、いいから、いいから」

 それでも、食い下がろうとする矢口に、篠田マネージャーは「まあ、たまには上司に格好をつけさせろよ」と嘯いた。
 うちの会社のマネージャーがどのぐらい稼いでいるのか知り得ないが、ポケットマネーで俺たちの分まで支払って、奥さんに叱られたりするんじゃなかろうかと、少しだけ篠田家の事情が気になった。けれど、ほろ酔い気分の篠田マネージャーにこれ以上食い下がるのも無粋だろうから、矢口の腕を軽く指で突いて、大人しく上司の顔を立てて甘えさせることにした。
 空車のタクシーを捕まえると、後部座席のドアが開いたので、篠田マネージャーに乗ってもらうように促した。

「じゃあ、来年は神戸で頑張ってきてくれよ。月に二度ぐらいは君らの顔を見に行くから」
「お気遣いありがとうございます」
「よいお年を」

 車体のドアが閉まって、走り去っていくタクシーを見送れば、自然と肩の力が抜けて、無理に張り付かせていた笑顔が緩んだ。

「やっと、二人になれましたね」

 後ろから、きゅっと腕の裾を掴まれた。

「ああ、じゃあ、帰ろうか」

 掴まれた腕を軽く振り払って、歩きだそうとすると、ぐいっと腕を強く引かれる。

「帰るって、俺の家ですよね?」
「…………悪いけど、今日はそういう気分じゃ」

 振り返ると、暁斗がじっと俺を見つめていた。コートの上からでも指が食い込む程の力で掴まれて、払い除けられない。

「おい、離せよ」

 暁斗が、腕を引いて俺の耳元に唇を寄せる。

「騒ぐと悪目立ちしますよ」

 地を這うような低い声で、威かされて、びくりと肩が揺れた。何が気に触ったのか、甚く強引に腕を引かれて、訳もわからないままに、歩かされる。早足の暁斗についていくのがやっとで、ただ暁斗の背中に「離せよ」と繰り返し訴えることしかできなかった。

 どのぐらい歩かされたのか、唐突に、暁斗の足が止まる。見渡せば、辺りはホテル街で、すうっと血の気が引いていき、思わず空いている手で暁斗の背中を打った。

「イヤだって、言ってるだろ」

 暁斗が項垂れるように頭を下げて、それでも俺の腕を掴んだ手の力を緩めることはない。俺の右腕を掴む暁斗の手首を掴んで、無理やり離させそうと、もがいた。

「俺ばっかり、なんですね」

 暁斗の背中が震えているようで、途端に罪悪感が沸き上がる。整理のつかない感情のまま、暁斗と二人きりになりたくはなかった。肌を合わせれば、そこから何もかもが溢れ出てまうような気がして、足がすくむ。けれど、暁斗のか細い声が、力強い手の力が、俺の中でどう処理をしていいのか、答えが出せずに混迷し、抵抗する気力も言葉も失ってしまう。
 暁斗は、そんな俺のことを知ってか知らずか、明確な意思を持って、ホテルに足を踏み入れていく。

 暁斗は俺の方を見ようとはしない。

 顔を上げて、無数の部屋のパネルから、空室を探している暁斗の横顔が、急に知らない男のように思えて、こわくなった。



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