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11月9日(金)
第5話
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朝のミーティングが終わって自席に着くと、メッセージが入っていることに気がついた。マネージャーからの急な呼び出しだが、用件はおおかたの察しはつく。先日提出したばかりの報告書のことだろう。
「瀬川さん、ご相談が」
「悪い。今から急遽、打ち合わせが入ったんだ。終わってからでも構わないか?」
有沢が大きな瞳をパチクリとさせて「はい」と頷いた。ノートパソコンとメモ帳を用意しながら、報告書の内容を反芻した。ちらりと矢口に視線を向けるも、男はパソコンを見つめたきりだった。
あれから矢口とは、目が合うこともなくなってしまった。言葉数も仕事に関する最低限のものに留まっている。お互いに、なんともいえない気まずさから、彼との距離が開いてしまった気がする。
「どうかされましたか?」
「いいや、なんでもないよ」
不思議そうに首を傾げる有沢に、苦笑いを浮かべてフロアを後にした。
扉をノックして、ミーティングルームに足を踏み入れると、資料に目を通していた男が顔をあげた。
「忙しいところ、呼び出して悪かったな」
篠田マネージャーは、第2グループの長であり、俺の直属の上司でもある。仕事に対する自信がそうさせるのか、カリスマ性を持った若々しいオーラを纏い、部下から絶大な支持を集めている。
「F社で、何かトラブルですか?」
背後から声をかけられて振り返る。そこには、いかにもインテリのデキる男という風貌をした細川リーダーが立っていた。呼ばれたのが俺だけではないことに、少し驚いた。彼が眼鏡の奥で怪訝そうに眉をひそめているものだから、俺の不安も湧き上がる。細川リーダーと俺の接点といえば、F社から請け負っている二つのプロジェクトのそれぞれの責任者であることぐらいだった。
「二人ともそんな顔するなよ。どちらかといえば、いい話だから」
篠田マネージャーは、コホンと咳払いをした。細川リーダーが俺の隣の席に腰かける。
「つい先日、瀬川くんが名指しで、M社から新規プロジェクトへのオファがあったんだ。営業部からも大いに期待されている案件だから、前向きに検討したくてね」
「瀬川くん、すごいじゃないか」
細川リーダーが、俺の肩を軽く叩くので、照れ臭くて頭をかいた。
「ただ、瀬川くんが今抱えている案件も追加開発の確度が高い。瀬川くんを外すことによるリスク軽減と、F社を納得させるための策が必要になる」
「それで私も呼ばれたんですね」
「細川くんは、話が早くて助かるな」
愉快そうに笑う篠田マネージャーとは対称的に、細川リーダーの顔が曇った。
俺が任されているYシステムプロジェクトは、元々は細川リーダーが新規開発時に統括していたのだ。去年まで、俺はその下でサブリーダーを任されていた。新規開発案件も終盤に差しかかった頃、F社の別案件であるNシステムプロジェクトが立ち上がり、スライドするように細川リーダーが異動。俺が突き上げで、安定している二次開発以降のYシステムプロジェクトのリーダーを任されることになったのだ。
「細川くんには、NシステムとYシステムを兼任してもらおうと考えている」
「瀬川くんに引き継いだプロジェクトが、そのまま返ってくるわけですね」
「あの、それだと細川さんへの負荷が大きすぎませんか」
まさか、細川リーダーに皺寄せがいくとは思っていなかった。
「まあ、元々は俺の管轄だから仕方ないかな」
深く重い溜め息を吐きながらも、細川リーダーは優しく微笑んだ。
「細川くんにも、そろそろ複数プロジェクトを束ねられるようになってもらいたい、という意図もある。ただ、瀬川くんがいうように、単純に兼任しろ、というのも無謀だからね。君たちと現実的に可能な案を検討したい」
篠田マネージャーがプロジェクターで資料を映し出した。
「瀬川さん、ご相談が」
「悪い。今から急遽、打ち合わせが入ったんだ。終わってからでも構わないか?」
有沢が大きな瞳をパチクリとさせて「はい」と頷いた。ノートパソコンとメモ帳を用意しながら、報告書の内容を反芻した。ちらりと矢口に視線を向けるも、男はパソコンを見つめたきりだった。
あれから矢口とは、目が合うこともなくなってしまった。言葉数も仕事に関する最低限のものに留まっている。お互いに、なんともいえない気まずさから、彼との距離が開いてしまった気がする。
「どうかされましたか?」
「いいや、なんでもないよ」
不思議そうに首を傾げる有沢に、苦笑いを浮かべてフロアを後にした。
扉をノックして、ミーティングルームに足を踏み入れると、資料に目を通していた男が顔をあげた。
「忙しいところ、呼び出して悪かったな」
篠田マネージャーは、第2グループの長であり、俺の直属の上司でもある。仕事に対する自信がそうさせるのか、カリスマ性を持った若々しいオーラを纏い、部下から絶大な支持を集めている。
「F社で、何かトラブルですか?」
背後から声をかけられて振り返る。そこには、いかにもインテリのデキる男という風貌をした細川リーダーが立っていた。呼ばれたのが俺だけではないことに、少し驚いた。彼が眼鏡の奥で怪訝そうに眉をひそめているものだから、俺の不安も湧き上がる。細川リーダーと俺の接点といえば、F社から請け負っている二つのプロジェクトのそれぞれの責任者であることぐらいだった。
「二人ともそんな顔するなよ。どちらかといえば、いい話だから」
篠田マネージャーは、コホンと咳払いをした。細川リーダーが俺の隣の席に腰かける。
「つい先日、瀬川くんが名指しで、M社から新規プロジェクトへのオファがあったんだ。営業部からも大いに期待されている案件だから、前向きに検討したくてね」
「瀬川くん、すごいじゃないか」
細川リーダーが、俺の肩を軽く叩くので、照れ臭くて頭をかいた。
「ただ、瀬川くんが今抱えている案件も追加開発の確度が高い。瀬川くんを外すことによるリスク軽減と、F社を納得させるための策が必要になる」
「それで私も呼ばれたんですね」
「細川くんは、話が早くて助かるな」
愉快そうに笑う篠田マネージャーとは対称的に、細川リーダーの顔が曇った。
俺が任されているYシステムプロジェクトは、元々は細川リーダーが新規開発時に統括していたのだ。去年まで、俺はその下でサブリーダーを任されていた。新規開発案件も終盤に差しかかった頃、F社の別案件であるNシステムプロジェクトが立ち上がり、スライドするように細川リーダーが異動。俺が突き上げで、安定している二次開発以降のYシステムプロジェクトのリーダーを任されることになったのだ。
「細川くんには、NシステムとYシステムを兼任してもらおうと考えている」
「瀬川くんに引き継いだプロジェクトが、そのまま返ってくるわけですね」
「あの、それだと細川さんへの負荷が大きすぎませんか」
まさか、細川リーダーに皺寄せがいくとは思っていなかった。
「まあ、元々は俺の管轄だから仕方ないかな」
深く重い溜め息を吐きながらも、細川リーダーは優しく微笑んだ。
「細川くんにも、そろそろ複数プロジェクトを束ねられるようになってもらいたい、という意図もある。ただ、瀬川くんがいうように、単純に兼任しろ、というのも無謀だからね。君たちと現実的に可能な案を検討したい」
篠田マネージャーがプロジェクターで資料を映し出した。
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