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11月16日(金)
第9話
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居酒屋を出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。トレンチコートを羽織っていても肌寒い。思えば、もう十一月も半ばで、夜は随分と冷え込んできている。
「それでは、お疲れ様です」
矢口は俺と目を合わせると、気まずそうに会釈した。
「もう帰るのか?」
「そうですね。…………よかったら、俺の部屋でコーヒーでも飲んでいきますか? なんて、」
「じゃあ、お言葉に甘えて寄らせてもらおうかな」
矢口は、ほんの一瞬固まって、それから困ったように笑った。それでも、やめておこう、なんてことにはならなかった。
夜道を肩を並べて歩き出したものの、互いに言葉数は少なかった。横目で盗み見れば、矢口は俯いて足元を見つめながら、何かを思案しているようだった。夜風が吹き抜ける度に、男の緊張が高まっていくようで、こちらから話しかけることも憚られる。
繁華街を過ぎれば、喧騒も遠退き、煌々とした灯りも数を減らしていく。
「二階の奥が俺の部屋です」
矢口が指差したのは、静かな住宅地にあるコジャレた外観のアパートだった。二人で階段をのぼって部屋の前に辿り着く。不意に、数年前のことが甦ってきた。
「矢口くんの家には、一度、来たことあったよな」
「え?」
「矢口くんの新人歓迎会のときだよ。三次会まで付き合わされて、ベロベロに酔ってたから、送ってやっただろ? まあ、ベッドにそのまま寝かせて帰っただけだけど」
「ああ、そんなこともありましたね。その節はお世話になりました」
「あれは、調子に乗って飲ませた連中が悪いよ」
本人はほとんど覚えていないだろうが、矢口の酔ったときの醜態を思い出すと笑えてくる。矢口はバツが悪そうに首元をかいて、ドアの鍵を開けた。先に通される。と、いきなり背後から抱きすくめられる。バタンと背後でドアが閉まる音が大きく響いた。
「あのときは、瀬川さんと、こんな風になるとは思ってませんでした」
首筋に温かい感触。耳元で熱い息を感じて、ゾクゾクと甘い疼きが身体の中を駆け抜けた。
「なあ、矢口くんは男としたことあるのか?」
「ありません」
「なんだ。そうなのか」
てっきり矢口は、女でも男でも経験豊富なのだろうと思い込んでいた。
「でも、いっぱい調べたんですよ」
「あはは、お手柔らかに頼むよ」
矢口に振り返ると、唇と唇が合わさった。
正直、男の身体に勃つのかわからない。矢口も男と経験がないのなら、もしかすると、俺の肉体を目の当たりにすれば、目が覚めるかもしれない。なんていうのは、あまりにも安易だろうか。
「それでは、お疲れ様です」
矢口は俺と目を合わせると、気まずそうに会釈した。
「もう帰るのか?」
「そうですね。…………よかったら、俺の部屋でコーヒーでも飲んでいきますか? なんて、」
「じゃあ、お言葉に甘えて寄らせてもらおうかな」
矢口は、ほんの一瞬固まって、それから困ったように笑った。それでも、やめておこう、なんてことにはならなかった。
夜道を肩を並べて歩き出したものの、互いに言葉数は少なかった。横目で盗み見れば、矢口は俯いて足元を見つめながら、何かを思案しているようだった。夜風が吹き抜ける度に、男の緊張が高まっていくようで、こちらから話しかけることも憚られる。
繁華街を過ぎれば、喧騒も遠退き、煌々とした灯りも数を減らしていく。
「二階の奥が俺の部屋です」
矢口が指差したのは、静かな住宅地にあるコジャレた外観のアパートだった。二人で階段をのぼって部屋の前に辿り着く。不意に、数年前のことが甦ってきた。
「矢口くんの家には、一度、来たことあったよな」
「え?」
「矢口くんの新人歓迎会のときだよ。三次会まで付き合わされて、ベロベロに酔ってたから、送ってやっただろ? まあ、ベッドにそのまま寝かせて帰っただけだけど」
「ああ、そんなこともありましたね。その節はお世話になりました」
「あれは、調子に乗って飲ませた連中が悪いよ」
本人はほとんど覚えていないだろうが、矢口の酔ったときの醜態を思い出すと笑えてくる。矢口はバツが悪そうに首元をかいて、ドアの鍵を開けた。先に通される。と、いきなり背後から抱きすくめられる。バタンと背後でドアが閉まる音が大きく響いた。
「あのときは、瀬川さんと、こんな風になるとは思ってませんでした」
首筋に温かい感触。耳元で熱い息を感じて、ゾクゾクと甘い疼きが身体の中を駆け抜けた。
「なあ、矢口くんは男としたことあるのか?」
「ありません」
「なんだ。そうなのか」
てっきり矢口は、女でも男でも経験豊富なのだろうと思い込んでいた。
「でも、いっぱい調べたんですよ」
「あはは、お手柔らかに頼むよ」
矢口に振り返ると、唇と唇が合わさった。
正直、男の身体に勃つのかわからない。矢口も男と経験がないのなら、もしかすると、俺の肉体を目の当たりにすれば、目が覚めるかもしれない。なんていうのは、あまりにも安易だろうか。
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