Buddies

nao@そのエラー完結

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第4話

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 4月も中旬に差し掛かり、大学生活も1年を切った。それでも、ほとんど単位は取り尽くしたので、後はゼミを全うするぐらいのものだ。第3希望の会社から内定をもらってはいたが、他社も最終面接まで進んでいたため、とりあえず試験を受けてきた。
 堅苦しいリクルートスーツのジャケットを脱いで、足早でファミレスに入った。慣れない腕時計で時間を確認すると、約束の時間から15分程過ぎていた。
 ボックス席には、既に男が3人腰かけている。

「悪い、遅れた。」

 軽く挨拶を交わしながら、空いているテルの隣の席に、滑り込むように腰かけた。しんみりとした雰囲気に、少し緊張する。

「シュンから話があるから」

 コウがシュンの腕を肘で突いた。シュンは少し言い淀みながらも、口を開いた。

「あの、この前は、いきなり帰って悪かった。」
「あ……ああ、いや、シュンが俺のことに気持ち悪がるのは、理解できるから」

 俺は俯いて、眉を寄せながらも、なんとか笑おうと口角を持ち上げた。

「別に気持ち悪かったわけじゃない」

 不機嫌そうなシュンの口調に、びくっと肩が揺れる。少し沈黙が流れる。

「シュン、ほら、」

 コウが痺れを切らして、シュンに話すように促した。

「……高2のとき、俺、吉川のことが好きだったんだ」
「吉川?……ああ、あの子か……」

 久しく聞いた名前に、驚いて顔をあげる。

「そう、吉川。お前が興味ない吉川だよ。」

 高校の時に仲の良かった女友達の一人だ。
 不機嫌さをそのままに、シュンは話を続けた。

「吉川にコクったんだけど、アキのことが好きだからってフラれたんだ。その後、アキと仲良くなってたから、付き合っているのかと思って、俺は諦めて身を引いたんだ、」

「え……いや、吉川さんとは付き合ってない」
 
 慌てて、首を振った。
 確かに一時期、二人でいることが多かったが、どちらかというと吉川の方が、よく、俺の席に来て話をしてくれた。彼女は明るくて、話が面白くて、俺も楽しかったけれど、徐々に意味ありげな雰囲気を醸し出してきたので、やんわりと他に好きな人がいる素振りを見せて、牽制していた。彼女から告白されたことはない。

「ああ、アキは吉川のこと、なんとも思ってなかったんだよな。男が好きだって話を聞いて、俺が身を引く意味なんてなかったんだと思ったら、無性に頭に来ちまった。……酔ってたのもあって、お前に八つ当たりしてしまって、悪かった。」

 シュンが頭を下げる。
 俺はどう反応していいのか、わからずに、目を逸らして頬をかいた。

「吉川さんだけじゃないよ。俺の好きだった、サナちゃんやあっちゃんやミホも、アキに総取りされてたし!」

 コウが口を開いた。

「コウは気が多すぎるのが悪いだろ、」

 テルが呆れたように諌めた。

「むー……でも、俺たちに近づいてくる女子なんて、ほとんどアキが目当てだったし。……アキのせいで、俺たち、高校卒業するまで童貞だったんだからなー」

 コウが口を尖らせる。
 少し照れ臭ささも混じっているようで、頬が赤い。
 俺は驚いて彼等を見比べた。
 テルも「広岡さんもアキ狙いだったなぁ」なんて、遠い目をして苦笑いしている。

 俺は言葉を失って、今すぐにでも逃げ出したい気持ちで腰を引いた。
 彼等の恋路の邪魔をする気などなかった。自分の性癖を隠すのに必死で、女子と話している方が気楽で、でも、彼女たちに恋愛感情を持たれるのは面倒臭くて。告白されそうになると、少し距離を取ったり、興味のない素振りを見せたりして逃げ回った。その中に、彼等の好きな女子が混じっている可能性に、どうして気づけなかったのだろうか。

「……そんな話、知らなかった。なんで、言ってくれなかったんだ。」

 せめて、言ってくれていたら、彼等の好きな女子に近づいたりしなかったのに。

「言えるわけねーだろ、俺らダサすぎじゃん」
「でもさ、もう終わった話だし、隠し事はなしにしようって、シュンと話してたんだ。」

 スッキリしたように、シュンはコーヒーカップに口をつけ、コウはコーラをストローで啜り始めた。過去のことだと綺麗に水に流す彼等に、気づかされる。

 そうか、俺達は、もう大人なんだ。



 ふいにテーブルの下で手を握られて、ぎょっとして隣に顔を向ける。テルが微笑んで、対面の二人に向かい合う。

「俺、アキと付き合うことにしたから」

 ブホッとコウのグラスが泡立った。シュンのコーヒーカップを持つ手が固まる。
 俺も、まさか、ここで暴露するとは思わずに固まってしまう。

「ちょ、俺らの理解を軽く飛び越えていくのやめてくんない?」

 コーラが気管に入ったらしく、コウが苦しそうに噎せながら、笑いだす。

「まあ、お前らの好きにすればいいけどさ。別れたりして気まずくなるのは面倒臭くなるから、やめてくれよ。」

 シュンも苦笑いする。

 散々セックスした後、テルは俺に付き合おうと申し出てくれた。
 正直、テルはまだ俺のことが本当に好きなわけではないと思う。それでも、俺が複数の男と関係しているのは心配らしく「誰でもいいなら、俺が彼氏になるから、セフレは全て整理しろ」と言われた。

 誰でもいい、なんてことはないのに。
 それでも、ほとんど無理やりノンケであるテルの上に跨がった俺が、何を言ったところで説得力などなかった。テルは俺のことを、節操のないセックス依存症とでも思っている。

 セフレの整理も意外と難儀で、まだ全てが決着しているわけではない。あまり深く考えずに俺の部屋に男を連れむことも多かったので、別れを切り出したら、部屋に押し掛けてきた男もいた。最後にヤらせろ、と乱暴にドアを叩かれたり、何かを勘違いした男に待ち伏せされた。
 さすがに身の危険を感じずにいられない。
 テルに泣きついて、彼の部屋に転がり込んだ。
 普段は菩薩のように優しいテルが、酷く苛立って、酷く呆れて、俺のことを厳しく叱責した。

 今は引っ越し先を決めて、整理がつくまでの間だけ、居候させてもらっている身だ。

 こんな俺たちは『付き合っている』と言えるほどに、まだ関係が築けているとは言い難い。
 それでも、テルはぎゅっと強く手を握り締めてくれた。覚悟を決めたように、友人たちに報告してくれた。それが、とても嬉しくて、俺もテルの手を握り返す。

 ちゃんとしたら、ちゃんとテルのことを好きだと行動で示せることができたら、テルは俺のことを、好きなってくれるだろうか。

 シュンとコウが苦笑いしている。
 俺のことは兎に角、テルまで嫌いにはならないでほしい。

「俺たちのことに、気持ち悪くないのか?」
「正直、ホモに理解あるかって聞かれるとビミョーだけど、お前らと縁を切ろうとは、思わねーよ。」
「俺もー。アキとテルが付き合うとか、ちょっとびっくりだけど、二人が幸せなら口出しなんてしないよ。」
「俺たち、ダチだろ?」

 シュンがニッと照れ臭そうに笑うから、なんだか胸が締め付けられた。
 俺が一方的に、彼等を遠ざけようとしていたのだろうか。彼等は俺を、俺たちを、なんとか理解してくれようとしている。
 そう思うと、堪らない気持ちになって、言葉が自然と溢れてきた。



「お前ら、大好き」

 眼前の2人の男が、苦笑いしたまま硬直した。
 肘で腕を突かれた。視線を向けると、隣に座るテルが睨み付けていた。
 慌てて言葉を足した。

「ダチとして好きってことだから、」

 眼前の3人の男が吹き出した。
 俺も釣られて笑ってしまう。

「アキ、紛らわしすぎ」

 コウが、笑う。

「浮気は許さないからな」

 テルが、笑いながらも流し目で釘を指す。

「おい、そういうのは家でやれよ。見てらんねー。」

 シュンが、笑いながら呆れたように手を振った。

 四人でゲラゲラと腹を抱えて笑っていると、ゴホンと向かいの席に座っているサラリーマンが咳払いを1つ。けれど、もう、どうでもよくて、笑いを堪えるのも面倒臭くて、あはは、と笑って、笑いすぎて、溢れてきた涙を手の甲で拭った。



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