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読まれなかった手紙

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春樹へ

 中学一年生で同じクラスになってから、俺たちは一緒に過ごすようになりましたね。春樹と過ごした中学生の思い出は、俺の大切な宝物です。一緒にバスケ部に入部して、俺たちはいいコンビで、いいライバルで、よくお互いの成長を称え合いましたね。漫画やゲームの貸し借りをしたり、一緒にライブに行ったり、ギターを練習したり、たくさんの楽しい時間を共有してきました。

 高校も同じ学校に通えて、本当に幸せでした。俺たちはクラスが違っても、バスケを通して、ずっと親友として過ごしてきましたね。そんな友人は、他にはいません。

 高校一年生の冬に、春樹のお母さんが亡くなって、春樹が悲しんでいる姿を見て、俺は春樹を守りたいと思いました。俺なんて、なんの心の支えにもならなかっただろうけど、それでも、俺の前で泣いている春樹を見て、思わず、抱き寄せてしまいました。俺の胸の中で、静かに肩を震わせて泣いている春樹に、何かしたいと思いました。

 悲しみも薄れないままに、双子の弟と妹の母親代わりになって、慣れない家事に悪戦苦闘しなければならず、春樹は大好きなバスケも辞めてしまいましたね。それでも俺の出る試合には必ず観に来てくれて、応援してくれました。俺は、それが、とても、嬉しかったです。

 俺たちも高校三年生になりました。春樹とこんなに毎日一緒に過ごせる時間も残り僅かです。ここからの進路はバラバラで、春樹も新しい生活に追われれば、俺のことは思い出の一つになって、緩やかに色褪せていくのでしょう。

 このまま、親友として終えることも考えました。けれど、どうしても、春樹のことが好きです。春樹のことを思うと、胸が張り裂けそうです。

 男に告白されるなんて、春樹にとっては、気持ち悪いことかもしれません。この手紙を破り捨てて、なかったことにしてくれても構いません。けれど、春樹に避けられるのは、どうしても堪えられません。
 本当に、自分勝手なワガママですが、どうか卒業式までは、友達として、過ごしてもらえませんか?

 もし、少しでも、俺に可能性があるのなら、返事を下さい。すぐじゃなくても構いません。春樹の決心がつくまで、ずっと、待っています。



拓哉より




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みんなの感想(1件)

唯月漣
2022.02.25 唯月漣

甘酸っぱくてとても素敵でした。
本当にあったお話なんじゃないかと錯覚するような、リアルなお話ですね。文章や構成力のレベルが高く、するすると頭に入って情景が浮かびました。不必要な描写は省かれているのに、主人公の背景はきちんと想像できるので、とても洗練されている感じがします。キュンもしっかりあって、秀逸な作品です!

nao@そのエラー完結
2022.02.26 nao@そのエラー完結

温かなご感想ありがとうございます。
試行錯誤して書いた短編なので、褒めていただけて、とても嬉しいです!
これから二人がどうなってしまうのか……キュンとしていただけたら幸いです。

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