hand fetish

nao@そのエラー完結

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 素晴らしい結婚式だったと思う。雲一つない青い空に、白いチャペルがよく映えていた。厳かなパイプオルガンが鳴り響き、隣には、飛びきりに美しい花嫁が幸せそうに微笑んでいる。

 礼服姿の父も母も緊張した面持ちだったが、それでもどこか誇らしそうに見えた。親族席のすぐ後ろには、幼馴染みが拍手を贈ってくれている。上品なスーツに、髪をあげたスタイルは、彼の端正な顔立ちを際立たせていた。

 そんな幼馴染みは、披露宴では友人代表のスピーチを快く引き受けてくれた。スポットライトを浴びながら、俺たちの思出話を語る彼は眩しかった。
 随分と疎遠になってしまっていたが、彼の口から懐かしい思い出が溢れてくれば、少年時代の兄弟のように過ごした日々が鮮明に甦る。彼のなかには、まだ俺の欠片がたくさん残っているのだと思うと、胸が熱くなった。

 彼よりも先に結婚できたことは、俺にとって幸運だったろう。誰よりも、何よりも、彼の幸せを祈っている。それでも、独り身のまま、彼の結婚式に呼ばれたならば、俺はきっと、彼のようにはうまく笑えないだろうから。


 結婚式の二次会は、馴染みのバーを貸し切って開いた。
 真っ赤なドレス姿の花嫁と寄り添え合えば、たくさんの友人や同僚たちが取り囲んで、祝いの言葉を投げかけてくれる。彼らと談笑しながらも、俺の意識は、カウンターで一人で呑んでいる幼馴染みに向いていた。浮かない顔で背中を丸めている幼馴染みの姿が、気が気ではなかったのだ。

 それは、少し目を離した合間である。一人で呑んでいたはずの幼馴染の隣りに、元恋人の姿があったのだ。俺は卒倒しそうになった。
 あんなに人懐っこそうに笑う元恋人の顔を見たのは、初めてのことだった。

 呆然としている間に、会場は暗くなり、会場の白い壁には結婚式の動画が流れ始める。そんな暗がりの中、元恋人と幼馴染みは、何か楽しげに囁き合って、会場から出て行った。
 元恋人が、顔だけ振り返って、含んだ笑みを浮かべる。

 その笑みに、不安で胸が押し潰されそうになる。

 ほんの些細な悪意や面白半分で、俺たちの関係をバラされてしまったら、きっと幼馴染みに軽蔑されてしまうだろう。いいや、いっそのこと、全部バラされて、幼馴染に軽蔑されて、縁を切られてしまった方が、俺にとってもいいのかもしれない。

「ちょっと、ぼーっとしないでよ」

 パーティードレスの新婦に腕を突かれて、俺は慌てて笑顔を作り直す。俺は今、世界で一番幸せな男なのだから。



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