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「いい加減に結婚してよね」
同棲している彼女から、遂に最終警告を受けた。
大学時代から、だらだらと長い春が続いて、気づけば六年も連れ添っている。彼女は勝ち気で、大きく強い瞳と厚い唇を持った魅力的な女だった。
色恋にはだらしない俺たちだったけれど、目移りする度に、トラブルを引き起こすものだから、さすがに辟易としていて、最近ではすっかりと浮気癖も成りを潜めている。それに、幼馴染みや恋人の彼よりも、心が熱くなる恋は見つけられなかったのだ。結局、俺が帰る場所は彼女の隣りなのかもしれない。
彼女とは、長く連れ添った情があり、親友で戦友のような頼もしい絆がある。すでに甘い恋のような情熱は消えてしまったけれど、穏やかな愛があった。
何より彼女とは子供を持つことができる。無償の愛を注げる人間であれば。血の繋がりがあれば。俺の元を去っていくことはないだろう。
誰かに置いていかれるのは、もう堪えられそうになかったのだ。
それでも、結婚式の準備をしていると、望まなくとも過去と対峙することになる。アルバムには幼馴染の写真が溢れ返っていた。それに、決まって盆と正月には、幼馴染と顔を会わせて、幼い頃の思い出話に花を咲かせることは暗黙的な了解になっていた。
そうして、幼馴染みと笑顔で別れた後には、無性に恋人だった彼に会いたくなってしまう。衝動的に彼に連絡すれば、意外なほどあっさりと、俺の元を訪ねてくるものだから、彼のことも諦めきれずにいる。その瞳には、かつての盲目的な情熱は映っていなかったけれど、彼の肌を重ねていれば、彼の愛が戻ってくるのではないかと期待してしまう。
それでも、いい加減に、ここが引き際なのだろう。彼への未練を断ち切るために、結婚式の前夜に彼を呼び出した。
いいや、本当のこというと、少しだけ、ほんの少しだけ、期待したところもあった。もし彼が「結婚しないで」と、泣いて縋ってきたならば……彼が俺の元を去っていた仕打ちも全部水に流して、結婚もやめて、彼と生きていこうなんて、ロマンチックな妄想に浸っていた。
けれど、現実なんてつまらないもので、彼は笑顔で最後の別れを切り出してきたのだ。
結婚する事実を突きつけるために、同棲しているアパートに呼び出して、披露宴で流すの動画まで見せたけれど、彼は顔色ひとつ変えなかった。
俺がプレゼントした赤い首輪を手渡されたときに、もう彼の中に俺のことなど一欠片も残っていないのだと、現実を突きつけられたのは、俺の方だった。
目の前が真っ暗になり、足元がぐらついた。反射的に、彼の髪を掴んで、壁に押し付けていた。朦朧としている彼の首に、首輪を巻き付けて、絞め上げる。
何を間違えたのか、俺にはわからない。調教が足りなかったのか、愛情が不足していたのか。俺の男としての魅力が足りなかったのか。
彼の目が白黒していることに気がついて、我に返る。
「とっとと、出てけよ」
噎せて、咳き込んでいる彼を部屋から追い出した。彼は俺のもとから逃げるように去っていく。
俺と彼の関係はこれで完全に断ち切れてしまったのだろう。
同棲している彼女から、遂に最終警告を受けた。
大学時代から、だらだらと長い春が続いて、気づけば六年も連れ添っている。彼女は勝ち気で、大きく強い瞳と厚い唇を持った魅力的な女だった。
色恋にはだらしない俺たちだったけれど、目移りする度に、トラブルを引き起こすものだから、さすがに辟易としていて、最近ではすっかりと浮気癖も成りを潜めている。それに、幼馴染みや恋人の彼よりも、心が熱くなる恋は見つけられなかったのだ。結局、俺が帰る場所は彼女の隣りなのかもしれない。
彼女とは、長く連れ添った情があり、親友で戦友のような頼もしい絆がある。すでに甘い恋のような情熱は消えてしまったけれど、穏やかな愛があった。
何より彼女とは子供を持つことができる。無償の愛を注げる人間であれば。血の繋がりがあれば。俺の元を去っていくことはないだろう。
誰かに置いていかれるのは、もう堪えられそうになかったのだ。
それでも、結婚式の準備をしていると、望まなくとも過去と対峙することになる。アルバムには幼馴染の写真が溢れ返っていた。それに、決まって盆と正月には、幼馴染と顔を会わせて、幼い頃の思い出話に花を咲かせることは暗黙的な了解になっていた。
そうして、幼馴染みと笑顔で別れた後には、無性に恋人だった彼に会いたくなってしまう。衝動的に彼に連絡すれば、意外なほどあっさりと、俺の元を訪ねてくるものだから、彼のことも諦めきれずにいる。その瞳には、かつての盲目的な情熱は映っていなかったけれど、彼の肌を重ねていれば、彼の愛が戻ってくるのではないかと期待してしまう。
それでも、いい加減に、ここが引き際なのだろう。彼への未練を断ち切るために、結婚式の前夜に彼を呼び出した。
いいや、本当のこというと、少しだけ、ほんの少しだけ、期待したところもあった。もし彼が「結婚しないで」と、泣いて縋ってきたならば……彼が俺の元を去っていた仕打ちも全部水に流して、結婚もやめて、彼と生きていこうなんて、ロマンチックな妄想に浸っていた。
けれど、現実なんてつまらないもので、彼は笑顔で最後の別れを切り出してきたのだ。
結婚する事実を突きつけるために、同棲しているアパートに呼び出して、披露宴で流すの動画まで見せたけれど、彼は顔色ひとつ変えなかった。
俺がプレゼントした赤い首輪を手渡されたときに、もう彼の中に俺のことなど一欠片も残っていないのだと、現実を突きつけられたのは、俺の方だった。
目の前が真っ暗になり、足元がぐらついた。反射的に、彼の髪を掴んで、壁に押し付けていた。朦朧としている彼の首に、首輪を巻き付けて、絞め上げる。
何を間違えたのか、俺にはわからない。調教が足りなかったのか、愛情が不足していたのか。俺の男としての魅力が足りなかったのか。
彼の目が白黒していることに気がついて、我に返る。
「とっとと、出てけよ」
噎せて、咳き込んでいる彼を部屋から追い出した。彼は俺のもとから逃げるように去っていく。
俺と彼の関係はこれで完全に断ち切れてしまったのだろう。
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