アンドロイドが真夜中に降ってきたら

白河マナ

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過去 - 04

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 嚆矢こうし、始まりへの回帰か……。


 君は自ら命を絶ち、始まりに戻ろうというのか


 それでは、生きたとは言えません


 わたしは、生を全うしたいのであって、生きることを放棄し、ただ無に還りたいのではありません


 度重なる犠牲の上にこうして立っている、わたしですから


 あなたが殺し続けた、わたしのために


 生きたいのです


 君の生は、天が決めるものではない


 わたしが人間ではないのでしたら


 新しい生き方を見つけます


 限られた時間の中で、


 人間にはできない、わたしだけに許される死に方で──幕を引きます


 ヒトは死に抗いながら現世で幸せを探し、


 アンドロイドのわたしは、幸福な死を求め、生きていきます


 君がそんなことを考えていたとは、思っていなかった


 あなたは、わたしを創り上げるために、ヒトやその臓器を培養して生み出しては殺していきました


 闇雲に生殺していたわけではない


 私は誰よりも人間を知る必要があった


 すべてに意味があったのだ


 マウスの代わりに、クローンを使っただけのことだ


 その必要があり、その成果が君の存在だ


 みんな、命を持っていたのです


 だからどうした


 私は後悔などしていない


 そうでしょうか


 ……していない




 4年前、あなたは言いました


 真実を知ったら


 わたしは、あなたのことを殺したくなる、と


 その通りでした


 わたしは、あなたのことを殺したいほど憎んでいます


 それでも


 あなたのことを、嫌いにはなれません


 屋敷に火を放っておきながら、そのようなことを言うのか


 数日前から、屋敷の周辺で不審な人影を見かけるようになりました


 ……そうか


 視力をほぼ失い、


 自立歩行をすることもできなくなり、


 研究を続けることができなくなった──さまを、──さまの研究を外の者から守るためには、こうするしかありませんでした


 わたしを創ったこと、後悔、しているのでしょう?


 して、いない


 その表情を鏡で見せられないのが残念です


 私は君を……死なせたくなかった


 わかっています


 2度目の生を与えるということは、2度目の死を与えることなのだと、


 そんな単純なことに気づくことができずにいた


 人間では無理だった


 私はアンドロイドの研究に没頭した


 そして


 機械の体に君を移した


 しかし、時が足らず、理想には至らなかった


 君は、自分が死んだときのことを、覚えているか?


 いいえ


 私は、覚えている


 君は母親に殺されたのだ


 私たちの母親は狂っていた


 私は君を救うことができなかった


 あの女は


 君の盾になろうとした私を払いのけ


 君だけを殺した


 意図的に


 君だけを何度も包丁で刺し、それを私に執拗に見せつけたのだ


 切り刻んだ君の肉片を私の口の中に押し込みながら、


 あの女は、笑っていた


 覚えていません


 無力だった私を、許して欲しい


 記憶にないことです


 それでもいい


 私はあの時、


 人間としてこんな残酷な終わり方が、あっていいはずがないと思った


 そして君を創りあげた


 不完全な君を殺すたびに、気が狂いそうになったよ


 いや


 正常な人間にこのようなことはできやしない


 私にはやはり、あの母親の血が流れているのだな


 ……。


 そろそろ此処を離れたほうがいい


 私は、安心したよ


 君が


 人間とは異なるかもしれないが、幸福を求めてくれていたことに


 さようなら


 また私は、


 君を守ってやることが……できないのだな




 さようなら


 さようなら、お兄さま──
 
 
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