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第31話
しおりを挟む日曜日。
エレナ先生の自宅にいるカナの見舞いにやってきた。
メンバーは多川と白貫と二院。いつもの昼飯組だ。
以前、俺を先生のいる書斎まで案内してくれたおばさんが、また門の前で待ち構えていて、カナの部屋まで連れて行ってくれた。
多川たちはバカでかい家を見て驚いていたが病人の見舞いで来ているせいか、深くは追求してこなかった。
エレナ先生は当然だけど姿を現さない。
予告もせずにやってきたので、カナは驚いたけれど、見舞いの花束を渡すと喜んでくれた。
俺は花瓶を探してくると言って部屋を出る。
庭で水撒きをしているおばさんを見つけ、花瓶を用意してもらい、それを持って部屋に戻ると笑い声が聞こえた。
四人は僅かな時間ですっかり打ち解けていた。
花瓶を窓際の小さなテーブルの上に置いて、俺も話に加わる。
話題のほとんどは学校での出来事だったけれど、白貫と二院がカナにも分かるように細かな補足を入れてくれた。
カナは真剣に話に聞き入り、多川のボケと白貫のツッコミに笑う。二院とは恋愛小説の話題で盛り上がっていた。
カナは庭で蕾を膨らませている向日葵の話をしてくれた。
そうした他愛のない会話だけで時間はあっという間に過ぎていき、三人はそれぞれの言葉でカナを励まして帰っていった。
夕刻。
二人きりになった。
「悪かったな、いきなり大勢で押しかけて」
あんなことがあって塞ぎこんでいるんじゃないかと心配だったけれど、カナは以前より落ち着いているように見えた。
『いえ、楽しかったです。皆さん、いい人たちでした』
「そうだな」
『進さん』
「……?」
『わたしは、生きてみようと思います』
「当たり前だ。生きてるんだからな。生きたくても……生きられなかったヤツだっているんだ」
『アンドロイドとして生まれ変わる前、わたしは人間でした』
「……」
そのことには、薄々気がついていた。
前に、エレナ先生が言っていた。
《いくら技術が進歩したといっても、外部処理装置を使わずに人間の体型で自立稼動が可能なアンドロイドを作ることなんてできやしないわ》
だったら、機械なのは身体だけで脳は人間なのかもしれない、そうであれば説明がつくんじゃないかと、素人考えながら思っていた。
「こんな体になってしまいましたけれど、わたしは誰かに人間として認めて欲しかったんです。確実な死が迫っていく中、わたしが居たという証を──誰かの記憶に残すことができたら……それだけを心の支えにしてきました』
「……そうか」
『嬉しかったです。進さんがわたしを人間だって言って、抱きしめてくれたこと』
「あ、あれは」
『もうこれ以上は何もいらないと思いました。そして、できれば生まれ変わって、また進さんに出会えたら、』
「あのなぁ。そんな程度で満足するなよ。それに、生まれ変わって、って……いつの再開になるんだよ、それ」
『わたしが小学生になった頃、でしょうか』
「俺を犯罪者にする気か」
『愛があれば歳の差は関係ありません』
「無茶言うな。俺にそんな趣味はねーぞ。たとえそいつが、カナの生まれ変わりだったとしてもな」
『え……そんな』
「夢見過ぎだ、お前は」
『……宇佐美さまにも、そう言われました。希望は現実に持ちなさい、って』
「なあ、覚えてるか」
『はい?』
「絵本の最後の言葉」
『覚えています』
「俺は奇跡なんてものは信じねーことにしてるんだ。ハカナのことがあったからな。どんなに泣こうが、祈ろうが、声が出なくなるまで名前を呼ぼうが、あいつは帰ってこなかった」
『……』
「二度と御免だ。あんな思いをするのは。だけどな、もう一度だけ願うことにした」
『……進さん』
「今度は本当に立ち直れなくなるからな。絶対に生きることを諦めるな」
『はい、わかりました。わたしからも、進さんにお願いがあります』
「なんだ?」
『ここにはもう、来ないでください』
「……な、」
『すみません。でもこれは、一生懸命考えて決めたことなんです。わたしから会いに行くまで、ここには来ないでください』
「……」
『お願い……します』
「……わかった」
『手紙、書きますね』
「ああ。楽しみに待ってる。手術が成功して、早く戻ってこれるといいな」
『はいっ。また白貫さんや二院さん、多川くんにも会いたいです』
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