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第5話 御神木
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俺は彩の犬の散歩に付き合って、川沿いに並行する道を歩いている。
沙夜は学校(神社)に行ったらしい。俺が起きたときにはもういなかった。
大きく息を吸い込み、冷たく澄んだ空気で肺を満たす。
春とはいえ、やや肌寒い。
そりゃあそうだよな。
雪が降ったくらいだから。
けれど、雪はもう僅かしか残っていなかった。こんなド田舎でも、この時期に雪が降るのは珍しいことらしい。
すれ違う人の姿はなかったが、道にはいくつも足跡があるので、付近にちゃんと人が暮らしていることは確認できた。
何日も家の中にいたので、こんなことだけで安心してしまう。
ここは村だと聞いていたが、長峰姉妹しか見ていなかったので、俺としては半信半疑だった。
「この川だよ、桜居さんが流れてきたの」
対岸まで50メートルはあるだろうか。
とてつもなく流れが速く、水嵩もありそうだ。よくここから岸に上がれたなと、今さらながら思ってしまう。
「なあ、この辺にでかい桜の木はないか?」
「川に沿ってもうちょっと歩いた所に」
と言ったところで彩が話を止める。
「……どうして知ってるの?」
「俺はそこでお前らに拉致られたんだろ」
彩は歩くのをやめ、心外だという顔をする。
「……助けてもらったんでしょ」
「そういうことにしておく」
「桜居さんが倒れていた場所は、うちのすぐ近くだよ」
「大きな桜の木からは、かなり離れてるよ」
「そうなのか?」
「うん」
「彩たちに誘……じゃなくて助けられる前、記憶に残ってるのが、大きな桜の木なんだが」
「でも桜居さん、あたしの家の近くに、」
「まあ聞け」
彩の言葉をさえぎる。
「俺は大きな桜の木の近くに流れついた。誰かいないか探したんだが、人っ子1人いなくて、雪まで降ってきたから、木の下まで歩いたんだ」
「あの桜は、御神木なんだよ」
「そういえば、供え物とかしてあったな」
「うん。村の人が当番でやってるの」
やっぱり夢じゃない。
川から上がった俺は、冷えた身体を引きずりながら桜の大木まで歩いた。
そして、そこで1度気を失った。
次に目を開けると、
「そこで女に会ったんだ」
「女の子?」
「村のやつじゃないのか?」
目を閉じ、あの時のことを思い出す。
「長い黒髪で、おとなしそうな色白の……沙夜と同じくらいの歳で、白い服を着てたな……たしか」
「うーん。詠さんかな」
「知り合いか?」
「あたしは、それほど親しいわけじゃないけど」
「その女が俺の顔をのぞき込んでいたところまでは覚えているんだが……」
「その人、なにか言ってた?」
「いやなにも」
「どうして桜居さんは、うちの近くで倒れてたのかな」
「それは俺が聞きたい」
「途中まで運んでくれたのかな」
「そんな半端なことをする意味がないだろ。あの雪の中で、意識不明の人間を路上に放置するやつがいるか」
「きっと、詠さんは、ソリを取りに帰ったんだよ」
「それはオメーらだ」
翌日、その女(詠)が長峰家に訪ねてきた。
幸いソリは持っていなかった。
その代わりに、彼女は、1本の縄を手にしていた。
沙夜は学校(神社)に行ったらしい。俺が起きたときにはもういなかった。
大きく息を吸い込み、冷たく澄んだ空気で肺を満たす。
春とはいえ、やや肌寒い。
そりゃあそうだよな。
雪が降ったくらいだから。
けれど、雪はもう僅かしか残っていなかった。こんなド田舎でも、この時期に雪が降るのは珍しいことらしい。
すれ違う人の姿はなかったが、道にはいくつも足跡があるので、付近にちゃんと人が暮らしていることは確認できた。
何日も家の中にいたので、こんなことだけで安心してしまう。
ここは村だと聞いていたが、長峰姉妹しか見ていなかったので、俺としては半信半疑だった。
「この川だよ、桜居さんが流れてきたの」
対岸まで50メートルはあるだろうか。
とてつもなく流れが速く、水嵩もありそうだ。よくここから岸に上がれたなと、今さらながら思ってしまう。
「なあ、この辺にでかい桜の木はないか?」
「川に沿ってもうちょっと歩いた所に」
と言ったところで彩が話を止める。
「……どうして知ってるの?」
「俺はそこでお前らに拉致られたんだろ」
彩は歩くのをやめ、心外だという顔をする。
「……助けてもらったんでしょ」
「そういうことにしておく」
「桜居さんが倒れていた場所は、うちのすぐ近くだよ」
「大きな桜の木からは、かなり離れてるよ」
「そうなのか?」
「うん」
「彩たちに誘……じゃなくて助けられる前、記憶に残ってるのが、大きな桜の木なんだが」
「でも桜居さん、あたしの家の近くに、」
「まあ聞け」
彩の言葉をさえぎる。
「俺は大きな桜の木の近くに流れついた。誰かいないか探したんだが、人っ子1人いなくて、雪まで降ってきたから、木の下まで歩いたんだ」
「あの桜は、御神木なんだよ」
「そういえば、供え物とかしてあったな」
「うん。村の人が当番でやってるの」
やっぱり夢じゃない。
川から上がった俺は、冷えた身体を引きずりながら桜の大木まで歩いた。
そして、そこで1度気を失った。
次に目を開けると、
「そこで女に会ったんだ」
「女の子?」
「村のやつじゃないのか?」
目を閉じ、あの時のことを思い出す。
「長い黒髪で、おとなしそうな色白の……沙夜と同じくらいの歳で、白い服を着てたな……たしか」
「うーん。詠さんかな」
「知り合いか?」
「あたしは、それほど親しいわけじゃないけど」
「その女が俺の顔をのぞき込んでいたところまでは覚えているんだが……」
「その人、なにか言ってた?」
「いやなにも」
「どうして桜居さんは、うちの近くで倒れてたのかな」
「それは俺が聞きたい」
「途中まで運んでくれたのかな」
「そんな半端なことをする意味がないだろ。あの雪の中で、意識不明の人間を路上に放置するやつがいるか」
「きっと、詠さんは、ソリを取りに帰ったんだよ」
「それはオメーらだ」
翌日、その女(詠)が長峰家に訪ねてきた。
幸いソリは持っていなかった。
その代わりに、彼女は、1本の縄を手にしていた。
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