桜夜 ―桜雪の夜、少女は彼女の恋を見る―

白河マナ

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第24話 詠の葛藤

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 外に出ると青空が広がっていた。
 太陽の光が眩しくて、思わず手で両目を覆ってしまう。この村で見る空は、街で見た空よりも鮮明な青色をしている気がする。そして日の光は強い。

 石段に向かう途中に境内を眺めたが、詠の姿はなかった。しかし、長く続く階段の真ん中あたりに、竹箒を使って一段一段を丹念に掃除している詠がいた。

「大変そうだな」

「あ、桜居さん。話は終わったんですね」

 手を止め、にこやかに言う。

「朝早くから悪かった。それと…」

 言おうか一瞬迷ったが、

「日記のこと、ありがとな」

「うん。元気を出してなんて無責任なことは言えないけど、やっぱり、桜居さんは、ちょっと意地悪なくらいが丁度いいと思います」

「俺のどこが意地悪なんだ」

「色々ですよ」

「……」

「意地悪で──」

 と、言いかけたところで、詠は持っていた箒を落とした。カコンカコンと音を立てて、竹でできた箒が石段を落ちていく。

「あ……」

 走って箒を追いかける詠。
 俺はため息をつき、遠ざかる背中を見ながらのんびりと階段を下りる。

「……」

 逃げる箒を捕まえた詠が下からじっと俺のことを見つめていた。そして俺が到着するなり、

「な、何言ってるんでしょうね、私……」

「……?」

「あ、いえ……なんでもないです」

 詠の仕草から戸惑い、のようなものを感じる。

「変なやつだな」

「……そ、そうですよね」

 少し様子がおかしい。

「……大丈夫か? なにか拾い物でも食べたんじゃないのか?」

「ひろい……もの?」

「そうだ。御神木の供え物とか」

「そんなことはしませんよ……あっ、」

 食ってかかってくるのを期待していたのだが、思い当たる節を見つけたような表情をした。

「あ、あれは、ちゃんと綺麗なところだけ……」

 綺麗なところ?
 俺は、いつぞやの、詠のところに持っていった彩の手作りクッキーのことを思い出した。確かあれは俺がみんな地面に落としてダメに……。

「あれを……食ったのか?」

「……な、なんのことですか?」

 俺からの視線をそらして、とぼけて見せる。食べたらしい。

「あれを……」

「だ、だって、勿体ないですし……手作りのクッキーなんて滅多に食べられないですし……食べ物を粗末にするとお母さんに怒られるし……」

「……」

「……うぅ、そんな冷たい目で見ないでください」

 そう言った詠の顔が妙におかしくて俺は吹き出す。

「何もそんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」

「はは」

「う~」

 詠は怒って、竹箒を振り上げ──振り下ろそうとしたが、バランスを崩して階段から落ち──反射的に俺は詠の体を階段側に突き飛ばしていた。

 そして俺自身は階段を転げ落ちた。
 頭や肩、腰や膝などを何度か石段にぶつけ、数回転して止まる。

「……っ」

 立ちあがり、服についた土や砂や葉っぱなどを払う。体のあちこちが痛んだが、大したことはなさそうだった。

「怪我はないか、詠」

「……」

 こくりと頷く。
 突然のことに驚いたのか、詠はその場に座りこんでいた。

「どこも痛くないか?」

「頭、ぶつけました……」

 詠は涙目だった。

「そうか。それくらいで済んでよかった」

「よくないです…」

「痛いのか?」

「……痛いです」

 そう言うが、それほど痛そうには見えなかった。

「立てるか?」

「……うん」

「じゃあ、俺は帰るから」

 体中の痛みが退いてきたので、俺は一人で階段を下りだした。

「桜居さんっ!」

「……?」

「ありがとうございました」

「礼なんていらない。俺のせいだしな。詠の言う通り、俺は意地が悪いのかもしれない」

「……ごめんなさい」

「また、明日な」

「私……」

「ん?」

「私は……寂しいです。桜居さんがいなくなるのは」

「そうか」

「……はい」

「また、明日な」

「そうですね。また、明日ですよね」

「ああ。掃除、頑張れよ。邪魔して悪かったな」

「……邪魔なんかじゃないです」

 石段を四つくらい下りたところで、背後から竹箒が石とこすれ合う音が聞こえはじめた。
 木漏れ日が射す小道を抜け、俺は長峰家へと帰った。

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