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井戸の中
第11話 vs.スノーウルフ revenge
しおりを挟む僕はふと目を覚ました。
誰かに唇を触れられたような感触が残っていたけれど気のせいだろう。彼女は書き置きを残してどこかに行ってしまった。
彼女がいないのは寂しいけれど、僕がやれることはゴーレムを造ること。今日も僕はゴーレムを造る。
「スノーウルフにリベンジだ!」
僕は作り置きしていた粘土の10個全部を粘土台において、術石を取り外してから粘土同士をくっつけていく。粘土をねる時間は作り置きで短縮できたけれど、いつもの10倍の粘土を使っているので成形に時間がかかる。
「ゴーレムらしい、ゴーレム!」
ジークの話だと、ゴーレムの特性は耐久性にある。
ダメージをはじき返すくらいの強度と衝撃を吸収する柔軟性、それを満たすために太い両足と分厚い胴体を造り上げる。重心は低く、重く、踏ん張る力を強化するために足裏に金属ヘラで靴底のように溝を掘る。頭部は無くし、その分の粘土を両腕を繋ぐ肩部分に盛っていった。
あらゆる方向からの衝撃を逃がすため、全身にも溝をいれていく。
「……集中、集中」
僕はその時々で僕にできる最高のゴーレムを造る。それを毎日繰り返していれば、リリアナの魔法が完成するのに合わせて『ネジマキ』に対抗できるゴーレムができる、そう信じている。
「よしっ! できたーーっ!!」
半日以上かけてゴーレムの成形が終わった。
全長は約150センチメートル。僕の背丈よりも少し高い。首はなく、手足も胴体も人間の倍くらい太くて厚みもある。
僕はゴーレムの胴体、右腕、左腕、右足、左足の順番で術石を埋め込んでいく。術石はゴーレムが大きいほど多く必要になり、術石1個でだいたい直径50センチくらいの大きさまでゴーレム化できる。
最後に呪文を唱える。
「大地を司る神々の隷属よ 我が魔力を纏いし土塊を贄とし 其の化身となりて 我に従え」
僕はリリアナから教わった言葉を思い出しながら紡いでいく。
リリアナの術石には魔法の詠唱が埋め込まれていて、僕が魔力を込めて術石に触れながら『我に従え』と言うだけで魔法が発動してゴーレム化が始まる。だから呪文の全文を教わっていたけれど、これまで一度も使ったことがなかった。
だけどなぜか、今回は自分で詠唱してみたい気分になった。
呪文を唱え、ゴーレムの各部位にはめ込んだ術石に触れていくと、ゴーレムがただの粘土からぴきぴと音を立てながら硬質化していく。
「……これは」
今回の僕の造り方が良かったのか、詠唱をしたことが良かったのか、ゴーレムの色がいつもと違う。いつもは明るい黄土色なのに、全体的にとても深い茶色に変わっていた。
僕は護身用に置いてある剣を抜き、両手で柄をしっかりと握る。僕の小さな体じゃジークやカミルのような攻撃はできないけれど、剣先を大きく振り上げ、ゴーレムに向かって思いきり振り下ろした。
がきぃぃん
全体重を乗せたのにも関わらず、ゴーレムには傷ひとつつかなかった。強い衝撃が刀身を通して僕の両手に戻ってきて、思わず剣を落としてしまう。
「す、凄いっ!」
痺れた自分の両掌を見ると、小刻みに震えていた。
僕は早く鑑定院に行ってその強さを確かめたい衝動に駆られた。台車に乗せられないサイズなのでゴーレムに命令をして一緒に歩いて鑑定院に向かう。
どすどすとゴーレムが足をつくたびに僕の足裏にも振動が伝わってくる。僕とゴーレムは、町の人たちとすれ違うたびに物珍しさを含んだ眼差しを向けられた。
「こんにちは!」
「いらっしゃいませ。もう新しいゴーレムを造ったんですね」
「今回は自信がありますよ!」
「まさに誰もがイメージするゴーレムですね。このサイズの3倍くらいのゴーレムが造れたら、王都の警護だってできそうです」
鑑定院の受付嬢のセーシャさんは、少しのあいだ感嘆の目をゴーレムに向けていたけれど、事務的な顔つきに戻って僕の背丈を鑑定装置に向かう。僕は鑑定台までゴーレムを歩かせた。
「バトルも一緒にお願いします。サイズはBです」
鑑定料は対象のサイズによって決まる。Cが1立方メートル未満、Bは3立方メートル未満だ。
「それでは開始します」
音もなく静かに鑑定装置から一枚の紙が出てくる。僕が持ち込んだゴーレムの鑑定証だ。
名称:なし
種別:人型
LV:24
魔力:E
攻撃:C
防御:B
総合:D
サイズ:C
以上、鑑定結果である。
「……レベル24! 総合評価D!?」
「これは凄いです。ただ、この高レベルだとスノーウルフとは再戦できません。代わりにレベルに見合ったモンスターを闘技場側に選んでもらいますが、それでいいでしょうか」
「はい、それでお願いします」
少し残念だけど、不戦勝ということで、僕のゴーレムの勝ちとしよう。
「ではバトル会場に転送します。シュルトさんはバトルスペースの外に転送させて頂きます」
僕とゴーレムはセーシャさんの魔法で地下闘技場に転送され――
「あれ? 『ヤマト』じゃない……」
この広い円形のバトルスペース、それを中心に階段状に広がる観客席――階段が6段あるということは、ここは闘技場の中で二番目に大きいバトルスペース『エイジア』だ! どうして!?
それに僕のゴーレムはバトルスペースに転送されていない。
じゃぁぁぁん!!
突如、地下闘技場にシンバルの音が鳴り響く。その音は闘技場で不定期に開催されるゲリラバトル開始の合図だった。
【彼女の魔法完成まであと330日】
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