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井戸の中
第12話 vs.アメジスト・ツインパイソン
しおりを挟む闘技場全体から大歓声が上がる。
『本日のゲエェェリィィラァァァーーイベェーーーントッ!!! わずか九歳の天才少年が造った強力無比なゴーレムと、なんとあの古の大迷宮で捕獲されたばかりの大蛇アメジスト・ツインパイソンとの一戦だあぁぁぁぁぁ!!!!!』
大音量でアナウンスが流れると、会場のボルテージが跳ね上がる。ゲリライベントは賭けバトルの対象なので観客の目の色が違う。
いくら盛り上げるためでも……天才少年の造った強力無比なゴーレムって……。
「「「うおおおおおーーーーーーっ!!!!!」」」
会場は凄い熱気だった。
バトルと賭博という二つの興奮が地下空間で渦巻いている。
『バトル開始は15分後です。バトル勝者投票券の購入は、バトル開始3分前まで。双方の鑑定結果はバトルスペースの天井面に開示しております。それでは皆様、お楽しみください!!』
僕は天井を見上げる。
そこにはゴーレムを鑑定するともらえる紙と同じ情報が表示されていた。
名称:アメジスト・ツインパイソン
種別:蛇型
LV:26
魔力:G
攻撃:B
防御:D
総合:D
サイズ:S
「サ、サイズS!」
レベルも総合力も大きな差はないけれど、僕のゴーレムのサイズはBだ。サイズAが5立方メートル未満。その上のSサイズだなんて……アメジスト・ツインパイソンは、一体どれだけ大きいのだろうか。でも蛇だから単純に細長いだけなのか。
すでに勝者投票券の売り場には長い列ができている。勝者投票券は、バトルの勝者と決着までに要した時間を予想し、的中すればオッズに応じた配当が貰えるチケットのことだ。時間は1分以内、5分以内、10分以内の三種類。10分を過ぎるとドローとなって全額返金されることになっている。
僕も前に投票券を買ったことがあるけれど勝敗すら的中しなかった。リリアナから貰っているお金を無駄遣いしたことを反省して、それからは一度も買っていない。
『バトル開始10分前です。バトルスペースにご注目ください』
僕のゴーレムがサイズBのケージに入れられた状態でバトルスペースに転送されてくる。続いて、見たこともない10メートル超の巨大なケージとアメジスト・ツインパイソンが姿を現した。
「……嘘だろ」
会場内が静まり返る。
双頭の大蛇――アメジスト・ツインパイソンの胴回りの太さは1メートル弱、その長さはケージのサイズで推定すると15メートル以上あった。
子どもと大人のサイズ比じゃない。絶望的なほどの体格差があった。アメジスト・ツインパイソンは、頭から尻尾の先まで猛禽類のクチバシに似た形の紫色の鱗で覆われていて見るからに硬そうだ。僕のゴーレムの攻撃が通じるようには思えなかった。それに頭が二つあるから攻撃を避けるのも難しそうだ。
「ふざけるな! あんなゴーレムじゃ絶対に勝てねえだろ! もう賭けちまっただろうがっ!」
誰かが叫ぶと、それに同調や反発した人たちが方々から声をあげる。アメジスト・ツインパイソンが登場して沈黙していた闘技場がまた騒がしくなる。
「シュルトさん!」
呆然としている僕のもとに息を切らせてセーシャさんが駆け寄ってきた。きっと心配になって受付から飛び出してきたのだろう。
「申し訳ございません! ……まさかゲリラバトルになるなんて』
「いいんです。僕の最終目標は、ここで一番強いカオス・キマイラですから。たとえ負けてしまっても、今度はもっと強いゴーレムを造ってきます」
「いえ、それに関しては大丈夫かと」
「どういうことですか?」
「互いの見た目からオッズには差が出るかもしれませんけど、シュルトさんのゴーレムは、アメジスト・ツインパイソンにだって負けていないです」
そう言ってくれると少し自信が出てくる。
確かにレベルと攻撃面では劣っているかもしれないけれど、防御はこちらの方が上だ。僕は手に持っている鑑定証を見直す。
名称:なし
種別:人型
LV:24
魔力:E
攻撃:C
防御:B
総合:D
サイズ:C
ゴーレムの特性はその堅さにあるとジークが教えてくれた。攻撃よりもまず防御。その言葉を信じて僕はこのゴーレムを造った。僕が剣で斬りかかっても、傷ひとつつかなかった。
僕のゴーレムは強い。これまで造ったどのゴーレムよりも。ダントツに。
「ありがとう、セーシャさん。頑張ります」
じゃぁぁぁん!!
再び、耳を塞ぎたくなるほど激しいシンバルの音が地下闘技場全体に響く。ゲリラバトルの時間中は、他のバトルスペースでの戦いは行われない。今ここにいるすべての人たちが僕のゴーレムとアメジスト・ツインパイソンの戦いに注目している。
『皆様、多くの投票、ありがとうございました。お時間となりましたので、間もなくバトルを開始いたします。今しばらくお待ちください』
【彼女の魔法完成まであと330日】
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