彼女は戦いに赴き、僕はひとりゴーレムを造る

白河マナ

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伝説の魔王の剣

第22話 最後の課題

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 キセラによる歴史の勉強、セラ様がくれた入門書によるゴーレム造りの勉強、リュースによる剣術の稽古。
 この3つが、セラ様が僕のために用意してくれた旅の『暇つぶし』だ。
  
 ロドスタニアの町を発ってから8日。
 旅は順調そのものだ。晴天続きでアクシデントもなく、明日の夕方にはメキア村に到着する。
 昼食が終わり、キセラとルルメは馬車の荷台で並んで眠っている。
 魔族のルルメは昼間が苦手だから、昼食も取らず、夜になるまで眠っている。キセラは毎晩ルルメを質問攻めにしているので、同じ夜型生活になってしまった。
 
「だあああっ!」

 僕は強く木刀の柄を握り、リュースに向かって八割の力で振り下ろす。
 この攻撃はフェイクだ。攻撃を受けられた場合は全力の二撃目に繋げ、攻撃を避けられたらその懐に大きく踏み込む。

「よっと、」

 リュースは軽々と僕の攻撃を受け流してくる。
 よし、想定通りだ。
 体勢を崩さない程度に抑えた打ち込みから、捨て身覚悟の一撃に切り替え、リュースの体の中心に体重を乗せた渾身の突きを繰り出す――が、簡単に刀身でガードされてしまう。
 全力の突きを防がれて体勢が崩れた僕の脇腹を蹴り上げるリュース。
 僕は咄嗟に剣から左手を離して、鋭い蹴りを片肘で防いでダメージを軽減させる。そしてリュースの蹴りの力を利用し、ごろごろと転がって距離を取る。

「お、いいねぇ」

 蹴られた左腕が痺れて動かない。
 リュースは一気に間合いを詰め、片手持ちになってしまった僕の剣を弾き飛ばし、喉元に切っ先を向けられる。

「……参りました」

 項垂れる僕の手を取り、立ち上がらせてくるリュース。僕は飛んでいった剣を拾いに歩く。

「お前の敗因は、焦り過ぎ、考え過ぎ。何が何でも勝つってことに集中するよりも、相手の動きに集中して直感に任せて戦ってみたらどうだ?」

「はい、次はそうしてみます」

 負けて当たり前なんだけど、やっぱり悔しい。
 300年前の世界で、父が生きていた頃は、毎朝兄と剣術の稽古をしていた。兄さんには剣の才能があって、まるで歯が立たなかったけれど。

「初日に比べたら格段に良くなってるから、そんなに悔しがるなよ。毎日剣を振っていれば誰だってそこそこ強くなるもんだ。『訓練に慣れるな。周りをよく見ろ。仲間を助けろ』。俺に剣を教えてくれた師匠の言葉なんだが、俺が生き残ってるのもこの言葉のお陰だと思ってる。訓練でいちいち落ち込んでたら、実戦でも気持ちの切り替えが遅れちまう。周りを見ろってのは、心にゆとりを持てということだな。それができれば自然と周りが見えてくる。戦いの最中に木の根に躓いてモンスターにやられたヤツもたくさんいる。モンスターとの戦いは1本取って終わりとはならねーし、複数の敵との戦いは目の前の敵だけを倒しても戦闘は終わらない。絶対に勝ち切らなければならねえ戦いは少ない。時には逃げ恥を晒してもいい。自分も死なず、仲間も死なせない。それが長生きの鉄則だな」

「ありがとうございました。また明日もお願いします」

「おうよ! 俺も馬を引いてるだけじゃ体がなまっちまうから助かる。キセラ様からその分の酒も金も貰ってるしな!」

 僕はリュースの笑顔が好きだ。
 今回の旅の仲間がリュースで良かった。
 よく話しかけてくれるし、色々なことを知ってるし、面白いことを言って皆を笑わせてくれたりもする。

 馬車の長旅は賑やかな方がいい。
 そういえば……カミルの冒険者パーティーも、みんな明るいな。
 キセラもルルメも冒険者ではないし、もしかしたら冒険者にはリュースみたいな人が多いのかもしれない。


◇ ◆ ◇


「できたっ!」

 僕は『シュルト君でもわかるゴーレム入門』の最終ページの課題を達成し、入門書を閉じる。
 やっと終わった……。

 にゃー

 最後の課題は『ゴーレムの猫を鳴かす』。
 入門書に書かれていたソースコードを真似て、最終課題までに学んだことを応用しただけだけど、かなり時間がかかったので達成感があった。
 ルルメが先に『ルル』でやってしまったので、感動が半減している気もするけど……僕にも同じことができるとは思わなかったので嬉しい。

「メメ、おいで」

 ルルのソースコードはルルメに上書きされてしまったので、僕は新しいゴーレム猫を造った。ルルと見分けがつくように、しっぽを2本にして『メメ』と名付けた。
 これまでリリアナの術石に頼っていた動きの制御部分についても理解が進んだ。まだまだ分からないことばかりだけど。
 でも収穫はたくさんあった。
 たとえば、僕はリリアナに言われるがままにゴーレムの元になる粘土に魔力を込めていたけれど、その練度はゴーレムの硬度と術石のソースコードの処理速度に影響すること。
 過去のゴーレムマスターたちは、類似コードの乱立を避けるためにサブルーチンと呼ばれる処理のまとまりを残していて、僕のソースコードから呼び出して流用できること。
 どちらも知らなかったことだ。

 もしどこかに猫の動きをまとめたサブルーチンがあるなら、数行のコードを書くだけで本物の猫の動きをするゴーレムを造れてしまう。
 もしどこかに剣術の達人の動きをまとめたサブルーチンがあるなら、丈夫だけど単純な動きしかできない僕のゴーレムも一気に強くなりそうだ。

「ルルと双子みたいですね。相変わらず、シュルト様の造形技術は素晴らしいです」

「キセラ! やっとセラ様の課題が終わったよ!」

「そのようですね。それでは、ゴーレム造りの最終テストをしましょうか。セラ様の入門書をしっかりとやっていれば、とても簡単な問題です」

 キセラはそう言うと、一枚の紙を僕に渡してくる。

 これは……。
 以前、僕が魔法士ギルドでキセラに見せた、リリアナのソースコードだった。


【彼女の魔法完成まであと320日】
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