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96,*加害者たち*
佐々木隆の部屋に中川鉄男が訪れていた。
鉄男 「どないや、店の方は?」
隆 「どうもこうもや。いつ追い出されるか分かれへん」
鉄男 「お前のとこもか。俺んちは親父が駆けずり回ってる」
隆 「写真を渡したくらいで収まる筈も無いけどな~」
鉄男 「なんか、女の匂いがするな、気のせいかな?」
隆 「うっうん。・・・実はな、舞のアネキがな近頃遊びに来てるんや」
鉄男 「遊びにって、もしかして、あれか?」
隆 「そうや。なんかしらに嵌(はま)ったみたいや」
鉄男 「ってことは、親子丼でのうて(なくて)姉妹丼やな。
それはそれで結構なこっちゃな」
隆 「見るか?」
鉄男 「また、写真を撮ったんか?」
隆 「寝てる隙を狙ってな。ちょっと、待っとれ」
隆が机の引き出しから、上田愛の赤裸々な写真を取り出して来て鉄男に手渡した。
鉄男 「気位の高いお嬢さんも、これじゃ、かたなしやな。・・・それで、どっちの方が良かっ
た」
隆 「うん。オッパイは舞の方が大きかったな。それに、あそこもええ按配に収まってた気がす
る」
鉄男 「同じもんを喰うてても、違うんやな」
隆 「そんでやけど、この写真で持って風当たりを良くして見ようて考えてる」
鉄男 「その手が有ったな。そっちはそれで済んでも、こっちの方はなかなかや。
話は変わるけど、なんとかして俺もアネキの方とでけへんか?」
隆 「どさくさに紛れて、やれん事も無いやろ」
何の気兼ねも無く二人は思いの程を語り合って居たが、戸口の外には息を潜めて上田愛が呆然と立ち尽くして居るとは思いも寄らなかったであろう。
思えば、隆の人となりを知り得ていた訳では無い。
今、その心中を耳にした。
性の欲望を満たすだけの関係で合っても、これ以上、隆と付き合う事は出来ない。
元々、許される関係で無いことは分かっていた。
隆は妹の舞を襲った張本人であるのだから~。
『やっぱり、罰が当たったんや。そんでも、どないしょう?』
等と、考えを廻らせながら、愛は足音を忍ばせて階段を降りて行った。
夏休みが終われば、頻繁に通えることも無くなると思い立って隆の部屋まで来てみたが、打って変わって、まるで、刃物を背中に突き付けられて居る様な思いを抱かされる結果になって仕舞った。
自身を窘め二度とこの部屋に来ないと決めても、その写真を何とかしなくては成らない。
ここしばらく、愛の頭の中にはその事が付きまとって離れないだろう。
一方、吉住広志の様子が近頃可笑しくなって来ていた。
悪い夢でも見て寝付けないのか、目の辺りがどんよりとして、おまけに、時々、吃音を発している。
もしかすると、襲われて居た時の舞の地獄絵図の様な形相が頭から離れないで居るのかも知れない。
思い返せば、彼は二度目の行為を躊躇って居た。
余程の印象を受けた様である。
「広志、どないしてるんや?部屋に籠(こも)りっきりで、ろくになんも食べてへんやろ」
吉住アツ美はドア越しに弟の広志に語り掛けていた。
「な・なんも、い・要らん!」
「そうかて~」
「ほっ・ほっといてくれ」
「具合が悪いんやったら、お医者さんに行って見るか?」
「そ・そやから、ほっ・ほっといて、く・くれって!」
「・・・」
溺愛している弟に無下に扱われたアツ美は成す術もなくその場を離れた。
『やっぱり、なんか変やな』
自ら身を投げ出してまでして徹からの報復を凌(しの)いで居るのに、広志が病んで仕舞っては元も子もない。
アツ美はこの日も店の看板の足にリボンを結わえていた。
帰宅時に徹はそれを目にするだろう。
彼の都合が良ければ、そのリボンに結び目が一つ加わる事に成る。
アツ美も又、どこかしらを病んで居るのかも知れない。
事の良し悪しの区切りが出来ずに居た。
日が暮れると、アツ美はそれを確かめに店の表に出た。
『良かった』
アツ美は胸を撫で下ろした。
リボンの結い目が一つ加わって居た。
店のシャッターを下ろしたアツ美の足は例の工場へと向かった。
「待ちました?」
「それほどでも~」
徹は興信所の幸子が設(あつら)えていた品々を使ってコーヒーを飲んで居た。
「アツ美も飲むか?」
「はい、それは私が~」
慣れない手つきの徹を制してアツ美は自ら手を動かした。
「なんか、元気が無いようだが、どうかしたのか?」
「・・・広志が少し変なんです。こんな事を言えた立場では無いでしょうが、舞さんとの事が原因では無いかと思います」
「ん?どういう事なのかな?」
「徹さんが私を無理強いした時、心に蟠(わだかま)りを抱きませんでしたか?」
徹はその時の事を思い浮かべた。
確かに、復讐の思いに駆られて居た胸の片隅にアツ美を憐れむ思いが存在して居た。
その思いはこうしてアツ美と睦逢う仲になって居ても未だに残っている。
「精神科の医師に知り合いがいるけど、一度相談してみるか?」
傍から見れば、徹の心境を訝(いぶか)ってしまう所では有る。
恐らく、医師とは小浜哲司であろう。
被害者の舞に寄り添って居る人間を加害者の広志の治療に向わしめるのである。
尤も、治療に当たる医師にとっては患者は患者以外の何者でも無いだろうが。
それでも、小浜は舞の叔父である。
気安く頷いてくれるであろうか。
アツ美の頬に明るみが差した。
「良いんですか?」
「あぁ、気心が知れて居る人間だし、応じてくれると思うよ」
アツ美は膝を進めて徹の傍らに向い、その肩に身を委ねた。
「余程の弟思いなんだな、アツ美は」
「ええ、でなければここに来て、こうして居ることは無いと思います」
徹は気負って居た訳では無い。
アツ美の話は尤もな事である。
誰が好き好んで親子ほどの年の差が在る自分と交わるであろうか。
だが、その反面、失望の念を隠せないでいる。
アツ美は機敏にそれを感じ取っていた。
「そんな顔をしないで下さい。今は、違って来て居ますから~」
徹はアツ美の肩を抱き寄せ、唇を重ねた。
アツ美もそれに応じる。
いつしか、アツ美は頼りない自分の父親と徹を見比べ、徹の方により強い頼りがいを感じていた。
それは心だけでは無かったようだ。
この工場の小部屋に入り込んだ時には、既に、身体が否応なく疼き始めても居たのだ。
鉄男 「どないや、店の方は?」
隆 「どうもこうもや。いつ追い出されるか分かれへん」
鉄男 「お前のとこもか。俺んちは親父が駆けずり回ってる」
隆 「写真を渡したくらいで収まる筈も無いけどな~」
鉄男 「なんか、女の匂いがするな、気のせいかな?」
隆 「うっうん。・・・実はな、舞のアネキがな近頃遊びに来てるんや」
鉄男 「遊びにって、もしかして、あれか?」
隆 「そうや。なんかしらに嵌(はま)ったみたいや」
鉄男 「ってことは、親子丼でのうて(なくて)姉妹丼やな。
それはそれで結構なこっちゃな」
隆 「見るか?」
鉄男 「また、写真を撮ったんか?」
隆 「寝てる隙を狙ってな。ちょっと、待っとれ」
隆が机の引き出しから、上田愛の赤裸々な写真を取り出して来て鉄男に手渡した。
鉄男 「気位の高いお嬢さんも、これじゃ、かたなしやな。・・・それで、どっちの方が良かっ
た」
隆 「うん。オッパイは舞の方が大きかったな。それに、あそこもええ按配に収まってた気がす
る」
鉄男 「同じもんを喰うてても、違うんやな」
隆 「そんでやけど、この写真で持って風当たりを良くして見ようて考えてる」
鉄男 「その手が有ったな。そっちはそれで済んでも、こっちの方はなかなかや。
話は変わるけど、なんとかして俺もアネキの方とでけへんか?」
隆 「どさくさに紛れて、やれん事も無いやろ」
何の気兼ねも無く二人は思いの程を語り合って居たが、戸口の外には息を潜めて上田愛が呆然と立ち尽くして居るとは思いも寄らなかったであろう。
思えば、隆の人となりを知り得ていた訳では無い。
今、その心中を耳にした。
性の欲望を満たすだけの関係で合っても、これ以上、隆と付き合う事は出来ない。
元々、許される関係で無いことは分かっていた。
隆は妹の舞を襲った張本人であるのだから~。
『やっぱり、罰が当たったんや。そんでも、どないしょう?』
等と、考えを廻らせながら、愛は足音を忍ばせて階段を降りて行った。
夏休みが終われば、頻繁に通えることも無くなると思い立って隆の部屋まで来てみたが、打って変わって、まるで、刃物を背中に突き付けられて居る様な思いを抱かされる結果になって仕舞った。
自身を窘め二度とこの部屋に来ないと決めても、その写真を何とかしなくては成らない。
ここしばらく、愛の頭の中にはその事が付きまとって離れないだろう。
一方、吉住広志の様子が近頃可笑しくなって来ていた。
悪い夢でも見て寝付けないのか、目の辺りがどんよりとして、おまけに、時々、吃音を発している。
もしかすると、襲われて居た時の舞の地獄絵図の様な形相が頭から離れないで居るのかも知れない。
思い返せば、彼は二度目の行為を躊躇って居た。
余程の印象を受けた様である。
「広志、どないしてるんや?部屋に籠(こも)りっきりで、ろくになんも食べてへんやろ」
吉住アツ美はドア越しに弟の広志に語り掛けていた。
「な・なんも、い・要らん!」
「そうかて~」
「ほっ・ほっといてくれ」
「具合が悪いんやったら、お医者さんに行って見るか?」
「そ・そやから、ほっ・ほっといて、く・くれって!」
「・・・」
溺愛している弟に無下に扱われたアツ美は成す術もなくその場を離れた。
『やっぱり、なんか変やな』
自ら身を投げ出してまでして徹からの報復を凌(しの)いで居るのに、広志が病んで仕舞っては元も子もない。
アツ美はこの日も店の看板の足にリボンを結わえていた。
帰宅時に徹はそれを目にするだろう。
彼の都合が良ければ、そのリボンに結び目が一つ加わる事に成る。
アツ美も又、どこかしらを病んで居るのかも知れない。
事の良し悪しの区切りが出来ずに居た。
日が暮れると、アツ美はそれを確かめに店の表に出た。
『良かった』
アツ美は胸を撫で下ろした。
リボンの結い目が一つ加わって居た。
店のシャッターを下ろしたアツ美の足は例の工場へと向かった。
「待ちました?」
「それほどでも~」
徹は興信所の幸子が設(あつら)えていた品々を使ってコーヒーを飲んで居た。
「アツ美も飲むか?」
「はい、それは私が~」
慣れない手つきの徹を制してアツ美は自ら手を動かした。
「なんか、元気が無いようだが、どうかしたのか?」
「・・・広志が少し変なんです。こんな事を言えた立場では無いでしょうが、舞さんとの事が原因では無いかと思います」
「ん?どういう事なのかな?」
「徹さんが私を無理強いした時、心に蟠(わだかま)りを抱きませんでしたか?」
徹はその時の事を思い浮かべた。
確かに、復讐の思いに駆られて居た胸の片隅にアツ美を憐れむ思いが存在して居た。
その思いはこうしてアツ美と睦逢う仲になって居ても未だに残っている。
「精神科の医師に知り合いがいるけど、一度相談してみるか?」
傍から見れば、徹の心境を訝(いぶか)ってしまう所では有る。
恐らく、医師とは小浜哲司であろう。
被害者の舞に寄り添って居る人間を加害者の広志の治療に向わしめるのである。
尤も、治療に当たる医師にとっては患者は患者以外の何者でも無いだろうが。
それでも、小浜は舞の叔父である。
気安く頷いてくれるであろうか。
アツ美の頬に明るみが差した。
「良いんですか?」
「あぁ、気心が知れて居る人間だし、応じてくれると思うよ」
アツ美は膝を進めて徹の傍らに向い、その肩に身を委ねた。
「余程の弟思いなんだな、アツ美は」
「ええ、でなければここに来て、こうして居ることは無いと思います」
徹は気負って居た訳では無い。
アツ美の話は尤もな事である。
誰が好き好んで親子ほどの年の差が在る自分と交わるであろうか。
だが、その反面、失望の念を隠せないでいる。
アツ美は機敏にそれを感じ取っていた。
「そんな顔をしないで下さい。今は、違って来て居ますから~」
徹はアツ美の肩を抱き寄せ、唇を重ねた。
アツ美もそれに応じる。
いつしか、アツ美は頼りない自分の父親と徹を見比べ、徹の方により強い頼りがいを感じていた。
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