ペンフレンド~君と綴った季節~

クニ

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97,*「ひろしっ!」*

 工場の部屋では上田徹と吉住アツ美が身体を寄せ合って居た。
 幾度となく唇を合わせて行く内に、胸の鼓動が怪しく打ち始め出した。

  徹がアツ美を寝かせ覆い被さろうとした時である。
 何者かが彼の背後に迫って居た。
 その手には機械の台座に使用されて居た角棒が握られて居る。

 彼に気付いたアツ美は思わず、

「ひろしっ!」

と叫び声を挙げた。

『バシッ』 

 と、鈍い音がした。

 不意に背中に衝撃を受けた徹は、

『グッ』

と、その痛みを堪え偲んで居る。

 徹に一撃を加えた吉住広志は、訳の分からない言葉を発しながらその場から逃げ去った。

 徹の体を押しのけ身を起こしたアツ美は信じられない出来事におののき、広志の後ろ姿を目で追う事しか出来ずに居た。

「徹さん、大丈夫ですか?」
「う、うん。誰だった?」

「そ、それが~」

 顔を見定めて居たであろうアツ美が言葉を詰まらせて居るのを見て取った徹は、

「君の弟か?」
「ごめんなさい。なんで、あの子がここに・・・」


 アツ美が店のシャッターを下ろし足を早めて何処かに向かったのを、広志は二階の窓から見ていた。
 何かしら思うところが有ったのであろう、すぐさま、彼はアツ美の後を追った。
 階段を駆け下り、店の裏から表通に行きついた広志に遠のいたアツ美の姿が見えていた。

 アツ美は広志が後から着いて来ていることなど気付く筈もなく、何の躊躇いもなく徹の下にまで来て仕舞って居たのだ。


 思ったほどの痛みでは無いようだ。
 気が動転して居ては、広志の力加減もぐらついて居たのであろう。

 とんだ邪魔が入って仕舞った。
 アツ美はかいがいしく徹の背中に周りシャツをはたけ、角棒が打ちつけられた所に眼をやった。

「赤く腫れてる」
「大丈夫だ、これくらいなんと・・・も~」

「案外、強がりなんですね。今、ぬれタオルを~」

 アツ美は流しへと向かい、タオルを濡らして戻って来た。

「ちょっと、滲みるかも~」

「うっ!」
「ほら、大丈夫じゃないでしょ」

 徹は痛みを堪えながら背後のアツ美に話し掛けた。

「まるで、狂人の様な叫び方をして居たな。善悪の見境も付かないようだ」
「きっと、私が徹さんに襲われていると勘違いをしたんです。舞さんとの事も重なってあんな真似をしたんだと思います」

「それにしても、この先が思いやられる。さっきも言ったが、早い内にその筋の医者に診て貰った方が善いだろう」
「お願い出来ますか?」

「うん。一応、当たって見る。・・・それでだが、今夜はもう帰る事にしようか。彼も、無事に家に帰り着いているか分からないだろうし」
「はい、そうします。家まで送らなくて良いですか?」

「バカを言うんじゃない。何処で誰が見ているか知れない。今もそうだっただろう。アーケード街で別れる事にしよう」
「分かりました。それで・・・本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、二三日は引きずるだろうが~」

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