転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
11 / 1,259

十話三人からの視点

しおりを挟む
俺は夢でも見ているのではと思った。

「こんなことが、あるのか」

目の前の光景に思わずそんなことをつぶやいた。

「は、はははっ。凄いな、なんて少年だ」

「うそ、でしょ。あんな、私達より年下の子が・・・あんなに・・・・・・」

仲間であるアガルスと弓術士のエルミは、目の前の光景にかなり驚いていた。
いや、仕方ないと思う。おそらくまだ十五ぐらいだろう。そんなまだ俺達より駆け出しのはずの冒険者が自分達が敵わなかったコボルトの上位種に圧勝しているのだからな。

コボルトウォーリア―の剣を、見たことがない形状の剣? で打ち壊し、そのまま首を跳ね飛ばした。
その様子はわかったが、太刀筋がほとんど見えなかった。

そして不意を突き、少年の頭を狙いコボルトアーチャーが放った矢と、コボルトファイターが投擲で投げた大きな石を、難なく背を後ろにそらし避けた。

「今の攻撃をあんな余裕な顔で避けるのか。完全に不意を突いていたはずなのに」

アガルスは口を大きく開けて、信じられないという表情をしていた。
だがこの後の少年の行動にさらに驚かされた。

少年は残りの上位種たちに向かって走り出した。驚くことに魔法の詠唱をしながらだ。
これには俺も心底驚かされた。今少年がやっていることは、並行詠唱という技能のはずだが、前に知り合いにどれほど難しいのかと聞いたら無詠唱並みに難しい、上級の魔法使いが使う技能だと言われた。

そんな技能を、目の前の少年が使っているのを見て、俺達三人は開いた口がふさがらなくなった。
さっきのコボルトウォーリア―の一合だけでも、剣の腕はかなりのものだと思ったが、魔法の腕も自分達の完全な予想外の凄さに驚きが隠せなかった。

そして並行詠唱は失敗に終わることなく、コボルトアーチャーの頭を吹き飛ばした。
魔法の威力も申し分ない。俺達が少年の技量の凄さに感心していると、コボルトファイターが間髪入れず両拳で連打を少年に入れた。
持っているスキルの影響か、それともコボルトファイター自身の身体能力なのか、俺は拳を目で追うのがやっとだった。

だがその連撃を少年は、一撃も喰らわず躱すか拳で受け流している。
もう驚くことはないだろうと思っていたが、そうはいかなかった。
コボルトファイターの連打が来る瞬間妙な剣をしまうのを見て、血迷ったのかと思ったがそうではなかった。

あの少年は剣と魔法を使え、さらに肉弾戦も出来る様だ。
これにはさすがに驚くというよりは、信じられないという気持ちの方が大きかった。

冒険者にかぎらず、モンスターや人を相手にする職業の者達は基本的に、あれやこれに手を伸ばさず一つの者を極めようとする。手を出しても補助程度にしている者が多い。
偶にあれもこれも出来るって人物に合うが、全部素人に毛が生えたような技量ばかりだった。

だがら目の前の人物程、なんでも出来る人は見たことがなかった。

「・・・・・・こんな冒険者がいるんだな」

目の前の少年は、おそらく有名な冒険者なんだろうと思った。
おかしくはない話だ。現に自分達と同じぐらいの年齢で自分達より各上の者がいるという話は、何度か聞いたことがある。目の前の少年はきっとそういう人物なんだろうと思った。

そして少年がコボルトファイターの両腕を弾くと無防備になった体におそらく三発ほど拳を入れた。
少年の拳を貰ったコボルトファイターは後ろにあった木に激突し、そのまま崩れ落ちた。
これで残りは後コボルトウォーリア―だけになった。

だが、そこでまた狙っていたかのように、相手を倒し終わった少年に、コボルトウォーリア―が斧を脳天めがけて振り下ろした。

危ない!!! っと俺達は叫びそうになったが、少年は初めからコボルトウォーリア―が、この瞬間を狙っていたことが分かっていたようだった。

少年はコボルトウォーリア―が振り下ろした斧を、片手で掴んで受け止めた。
コボルトウォーリア―はそのことに驚いた顔をしたように見えたが、直ぐに力を入れなおし少年を押しつぶそうとした。だが少年は微動だにしなかった。
俺も力には少し自信があるが、モンスターの攻撃を素手で受け止めようとする勇気はない。

少年は受け止めていた斧を離すと素早く懐に潜りこみ、コボルトウォーリア―の両腕を掴むとそのままコボルトウォーリア―を前に引っ張り、半回転させ地面に叩き付けた。

その光景を見て俺はウッと、自分が喰らっているわけでもないのに痛みを感じた。
おそらく今まで何度か喰らってきたことがある痛みだ。
体の中から何かが一気に抜け、息がつまるあの感覚なんだろう。

そして少年は右腕を振り下ろしコボルトウォーリア―の腹を殴りつけた。

コボルトウォーリア―は血を口からたくさん吐き出すと、それ以降は動く気配はなく息絶えた。
よく見るとコボルトウォーリア―の腹に穴が開いており少年の手は血で濡れていた。

こうして少年とコボルトの上位種達の戦いが終わった。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「お前の《記録》なんて役に立たない。もうついてくるな」 勇者パーティの“お荷物”扱いに耐えてきたライトは、 ついにダンジョン最深部で置き去りにされる。 追放すらできない規約のせいで、 “事故死”に見せかけて排除しようとしたのだ。 だがその死地で、ライトのスキル《記録》が進化した。 《超記録》―― 敵のスキルや魔法、動きまですべてを記録し、即座に使えるようになる最強格の能力。 生き延びたライトはレグナの街で冒険者として再出発。 努力で《成長》スキルを獲得し、 記録したスキルや魔法は使うほど強化されていく。 やがて《超記録》は最終進化《アカシックレコード》へ。 対象を見ただけでステータスや行動パターンが分かり、 記録した力を即座に上位化し、さらに合成して新たな力まで生み出す究極スキル。 一方、勇者パーティはライトを失った途端に依頼成功率が大幅に低下。 さらに魔王軍四天王の暗躍によって状況は悪化し、ついには洗脳されてライトに牙をむく。 街を襲うドラゴン、仲間それぞれの過去、四天王との連戦。 優しく努力家のライトは、出会った仲間と共に確実に強くなっていく。 捨てられた記録係が、世界最強へと進化する。 爽快無双×成長ドラマの大長編ファンタジー開幕。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...