転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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五百十話 それはそれで不満

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轟炎流剣術道場での指導を終えた翌日、ソウスケ達は予定通り中級者向けのダンジョンへと向かっていた。

「……昨日の視線はなさそうだな」

「そのようですね。もしかしたら暗殺ではなく、誰かがザハークの生態を調べて欲しいと依頼した可能性の方が高そうですね」

「なんだ、暗殺ではないのか」

誰かが自分に勝負を挑んでくるのかと期待していたザハークとしてはがっかりな報告。
だが、ソウスケとしてはホッと一安心出来る結果だ。

(あまりないとは思いたいが、俺達に視線を向けていた裏の連中が誰かに頼まれて俺達を殺そうとしているのなら、最悪の場合は街中で戦闘になるかもしれない。仮にそうなったら絶対に逃がすつもりはないが……戦闘になったからこの街の兵士達に事情を説明するのは面倒くさそうだ)

そうなってしまったら、それはそれでしょうがないと片付ける。
しかしそういった揉め事への発展はなるべく避けたいのも事実。

「ザハーク、あまり不謹慎な発言はしないでください。戦う相手はダンジョンの中に生息する、もしくは街の外にいるモンスターか盗賊で十分でしょう」

「それはそうだが……モンスターの殺意と違って人の殺意も中々刺激があるものだと思うぞ」

「……そういった違いはあまり興味ありません。ですが……それが事実なら殺意を向けられた時の感覚が異なり、迫りくる状況が即座に把握出来るかもしれませんね」

人とモンスターが放つ殺意の感覚が実は違う。
それは誰でも解かる感覚ではないがその違いが解ればミレアナの言う通り、どういった脅威が迫ってきているのか解りやすい。

「暗殺者ではなく探偵か情報屋か……だとしたらダンジョンから戻ってきた時に誰かが声を掛けて来るかもしれないな」

「おそらくザハークの引き抜き目的でしょうね」

「だろうな……ザハーク、そもそもその話を聞くだけ聞くか?」

「美味い飯が食べられるならとりあえず話だけは聞く。まっ、ソウスケの元から離れるつもりは毛頭ないがな」

美味い飯が出るならとりあえず食べたい。
食欲をまず優先させるが、例えザハークの舌を唸らせる料理が出てきたとしても、ザハークはソウスケの従魔という立場から離れるつもりは一切ない。

「嬉しいことを言ってくれるな。てか、ザハークとは別にミレアナへの視線もちょいちょいあるよな」

「……厭らしい視線な何度も向けられていますが、そこまで厄介事の匂いがする視線は向けられていないかと。どこからのパーティーが引き抜こうかと考えながら私の行動を観察しているかもしれませんね」

「は、ははは……それは普通に気色悪いストーカーだな」

ミレアナが実力者ということは解かる者なら解る。
ただ、鑑定を使わなければどういったスキルを習得しているのかは分からない。

(とりあえず強そう。そして綺麗でナイスバディだからあわよくば恋仲に……なんて事を考えてる輩が大半。あとは女性だけで組んでるパーティーが直感的にミレアナを引き抜きたいと考えている……どっちもありそうだな)

ミレアナの美しさに嫉妬する女性冒険者もいるだろうが、そういった感情を持つ者の殆どがぶりっ子腹黒女だけ。
女性だけのパーティーというのは、男性が苦手の冒険者からすれば居心地の良い空間。

そして実力の高い仲間が増えれば変態男達がもし気が狂って襲ってきたとしても対処出来る。
そう考えると、ミレアナの様な強くて美しい冒険者は女性だけの冒険者パーティーに需要があるのだ。

「実力を考えての引き抜きだと、何故ソウスケさんを狙わないのかが不思議です」

「同感だな。超オールラウンダーで実力も俺達の中で一番高い。にも拘わらず、ソウスケさんにそういった考えを向ける者がいない……それはそれで良いのだがな」

「何度も思うが、俺は見た目が平凡だからな。あまり俺単体を引き抜こうと考える奴はいないんだろう」

ソウスケとしても自分の実力は高いと思っているが、顔面偏差値は高くない。
冒険者はまず実力第一だが、容姿を気にする者は多い。

その辺りやそもそもソウスケの実力を正確に把握するのが難しいという面を考えると、引き抜きを考える冒険者は大して多くない。

だが、その現状にミレアナとザハークはやや不満を感じていたのだった。
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