転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
624 / 1,259

六百三話 判断が速い!

しおりを挟む
二回りほど体が大きいフォレストタイガーは即座にこの場から離れようと判断した。

自分より体が小さいとはいえ、同じフォレストタイガー。
従えた二体だけでは倒せない冒険者やモンスターは今までにいた。

だが、自分が加われば今まで倒せなかった相手はいなかった。
まだ冒険者ギルドには伝わっていないが、この三体はそれなりの冒険者を殺していた。
いずれはギルドの方から指定で討伐依頼が出されるほどの力と連携力を有していたのだが……リーダーであるフォレストタイガーは仮に、最初から自分も戦いに参加していれば同族を殺したエルフに勝てるとは思えなかった。

そして自分の視る眼の無さを呪った。
逃亡という選択を取ったことに関して、強者としてのプライドが傷付けられた……なんてことは一ミリも持っていない。

他のモンスターよりも生存本能が強いため、逃亡を非とは考えない。
ただ、今まで従えた者たちと一緒に戦った相手が、偶々こちらが逃げるほどの力を持っていなかっただけ。

兎に角生存本能が強いフォレストタイガーは逃げるしか道がないと即座に判断した。
どれぐらい早いかというと……一体目の同族が殺された瞬間には足に力を込める。
そして二体目の喉が風剣で貫かれたのと同時に駆け出した。

助ける気などさらさらなく、とにかく逃げようと……生き延びようと必死。
身体強化と脚力強化を使い、四肢に風の魔力を纏う。

そしてダンジョンに生まれたときから備わっているスキル、逃亡……逃走時に脚力が上昇する。
計四つの強化スキルを使用していた。

「逃がしませんよ」

「ッ!!!???」

隣から聞こえた声に驚きを隠せず、目を思いっきり見開く。

あり得ない。自分は全力で逃げた。
逃げる瞬間、このエルフは後ろを向いていた。
絶対に自分が追いつける訳がない……だが、現実として隣から声が聞こえ、そちらに振り向くと先程同族と戦っていたエルフが……正確にはエルフの上位にあたる種族、ハイ・エルフがいるのだ。

冷静に考えれば今までは考えられなかった光景が目の前で起ったのだ。
あり得ないことが現実となる。

目の前で起ったことが他人事であれば、冷静に判断出来たかもしれない。
しかし、いざ我が身に起きれば脳はそう簡単に物事を冷静に捉えることが出来ない。

(本当に、賢いというか……判断が速い個体ですね)

二体目のフォレストタイガーを倒す際に、リーダー格であるフォレストタイガーが全力で移動することは気配の動きで把握していた。

ただ、その速度が予想していたスピードよりも上だったので、少々焦った。
それでもミレアナが身体強化系のスキルを複数同時に発動すれば、Cランクのフォレストタイガーに追いつくことぐらい容易い。

「せい!!!!」

逃亡するフォレストタイガーに追いついたミレアナは左側に体を回転させ、重い蹴りを首に叩きこむ。

「ッ!!!! ハッ……ァ」

首の骨を完全に折られ、呼吸不可能。
顔面から地面に突っ込み……次第に体は完全に動かなくなった。

「やり過ぎないように調整できて良かったです」

ミレアナが本気で蹴りを叩きこめば、フォレストタイガーの体は折れるのではなく、切断されてしまう。
それではやや商品価値が下がると思ったミレアナは強過ぎず……しかし弱すぎないように調整。

調整は見事上手くいき、損傷を首の骨が折れるだけで済ませた。

「さて、まずは一か所に纏めましょう」

他のモンスターに食われたり、同業者にハイエナされないようにフォレストタイガーの死体を一か所に集める。
幸いにも先に倒した二体はモンスターや同業者に発見されることなく、無駄に争わずに済んだ。

同業者に発見されてハイエナされれば、どうしても面倒なことになる。
ミレアナはソウスケを馬鹿にするよう名相手には容赦しないが、別に殺したい訳ではない。

だが、本人が要らないと捨てている死体を除いて、ハイエナしようものなら正直なところ、殺されても文句は言えない。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「お前の《記録》なんて役に立たない。もうついてくるな」 勇者パーティの“お荷物”扱いに耐えてきたライトは、 ついにダンジョン最深部で置き去りにされる。 追放すらできない規約のせいで、 “事故死”に見せかけて排除しようとしたのだ。 だがその死地で、ライトのスキル《記録》が進化した。 《超記録》―― 敵のスキルや魔法、動きまですべてを記録し、即座に使えるようになる最強格の能力。 生き延びたライトはレグナの街で冒険者として再出発。 努力で《成長》スキルを獲得し、 記録したスキルや魔法は使うほど強化されていく。 やがて《超記録》は最終進化《アカシックレコード》へ。 対象を見ただけでステータスや行動パターンが分かり、 記録した力を即座に上位化し、さらに合成して新たな力まで生み出す究極スキル。 一方、勇者パーティはライトを失った途端に依頼成功率が大幅に低下。 さらに魔王軍四天王の暗躍によって状況は悪化し、ついには洗脳されてライトに牙をむく。 街を襲うドラゴン、仲間それぞれの過去、四天王との連戦。 優しく努力家のライトは、出会った仲間と共に確実に強くなっていく。 捨てられた記録係が、世界最強へと進化する。 爽快無双×成長ドラマの大長編ファンタジー開幕。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。 魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。 でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。

処理中です...