転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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七百九十九話 先が見えない辛さ

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(日もかなり傾いてきた……そろそろ戻るとするか)

休憩を挟みながらも、分身ソウスケはルクローラ王国の部隊を潰すことに全力を注いだ。

勿論、直ぐに居場所がバレてしまいそうになる水龍の蒼剣は、魔矢による奇襲を仕掛けられた時以外は使用していない。

普通に炎と風の魔剣による攻撃も派手なのだが、水龍の蒼剣から放たれる斬撃は、その切れ味が桁違い。
故に……居場所がバレる以外にも、その脅威度をルクローラ王国側に知られてしまうこととなる。

まだまだ戦争は始まったばかり。
自身の警戒心の甘さから、状況を打破するために使用してしまったとはいえ、まだ自身の存在を含めてあまり知られたくない。

(結局、倒せた部隊の数は十にギリギリ届かなかったか)

戦果を低く見積もる分身ソウスケだが、実際のところ討伐した部隊の数は九。
それだけの数は一人で倒したともなれば、大金星以上の戦果と言える。

加えて、ソウスケは偶に戦闘音が聞こえると、戦闘者たちに気配を気取られない位置まで接近。
装備を隠密に特化にカスタマイズし、これまた上級者向けダンジョンの宝箱から手に入れた弓を使用。

矢は、決戦前に超強者から頼まれた武器の制作合間に作った、特製の矢。
グレートウルフ、オルトロス、バーンティガーなどの牙や、クリムゾンリビングナイトの鎧などを鏃に加工した高火力を有する矢であるため……大盾を扱うタンクが相手でも、十分脅威となる一撃となる。

ソウスケ自身は弓を殆ど使ったことがないが、幸いにも蛇腹剣が弓術のスキルを有している。
練度はまだまだではあるが、矢の攻撃力を高める技、パワーアローを発動。
当然の如く矢に突風を纏わせ、貫通力を強化。

弓自体に放つ矢の攻撃力を強化する効果が付与されている為、まさに必殺の威力と貫通力を秘めた一撃。

隠れて矢を放つ時、分身ソウスケは相手を倒す……絶対に殺すという感情を意識的に捨てていた。
一瞬だけ戦争という状況を無視し、シューティングゲームで敵を討つような感覚でパワーアローを放った。
そう……まるでゲームの様な感覚で、一人だけルクローラ王国側の戦闘者を仕留めた。

今回の戦争に参加し、改めて敵側の警戒心の強さや察知力の高さが身に沁みたこともあって、その時ばかりは絶対に邪魔にならない様に一撃だけサポートしたい。
その結果、実際に戦争に参加する者としては許されない考えかもしれない……それでも、味方を少しでも生かすために、意識的に感覚を切り替えた。

こうした遠距離からのサポートにより、分身ソウスケは加えて五人を射殺。
三人に重傷を負わせ、エイリスト王国側の強者たちが有利に戦況を運べた。
因みに、一矢を放った瞬間、即座にその場から離れたため、ルクローラ王国側の強者たちに気付かれることはなかった。

「ふぅ~~~。ルクローラ王国に戻ってきたことだし、街には入れないけど、ゆっくり休まないとな」

昼食に関してはサンドイッチなどの、直ぐに胃袋に入れられる類の物しか食べていないため、減った腹も満たさなければならない。

「はぁ~~~……後、何日続くんだろうな」

夕食後、風呂に入りながら、いつ戦争が終わるのかと考えるが……そんな事、いくら考えても解るわけがない。

ソウスケと蛇腹剣という強力な戦力を分けて使う、依頼された武器を制作する。
戦争への準備は、そういった内容しか行っていなかった為、ルクローラ王国の戦力を今一つ把握してない。

今日自分が倒した強者たちは、ルクローラ王国側ではどれほどのランクに位置する者たちだったのか。

戦闘中にこいつは強い、と感じたレベルの強者があと何人いるのか……そういった情報も把握していないため、先が見えない。

(……思った以上に、精神が疲労してる……ふふ、初日でこんな状態では、先が思いやれるな)

先が見えない戦いほど、辛いものはない。
だが……その争いに、自ら積極的に参加すると決めた。

今更怖気づけるわけがなく、引く気もなかった。
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