転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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八百五話 消えない死のイメージ

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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……俺は、生きてる、のか?」

間一髪でレヴォルグの投擲を回避した男。

(あの少年はいったい……いや、そもそもあの武器のランクは何なんだ?)

結果的に滅炎を纏ったレヴァルグの回避に成功したが、それでも転移に成功する一歩手前……明確な死のイメージが脳裏に浮かんだ。

ほんの少し先の未来で、自分は腹を大きく貫かれ、体は燃えて灰となる。
骨すら残らずに死んでしまうというイメージが浮かんだ。
そしてそのイメージは、今でも脳裏にこびりついている。

「おい、どうしたんだ。大丈夫か!」

男を一番に発見した参謀の一人は、男の表情を見て先輩せずにはいられなかった。

参謀の男は参謀という立場に甘えることなく、自身の鍛錬を怠らない男だが、目の前の冒険者は確実に自分よりも強いと認めた強者。

そんな強者が冷や汗を大量に残し、完全に戦闘に……殺し合いに敗北した表情を浮かべていた。

「つ、伝えなければならない、ことがある」

一種のトラウマに近い体験をした男。
しかし、自分が仲間を見捨て、おめおめと一番後ろまで戻ってきてしまった目的を果たすため、恐怖を振り払い、自身が体験した出来事を参謀に伝えた。

「っ……その冒険者は、まだ子供だったのか?」

「ようやく酒が呑めるようになった年齢。そうとしか思えない見た目だった。こちらの油断を誘うために、何かしらのマジックアイテムを身に付けている可能性は否定出来ないが……おそらく、まだ子供なのは間違いない」

言ってる事と表情がまるで合っていない。

そんな事は男も重々承知している。
だが、ここで嘘の情報を伝える理由は何一つない。

(とある極致に辿り着いた者の肉体が若返るという話を聞いたことがあるが……所詮噂だと思っていたが、事実として起こり得るのか?)

しかし、参謀の一人はその伝説に近い噂を直ぐに否定した。

生き残って帰ってきた男の話を聞く限り、そのような伝説とも言える存在であれば、その少年そのものだけで強者が怯える恐怖の存在となる。

男の話を聞く限り、少年とそのパーティーメンバーも厄介ではあるが、追加として最後に放たれた武器による攻撃。
そこも忘れてはならない恐怖の一つだと判断。

「BランクやAランクの冒険者を容易に追い詰める存在、か……その者が、まだ少年であることを喜ぶべきか、そもそもそんな怪物が敵として参加していることを嘆くべきか」

怪物と呼べる少年、ソウスケ本体が何をしているかと知れば、参謀たちが更に絶望することは間違いないが、彼らがその事実に辿り着くことは、まずない。

(ただでさえ、一つの部隊を一刀で全滅させたという強者の情報も入っている。その怪物が持っている武器の詳細も気になるが……情報収集だけに徹することが出来るか?)

謎の仮面の男、そして年齢不相応な実力を持つ少年。
この二人からその身に宿し、身に纏う情報だけを手に入れられるのか……参謀が出した答えは、ノー。

犠牲という大前提を計算に入れことが出来れば話は変わってくるが、他の参謀たちが自信の意見に同意してくれるか分からない。

加えて、男自身もサクリファイスを前提とした行動はあまり好まない。

(おそらく無理だろうな。エイリスト王国の大将を先に討ち取れれば問題はないのだが、逆にこちらの対象を捉える剣が最低でも二つ……)

エイリスト王国側も同じではあるが、ルクローラ王国の対象が陣取る最後陣には、大将を守る盾が揃っている。
攻めることだけに全力を費やすのは愚か。

それは至極当然のことだが……参謀の男は、このままではエイリスト王国の大将に剣先を突き付ける前に、自分たちの大将に刃が届く可能性が高い。
そう思わずにはいられず、貴重な情報を持ち帰った男を再度労い、同僚たちの元へ向かった。
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