転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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八百九十二話 疲れ知らずではない

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「あっ、ソウスケさん!! ザハークさん!!!」

「ん? おぉ~~~、お前ら。元気してた?」

依頼されている武器、防具の製作を終えて帰る途中、以前指名依頼で臨時教師をしていた頃の教え子に遭遇。

「マスター、俺は先に帰っているからな」

「お、おぅ」

ザハークはそそくさと帰っていった。
久しぶりに再会した教え子たちに興味がない……という訳ではなく、自分がいない方がソウスケや生徒たちは盛り上がれるだろうと思っての配慮。

「え、えっと……お二人は、もしかして鍛冶仕事の帰りだったんですか?」

「良く解ったな。ザハークは……もしかしたら、ちょっと疲れてたのかもしれないな」

「ざ、ザハークさんがですかっ!!!???」

「そうだよ……立ち話もあれだし、一緒に晩飯でも食べるか」

ソウスケの提案を断る生徒などいるわけがなく、全員大賛成。

「適当に頼んでってくれ。んで、ザハークが疲れてるのに驚いてたけど……多分、今日の仕事は戦闘じゃなくて鍛冶だからだろうな」

「……普通は逆じゃありませんか?」

「そりゃお前たちが鍛冶師、もしくは錬金術師や装飾士たちの苦労を知らないからだ。それに、ザハークにとって戦闘は倒すまでの過程……倒し終えた瞬間までもが楽しい。ぶっちゃけ、それは俺も同じだ」

さすが色々と存在がおかしい人達の言葉だと、そこに関して生徒たちは疑問を持たなかった。

「でも、鍛冶に関してはちゃんと依頼人から頼まれた仕事ってのもあってか、造り終えて……出来上がった作品が納得のいく物であれば、ホッとするというか……嬉しさがある。完成までにあるのは強い緊張感だけだ」

「そ……ソウスケさんでも、緊張する事ってあるんですね」

「お前らなぁ……俺をなんだと思ってるんだ?」

「えっと、何でも出来る超強い冒険者」

「稀代の怪物?」

「超万能戦闘者かと」

「戦闘だけじゃなくて指導も出来るハイパー教師っすね!!!!」

「……そりゃどうも」

本人達に一切の悪気、悪意はない。
実際にソウスケが出来る内容を考えれば、その評価は決して間違っていない。

「とにかく、俺やザハークでも緊張することはあるんだよ」

「そうなんですか……あの、少し質問があるんですけど良いですか」

「……勿論良いぞ。今はもう臨時教師じゃないけどな」

そんな当たり前のことは解っているが、顔を見れば何か自分に相談したい事があるのだと解かる。
ソウスケとしては、そんな顔をした元教え子の質問に答えないという選択肢はない。

「その、冒険者って……どうやったら、上手く活動出来るでしょうか」

「お前…………冒険者になりたいのか?」

記憶が正しければ、質問してきた生徒は騎士になるのが目標だった筈。

しかし、ソウスケの耳が難聴状態になっていなければ、間違いなく冒険者として上手く活動するにはどうすればいいか、と質問してきた。

「まだ、完全に決めた訳じゃないですけど」

「そうか……ん~~~、どういった気持ち、目標を持って冒険者にもなるかによるけど、色んな世界を見て周りたいのであれば、一先ず三年間ぐらい学術として経験を積んだ方が良いと思う」

「なるほど! つ、次は」

「後は……お前がクランに所属するかしないのかは解らないけど、有名どころのクランに所属している冒険者と仲良くなるのはありかもな。まっ、学園の卒業生ってだけで、よっぽどバカじゃない限りはそこら辺の繋がりを警戒して、下手に絡んで来なくなると思うぞ」

ソウスケのアドバイスはそこそこ正しい。
ただ……絶対ではない。それは元教え子に伝えた本人も解っている。

「でもな、他の冒険者とあまりぶつかることなく上手く、正しく……うん、そうだな。正しく活動を行ったとしても、全員がその人に対して悪意を持たない訳じゃない」

「っ……つまり、常に狙われる覚悟が必要だと」

「いやいやいや、そこまで重い話じゃないから! ただ、強さだけじゃなくて、そういうところも慢心しない方が良いかもってだけだ」

他の生徒たちも乗り気で質問を続け、一時間近くはその話で盛り上がり、それから……長々と戦争譚を話すことになった。
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