転移したらダンジョンの下層だった

八百九十五話 時間稼ぎの大切さ

「良い闘志、良い野性だ！！！　もっと、吼えろ！！！！！」

多数の獣系モンスターが集中して襲い掛かるも、ザハークはこれまで通り……好戦的な笑みを屑ことなく、一体一体確実に仕留めていく。

「とりあえず、あんな感じでザハーク一人でなんとかしてしまうんで、皆さんは一旦呼吸を整えてください」

「わ、分かりました。ありがとう、ございます」

未だに目の前で行われている戦闘光景を正確に理解出来てないものの、自分たちにこれ以上危機が及ばないことだけは理解出来た。

「大変でしたね。大量のラッファーブルにフレイムジャッカル、バーンボアに数体のバーンティガー。モンスターパーティーに近い状態ですね」

「いやぁ～～～、本当に焦りました。この前は上手く調整してモンスターを狩ることが出来ていたんで、今回も大丈夫だろうと思ってたんですけど、油断してた隙を突かれました」

「まぁ……モンスターパーティーに関しては、仕方ないと思います。油断してないパーティーであっても、遭遇する時は遭遇してしまうんで。仮に対策するなら……今回は獣系モンスターがメインなんで、悪臭が漂う匂い玉を用意しておいた方が良かった、と言えるかもしれませんね」

「……五つぐらい、用意しておいた方が良いですかね」

「あの大群を考えると、五つぐらい持っていた方が良いかもしれませんね」

何だかんだで、帰還石があればダンジョンの何処にいても脱出できる……というのは、中級者レベルを超えたあたりから持ち始めてしまう慢心。

しかし、帰還石は本当に一瞬で地上に転移できるアイテムではない。
数秒……数秒だけ時間が必要であり、敵のレベルやランクによっては……その数秒が命取りになる。

「ソウスケさん、終わったぞ」

「お疲れ様、ザハーク。ちょっと量が量だから、解体は後にしようか……皆さん、地上に帰れますか？」

頭を下げ、護衛を頼みたいと申し出るのであれば、自分……もしくはミレアナかザハークに頼もうと思っている。

その護衛で金を取ろうとなどとは一切考えておらず、寧ろ助けた同業者が地上に戻った時死んだと聞かされれば目覚めが悪く、寧ろ頼んでくれた方が嬉しいまであった。

しかし……今回、ソウスケたちに助けを求めた冒険者たちは……決して考える頭がないバカではない。
見れば解る。
今、ソウスケたちは高貴な人物の護衛を行っている。

何故自分たちよりも圧倒的に弱い人物をわざわざ四十階層以降に連れてきているのかまでは解らないが、仕事中であることだけは解る。
加えて……距離だけを考えれば、自分たちだけでも戻れる。

モンスターパーティー擬きという脅威を潰してもらった。
それだけでも十分有難く、感謝が尽きないのに……これ以上迷惑を掛けられない。

「えぇ、大丈夫です。ソウスケさんたちのお陰で……ザハークさんがあの大群を何とかしてくれたお陰で、その間に体力と魔力も回復できたので」

「そうですか……では、お気を付けて」

同業者たちが別れた後、ソウスケはザハークが討伐したモンスターの死体を回収。

その日の夜に野営地から離れた場所で長時間の解体を行う。

（地上に潜る前に、かなり血を保管するビンを購入したんだが……最後まで残るか不安だな）

Cランクモンスターの血であればそれなりに利用価値があり、バーンティガーやオルトロスの様なBランクモンスターの血ともなれば、高ランクの素材。
錬金術を行うソウスケやミレアナにとっては、是非とも確保しておきたい素材。

（ん～～～……ぶっちゃけ、Cランクモンスターの血はそこまで使ってないし、今度纏めてギルドに売るのもありだな）

またまた大量の金が懐に入り、資金力は完全に冒険者の域を超える。

（使わなくても経済は回るだろうけど、またオークションにでも参加して金を使うか？）

冒険者らしくない贅沢な悩みを浮かべていると……一応モンスターの活動が落ち着く時間帯であるにもかかわらず、一体のモンスターが堂々と目の前から近づいてくる。