転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
1,038 / 1,259

千七十九話 何も犠牲に出来る

しおりを挟む
(……む、無茶苦茶下手な事言えない、な)

臆病になっていた。
がむしゃらに上を目指していた時のマインドに戻らなければならない。

そんなイルザスの思いを聞いて、ソウスケはそれが間違っているとは思わなかった。
間違ってないとは思うものの……それはそれでどうなんだ? という気持ちが同時に湧き上がった。

「…………イルザスさんは、怖くないんですか?」

「怖さは……あるよ。でもさ、そういう気持ちにビビってたら…………いや、そうだね。ちょっと、熱くなり過ぎてたかもしれない。マスター、水を貰っても良いですか」

「かしこまりました」

熱きなり過ぎていたかもしれない。
そう認めたイルザスだが、先程自分が口にした考えは間違ってないと思っている。
ただ、そんな自分の考えに対し、怖くないのかと尋ねたのは……あのソウスケである。

(戦場……じゃない。戦争という場所で、彼は若くして暴れ回った。標的を容赦なく倒し、同じ部隊の仲間を狙う敵を抹殺した。そんな人でも……感じることがあるのかもしれない)

自棄、無茶などと死んでも勝つといった心構えは異なる。

「……ふぅーーーーーーー、ありがとう。本当に、ちょっと前のめりになっていた気がする」

「い、いえ。ただ、思ったことを口にしただけというか」

「それが、僕の熱くなり過ぎてた心を落ち着かせてくれた」

イルザスたちは強い。
あの成長したトロールシャーマンが相手でも、決して負けていなかった。

その実力を考慮すれば、彼らがある程度の自信を持つのは、至極当然のこと。

(ここまで感謝されると、ちょっとこそばゆいんだけど…………俺としては、多少関わった仲だから、できればって思いで口にしただけなんだけどな)

改めて考えれば、その思いが自身の我儘であることが解る。

ただ、それでも心配に思うなというのは、ソウスケからすれば無茶な話であった。

「勇気と蛮勇……その差を見極めて動かなければならない。そういうことだね」

「難しい話だとは思いますけど、それが無茶だけど無茶ではない……矛盾に繋がるかと」

「……ふっふっふ、確かに難しい話だね。でも、それが出来れば今日戦ったトロールシャーマンみたいな強敵が相手でも、キッチリ倒せるようになるかな」

「…………超個人的な考えですけど、無茶をする時、普段相手の攻撃見切るタイミング。それはどこまでギリギリ反応してカウンターに繋げられるのかとか……もう一つは凄い極論になるんですけど、体のどこまでなら犠牲に出来るか。勿論、回復魔法とかポーションで治せる範囲の犠牲ですけど、それを把握出来てるだけで……計算? して無茶が出来るかなって」

ソウスケの超個人的な考えを聞いて、冒険者事情にそれなりに詳しいバーのマスターは顔にこそ出していないが、心の内で若干引いていた。

「紙一重って言うやつだね。それがどこまで出来るか……攻撃を向けられる箇所にもよるけど、そのギリギリのラインを自分で解っていれば…無茶だけど無茶ではないに繋がるね。それで、犠牲に出来る部分……って、多分紙一重のカウンターにも繋がるよね」

「そう、ですね。自らどこかを犠牲にすれば、それはそれで相手の不意を突ける形になるかもしれません。とはいえ……せいぜい急所以外の貫通とか……片腕の切断? が本当にギリギリだとは思いますけど」

「そうだね。綺麗に切断されたとかなら、まだなんとか出来るし、貫通云々も良く解るよ。同じ細剣使いと本気で戦う機会があったんだけど、中々決着が着かなくてね…………突きを左手で受け止めたことがあるんだ」

「受け止めたって、つまりそういうこと、ですか?」

「うん、そういう事だよ」

受け止めようとした左手は当然貫かれたが、それでも相手が引き抜こうとする瞬間に柄を掴み、無理矢理武器を封じて自身の攻撃を叩き込んで勝利した経験があるイルザス。

(そうか……あの感じか。うん、解らなくはないとなれば、ソウスケ君から教えてくれたことが、直ぐに活かせるかもしれないね)

翌朝、イルザスはソウスケから教えてもらった内容を仲間たちに伝えた。
すると……苦笑いを浮かべる者はいたものの、その内容を否定する者は一人もいなかった。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「お前の《記録》なんて役に立たない。もうついてくるな」 勇者パーティの“お荷物”扱いに耐えてきたライトは、 ついにダンジョン最深部で置き去りにされる。 追放すらできない規約のせいで、 “事故死”に見せかけて排除しようとしたのだ。 だがその死地で、ライトのスキル《記録》が進化した。 《超記録》―― 敵のスキルや魔法、動きまですべてを記録し、即座に使えるようになる最強格の能力。 生き延びたライトはレグナの街で冒険者として再出発。 努力で《成長》スキルを獲得し、 記録したスキルや魔法は使うほど強化されていく。 やがて《超記録》は最終進化《アカシックレコード》へ。 対象を見ただけでステータスや行動パターンが分かり、 記録した力を即座に上位化し、さらに合成して新たな力まで生み出す究極スキル。 一方、勇者パーティはライトを失った途端に依頼成功率が大幅に低下。 さらに魔王軍四天王の暗躍によって状況は悪化し、ついには洗脳されてライトに牙をむく。 街を襲うドラゴン、仲間それぞれの過去、四天王との連戦。 優しく努力家のライトは、出会った仲間と共に確実に強くなっていく。 捨てられた記録係が、世界最強へと進化する。 爽快無双×成長ドラマの大長編ファンタジー開幕。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...