転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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千九十一話 その差は何?

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「ようやく本気になったみたいだね」

「そうか? 弓も短剣も出していないが」

ミレアナの雰囲気がこれまでと変わったことにザハークも気付いたが、ミレアナは得意武器である弓や短剣を手にしてない。

相手との距離が近くとも、自由に弓を操れるほどの技量を持っていると知っているため、まだ素手で闘おうとしているミレアナが本気を出してるとは思えなかった。

「それはそうなんだけど、ほら。今回のミレアナの目的は、緊張感がある強者との戦いを経験するためでしょ」

「ふむ…………なるほど。雷竜を相手に、素手で戦うぐらいが丁度良いということか」

「多分ね。ミレアナは素手での戦いが不得意って訳じゃないからね。危険なのは間違いないと思うけど、無理ではない……と思うよ」

ミレアナの行動理由をある程度把握し、それをザハークに説明するソウスケだが……正直なところ、内心ではちょっと心配だった。

(あの雷竜……やっぱり、この前ミレアナがソロで戦った毒竜、ヴェノレイクよりも総合的には強いよな)

先日、ミレアナが対峙した毒竜ヴェノレイクは雷竜よりも身体能力が低い。
その代わりに毒といった状態異常攻撃を持っている。
ドラゴンが持つ毒ということもあり、一度食らえば一般的な解毒ポーションでは全回復することが出来ない。

加えて雷竜よりも身体能力が低いとはいえ、それでもBランクのドラゴン。
決してゴーレムたちのようにパワーだけの鈍間ではないため、捉える……攻撃を当てるまでにかなり苦労する。

しかし……そんなヴェノレイクと比べても、総合的に雷竜の方が上という考えはソウスケだけの答えではなく、ザハークも同じ答えに至っていた。

(……備えておくのは、ミレアナを裏切る行為、かな)

ザハークは「やはり今回のミレアナは度胸のある面白い戦いをするな」ぐらいしか思っておらず、仮に怪我を負ったとしても致命傷のような攻撃を追うことなく一人で仕留めるだろうと思っていた。

ややドライと思えなくもない考えを持ってるザハークに対し、ソウスケは優しさが勝っている。
無論、死ぬとは思っておらずとも、万が一以下の確率で大きなダメージを負うかもしれないと感じていた。

「……………………はぁ~~~~~~、ダメだな……俺は」

「? 何がだ、ソウスケさん」

「自分は好き勝手やってるくせに、仲間の事になると、心配になってしまう」

相手の力量に合わせ、使うスキルを制限して戦う。
そんな事はソウスケもしょっちゅうやっている。

そういう時に、ザハークはともかく……ミレアナが心配してなかったのか?

(多分、声に出さないだけで、本当は心配してたんだろうな)

大正解。

ソウスケは強い。
ソウスケ自身の強さは言わずもがな、水龍の蒼剣や蛇腹剣、レヴァルグにブロンドなどの最高クラスの武器も含めれば、心配する要素など皆無。

それでも、制限した状態でのソウスケであれば、万が一の可能性は否定出来ない。

「ソウスケさんは、ミレアナがあの雷竜に負けると思っているのか?」

「いや、負けるとは思ってないよ。ただ、大怪我を負う可能性がないとは思い切れなくて」

「……そうだな。確かにドラゴニックバレーの生存競争から逃げたとはいえ、生半可な雷竜ではないようだ。だが、ミレアナも生半可な冒険を越えてきてないだろう」

「……ふ、ふっふっふ、だな。本当にザハークの言う通りだよ」

ミレアナは好んで積極的に強いモンスターと戦うタイプではなかった。

それでも、ソウスケたちと共に、決して楽ではない冒険を乗り越えてきた。

(そういえば、れだな……ザハークが強敵に挑むときは、あんまり心配に思うことはないよな…………やっぱりミレアナが女性だからか?)

性別的な問題がある? と思ったが、ザハークとミレアナの決定的な違いを考えれば、根本の部分はそこではないと直ぐに解った。

理由は……ザハークが戦闘バカだからであった。
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