転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
1,123 / 1,259

千六十四話 自信作ではあるが……

しおりを挟む
「グロードさん、お待たせしました」

翌朝、朝食を食べ終えた三人は当然、冒険者ギルドへ向かうことはなく、グロードの店へ向かった。

「……おぅよ」

「? グロードさん、昨日お酒呑みましたか?」

「久しぶりに飲み過ぎって思うぐらい呑んだな。というか、それは小僧とエルフ娘も同じじゃろう」

「はは、そうですね」

二日酔い……とまではいかなかったものの、二人ともあれ以上呑んでたら……と思うぐらいには、そこそこ度数がある物を呑み過ぎたと自覚していた。

「こっちのロングソードが俺の作った物で、こっちの大剣がザハーク作。そして、こっちの杖がミレアナ作です」

「そうか。それじゃあ、視させてもらうぞ」

そういう言うと、グロードは一気に職人の眼をし、三人が造った武器を眺め……手に取り、重さや感触を確かめていく。

(…………わ、解ってはいたけど、緊張するな)

(……少し大袈裟かもしれませんが、Bランクドラゴンと戦う時以上の緊張感がしますね)

自身が造った武器を一流の職人が品定めを行う光景を見て、日頃行っているモンスターとの戦闘以上の緊張感を感じる二人。

これまで、ソウスケたちは露店で武器やポーションなどを売ってきたが、客として訪れる冒険者たちは質の高さと値段を比べ……基本的にじっくり眺めて品質を確かめるという行為を行わなかった。
それよりも、今すぐ購入しなければ他の冒険者に買われてしまうと思い、購入を優先していたため、二人はあまり自身が造った物をじっくり眺められることに慣れていなかった。

因みに、ザハークは店の外で待っているので、一切緊張などせずただただ結果だけを待っていた。

「……視させてもらった」

「「…………」」

「合格点をやろう」

「「……はぁ~~~~~~」」

グロードから確かに「合格点をやろう」という言葉を貰え、二人は心の底から安堵のため息を吐いた。

「なんじゃ、そんなに緊張しておったのか?」

「いやいや、そりゃ緊張しますよ」

「ソウスケさんの言う通りです。正直、ドラゴニックバレーで戦ったドラゴンとの戦闘以上に緊張しました」

「……喜んで良いのか解らん表現だな。しかし、二人とも自信があったのではないのか?」

長年の経験から、グロードは本当の意味でソウスケとミレアナ……ザハークにとって、自信を持てる武器を提出したのだと思っていた。

「それはそうなんですけど、やっぱりじっくり自分が造った武器を視られるのは緊張しますよ」

「戦闘とはまた別物、か…………とはいえ、あれじゃ。正直なところを言うと、質に関しては十分上出来じゃった」

「そう、なんですか?」

グロードの中で、ソウスケたちが提出した武器は、数秒視ただけで質は完全に合格ラインに達していた。

「あぁ。ただ、少し違う立場になって視始めて、つい長く視てしもうた。全く……小僧たちは本当に面白い冒険者だな」

面白い冒険者。
相手がグロードだったこともあり、純粋に褒められたと感じ、ソウスケとミレアナは自然と笑みが零れた。

「それじゃあ、こいつらが出来上がるまで造った武器も渡してくれ」

「えっ」

「なんじゃあ。一発でこいつらを造った訳じゃないんだろ」

「いや、それはそうなんですけど…………わ、分かりました」

ソウスケとしては、心の底からこれは自信作だと思える武器が造れたからこそ、そのロングソードをグロードにみせた。

だが、それまでに造った武器は……どれも目を背けたくなる粗悪品……という訳ではないが、それでも一流の職人には見せたくないと思ってしまう。
それはミレアナも同じ気持ちだが、リーダーがこれまた造った武器を渡すのだから、自分だけ嫌ですと断るわけにはいかなかった。

「それなりに造ったのぅ……それじゃあ、こいつらは全部適正価格……の、少し安い値段で良いんだったな」

「はい、それでお願いします」

「うむ、分かった。また出来上がったら、儂のところにもってこい」

こうして、ソウスケたちは一先ずグロードから合格点を貰い、販売先を確保できた。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

処理中です...