転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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千百九話 特に考えていなかった

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(…………強さを見せるだけ……本当にそれで良いのかな)

冒険者ギルドから、自分たちに届いている指名依頼を教えてもらってから数日後、ソウスケは久しぶりに鍛冶場ではなくドラゴニックバレーに訪れていた。

訪れている理由は勿論、自分たちが造った武器の使い心地の確認。

そんな中、ソウスケは水竜を相手にしながら、指名依頼に関して自分たちに説明してくれた受付嬢の言葉を思い出していた。

積極的に何かを教えた方が良いわけではなく、ただ大きな大きな……普通ではない存在として将来有望なドラゴンスレイヤー候補たちに会ってほしい。
そういった考えもあるのだろうとは思える。
納得も出来るが、やはり本当にそれで良いのかと考えながら水のブレスを躱しながら、風属性の双剣を使って水竜の鱗を切断していく。

「っっっ!!! ーーーーーッ!!!!!!!」

「っと、ほっ……ぃよいしょ」

あまり覇気の籠っていない言葉を零しながらも、学生たちに対して本当に何も教えなくても良いのかと考え続ける。

(……こうして、狙って鱗を剥ぐのは、普通に考えれば有効な攻撃、だよな。でも……未来のドラゴンスレイヤーを育てる学園の教師が、こんな事を教えてない訳がないよな~~~~)

ソウスケが今しがた実践している内容は、戦闘に置いて非常に役立つ技術である。
一か所でもドラゴンの鱗を剥がすことが出来れば、そこを重点的に攻めて落すことが出来る。

ただ、これに関してはドラゴンに限らず、他のモンスターにも使える内容なので、あまり珍しくはない。

(他は…………ん~~~~~。あまり、思い浮かばない、な)

ドラゴニックバレーに到着するまで、ソウスケは決して温くない戦いを繰り返してきた。
Bランクドラゴンと戦う前にAランクのモンスターと戦ったこともあり、Bランクドラゴンとの戦いでは特に苦戦することもなかった。

故に、何かに気を付けて戦った経験がなかった。

「……中々思い浮かばない、な」

「ッ!!!!! ギ、ィ……ァ」

半数以上の鱗を丁寧には斬り落とした後、ソウスケは結局は斬り落とした鱗の奥の部分を使うことはなく、水竜の首を切断して終わらせた。

「お疲れ様です、ソウスケさん。ところで、戦闘中に随分と考え事をしていましたね」

血抜きを行いながら、普段と違った点を指摘するミレアナ。

とはいえ、教師のようにその点に関して説教をするつもりなどなく、よくよく振り返ればソウスケが戦闘中に考え事をするのは珍しい事でもなかった。

「今度、レイヤーズ学園の生徒たちの相手をするだろ。その時、本当に何も教えなくても良いのかと思ってな」

「なるほど、そういう事でしたか」

「ソウスケさんなら、それぐらい思い浮かびそうなものだが」

これまでも誰かに指導を行った経験がある。
主人のそういった経歴を知っているからこそ、ザハークは何をそんなに悩む必要があるのかと、首を傾げる。

「彼らが教わりたい事は、ドラゴンを討伐するのに役立つ方法だろう」

「学園の存在理由を考えれば、そうですね」

「俺はさ、いざBランクのドラゴンとかAランクのドラゴンと戦ってさ、こう……ここはこうして、ここではあぁしてこのタイミングでこういう攻撃叩き込んで考えながら戦った訳じゃないんだ」

Bランクドラゴンと言えど、決して油断して良い相手ではない。
だが、現在のソウスケであれば身体能力と強化スキル、そして反応速度があれば、大抵はどうにかなってしまう。

Aランクドラゴンが相手であれば、それこそ油断していれば食われてもおかしくない。
しかし……高ランクの武器を使い、必死で戦っていれば勝てた……というのが、実際の感想。

「だからさ、あまりドラゴンに対してこういう攻撃が効果的で、こういう時はこうすれば良い、なんて内容が全然思い浮かばなくてさ」

ソウスケはそれなりに長いため息を吐きながら、血抜きの終わった死体の解体を始めるのだった。
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