転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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千百一話 今までとは違う

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「ノックス、ジャバ。大丈夫か」

「うん、大丈夫だよ。ハリアル」

「なんとかな」

貴族令息、ハリアルの言葉に問題無いと答える人族の青年、ノックス鬼人族の青年、ジャバ。

「………………チッ」

「らしくないね、ハリアル」

「致し方ないだろう……あの様子を見せられてはな」

貴族令嬢が上空から落した特大火球に直撃したと思われた冒険者、ソウスケ。

しかし、彼は全くと言って良いほどダメージを負っておらず、特大火球はソウスケが水を纏った拳に粉砕された。

「本当に良い連携だ。まさにギリギリのギリギリを狙った……実行する方も、覚悟する方も見事だね」

「「「「「「「……………」」」」」」」

これまで通り、上から目線の褒め言葉。
だが、今回に関してはムカつきが態度に現れることはなく、俺らのことを嘗めてんのかという不満が口から零れることもなかった。

レイヤーズ学園の学生たちは、ソウスケからの要望通り、本気で殺そうと攻撃を行った。
にも拘わらず、ソウスケは一切得物を使わず、素手だけで対処して傷は切傷どころかほんの小さな掠り傷すら負うことなく自分たちを圧倒した。

(世の中には、こんな人も……いるんだね)

ノックスは感じ取っていた。
甘い汁だけ吸っている人間には得られない、積み重ねてきたも経験からくる強さを。

「それで、それなりに戦ったと思うけど、まだ戦るかい」

「……いいえ、降参します」

リーダーであるノックスの言葉に、誰一人として反論する者はいなかった。

(あら、意外とそこは素直なんだな)

まだ俺は、私は諦めていないと口にする者が何人か現れるかと予想していたソウスケ。

しかし、ノックスの判断に全員反対することなく、降参という対応に従った。

「そうか。それじゃあ、さっきの部屋に戻ろうか」

最初にやっておきたい事が終わり、ソウスケたちは訓練場から二階の部屋へと戻っていく。

彼らが去った後、どっちが勝つかに賭けをしていた冒険者たちの悲鳴や喜びの声が飛び交うが……ノックスたちは、その声を気にするほどの余裕はなかった。

(こいつ、マジでなんなんだよ)

同世代の中で、自分が最強ではないことは、とうの昔に気付いたジャバ。
それでも、ソウスケという人間が持つ強さには、理解が追い付かない。

(何を……どういった人生を歩めば、あのような強さを)

ハリアルは、ただただソウスケが体験してきた人生を考えていた。
戦闘者としてエリートと言える道を歩んできた自分と比べて、どれほど違った内容を歩めば、自分たちを一人でパーフェクトな対応を出来るほどの力を得られるのか。

同様は、ある。
それでも彼は考えていた。

(ふぅーーーー、ふぅーーーーー……落ち着きなさい、私。拳で……無造作に潰されたからといって、弱まったわけでは、ありません)

彼らの中で決定打として放たれた一撃。
そんな渾身の一撃を無造作に粉砕された貴族令嬢の魔術師、ネイトはパーティーの中で一番動揺していた。

非常に脆い心の持ち主、という訳ではない。

ただ、今回ネイトの特大火球を対処したソウスケは、髪の毛すら焦げていなかった。
つまり、本当に全く特大火球が通じていなかったことを意味する。

自身の最大火力の一撃がそこまで圧倒的に、完璧に潰されてしまっては、動揺するなというのも無理な話。
しかし、それでもレイヤーズ学園の学生。
そういった状況に陥った際、どのようにすれば心を落ち着かせれば良いか教えられていた。

そして、ネイトはそれを実行できる令嬢である。

(どうやら、これまでの若者たちとは違うようですね)

最後尾で学生たちの様子を観察していたミレアナ。

ミレアナからすれば、優秀な若者というのは総じて生意気味が強い。
ソウスケに負けたとしても、負けを認めても不満な気持ちが零れていると思っていた。

だが、彼らからは悔しいという思いは零れていれど、ソウスケに対する不満の気持ちは零れていなかった。
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