転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
1,198 / 1,269

千百二十二話 ぬぐえない強さ

しおりを挟む
「ほら、起きろ」

「うっ……っ!!!! ど、どれぐらい寝てしまいましたか!」

「安心しろ。十五分ぐらいしか経ってない。休息とはいえ、あんまり寝過ぎるとせっかく柔らかくなった体が固くなるからな」

十五分ほどの仮眠を得て……正直なところ、ジャバやナディーなどは「どうせならこのままもう少し寝たかった」と思わなくもなかったが、現在自分たちが居る場所や状況を思い出すと、直ぐに目が覚めた。

そして仮眠を取ってからも数十分間は休憩を挟み、万全に体力を回復させてからソウスケたちは再びドラゴニックバレーに足を踏み入れた。

「……ソウスケさん」

「ん? どうした」

「Bランクドラゴンが相手と言えど、逆鱗状態になってた場合、自分たちが相手をしては駄目……ですよね」

「うん、そうだな」

ノックスからの問いに、ソウスケは即答した。

「経験としてっていうのは解る。そばに俺たちが居ればって思ってくれてるかもしれないけど、逆鱗状態になった風竜と戦った俺としては……万が一がぬぐえない強さを持ってる」

「私も、ソウスケさんに同意です」

「…………お前たちを守るという行動であれば、俺も二人と同じだな」

「ノックスたちの学習意欲ってのは、とても良いものだと思う。ただ、俺たちとしては臨時と言えど教師だからこそ、こういった……課外実習? で、ノックスたちを死なせる訳にはいかないんだ」

そもそもな話、そう簡単に逆鱗状態となったドラゴンに遭遇できるのかという問題もあるが、今しがた語ったのがソウスケの本音であった。

「そうですね……無茶なことを訊いてすいませんでした」

「いいや、謝る必要はないよ。ノックスたちの今後を考えれば、逆鱗状態となったドラゴンと戦う可能性があるんだ。それなら、その時の為にと考えてしまうのは寧ろ当然なんだろ」

「……では、逆鱗状態のドラゴンと戦うことになった際、重要なことを教えてもらっても良いでしょうか」

少し前にソウスケが逆鱗風竜を討伐した際には、その個体の強さに関して教えてもらったが、対峙する際の心構えなどは尋ねていなかった。

「あの状態のドラゴンと、か………………本当に戦闘経験が無さすぎるから、あまり的確なアドバイスは出来ないけど……俺は、気迫で負けないことが重要だと思う」

「気迫で負けないように、ですか」

「うん。自慢になってしまうけど、これまでの冒険者生活で多くのBランクモンスターだけじゃなくて、Aランクモンスターと戦って、倒してきた。このドラゴニックバレーでも、灼熱竜と遭遇して討伐出来た……それだけ多くの強敵と戦ってきたのに、あの逆鱗状態になった風竜から確かな恐怖を感じた」

まだモンスターと戦い始めてから三年も経っていないソウスケだが、その戦闘経験数は既に百戦錬磨と言っても過言ではない。

そんなソウスケが、恐怖という感情を感じた。
彼と共に行動しているミレアナとザハークは、特にその意味をよく理解していた。

「だから、負けじと吼える。雄叫びを上げて……空元気でも、虚勢でも良い。多分……本当に退いてしまったら、一気に食われてしまう」

「な、なるほど」

「後、これもまた個人的な感想なんだけど、モンスターにも人間と同じように体の一部が壊れても攻撃しようとしてくる個体がいるでしょう」

「えぇ。極稀にですがいますね」

「逆鱗状態になってると、常にその覚悟が決待ってる状態だと思って良いかな」

「いつでも、こちらを殺せるなら自傷覚悟で攻めてくると」

「うん。そう思って行動してないと、防御したつもりでもそのまま砕かれたり、カウンターが決まったと思ってもそれを利用して動きを止めて無理矢理攻撃してくるかもしれない」

ソウスケが語る内容は、全てかもしれないという可能性の話。

しかし、既にノックスたちはソウスケという冒険者の実力を信用しているからこそ、全員彼が語る内容を頭の中に運プットした。

そしてソウスケがノックス以外からの質問に答えていると、複数……どころから、十を越える存在が彼らの方向へと向かって来た。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界でも馬とともに

ひろうま
ファンタジー
乗馬クラブ勤務の悠馬(ユウマ)とそのパートナーである牝馬のルナは、ある日勇者転移に巻き込まれて死亡した。 新しい身体をもらい異世界に転移できることになったユウマとルナが、そのときに依頼されたのは神獣たちの封印を解くことだった。 ユウマは、彼をサポートするルナとともに、その依頼を達成すべく異世界での活動を開始する。 ※本作品においては、ヒロインは馬であり、人化もしませんので、ご注意ください。 ※本作品は、某サイトで公開していた作品をリメイクしたものです。 ※本作品の解説などを、ブログ(Webサイト欄参照)に記載していこうと思っています。

悠久の放浪者

神田哲也(鉄骨)
ファンタジー
気づけば、見知らぬ森の中だった。 空には三つの月。魔法、異種族、ドラゴン、冒険者ギルド——。どう見ても、ここは異世界だ。 だが、俺は知っている。この世界は、どこかおかしい。 村での静かな? 生活。迫りくる魔物。そして、魔法の詠唱。 生き延びるため、真実を掴むため、俺は旅に出る。 これは、“運命の放浪者”が世界の秘密へと挑む物語。 悠久の時を超えて、この世界に“意味”を問う——。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。

佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。 人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。 すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。 『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。 勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。 異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。 やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

処理中です...