転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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千百二十二話 ぬぐえない強さ

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「ほら、起きろ」

「うっ……っ!!!! ど、どれぐらい寝てしまいましたか!」

「安心しろ。十五分ぐらいしか経ってない。休息とはいえ、あんまり寝過ぎるとせっかく柔らかくなった体が固くなるからな」

十五分ほどの仮眠を得て……正直なところ、ジャバやナディーなどは「どうせならこのままもう少し寝たかった」と思わなくもなかったが、現在自分たちが居る場所や状況を思い出すと、直ぐに目が覚めた。

そして仮眠を取ってからも数十分間は休憩を挟み、万全に体力を回復させてからソウスケたちは再びドラゴニックバレーに足を踏み入れた。

「……ソウスケさん」

「ん? どうした」

「Bランクドラゴンが相手と言えど、逆鱗状態になってた場合、自分たちが相手をしては駄目……ですよね」

「うん、そうだな」

ノックスからの問いに、ソウスケは即答した。

「経験としてっていうのは解る。そばに俺たちが居ればって思ってくれてるかもしれないけど、逆鱗状態になった風竜と戦った俺としては……万が一がぬぐえない強さを持ってる」

「私も、ソウスケさんに同意です」

「…………お前たちを守るという行動であれば、俺も二人と同じだな」

「ノックスたちの学習意欲ってのは、とても良いものだと思う。ただ、俺たちとしては臨時と言えど教師だからこそ、こういった……課外実習? で、ノックスたちを死なせる訳にはいかないんだ」

そもそもな話、そう簡単に逆鱗状態となったドラゴンに遭遇できるのかという問題もあるが、今しがた語ったのがソウスケの本音であった。

「そうですね……無茶なことを訊いてすいませんでした」

「いいや、謝る必要はないよ。ノックスたちの今後を考えれば、逆鱗状態となったドラゴンと戦う可能性があるんだ。それなら、その時の為にと考えてしまうのは寧ろ当然なんだろ」

「……では、逆鱗状態のドラゴンと戦うことになった際、重要なことを教えてもらっても良いでしょうか」

少し前にソウスケが逆鱗風竜を討伐した際には、その個体の強さに関して教えてもらったが、対峙する際の心構えなどは尋ねていなかった。

「あの状態のドラゴンと、か………………本当に戦闘経験が無さすぎるから、あまり的確なアドバイスは出来ないけど……俺は、気迫で負けないことが重要だと思う」

「気迫で負けないように、ですか」

「うん。自慢になってしまうけど、これまでの冒険者生活で多くのBランクモンスターだけじゃなくて、Aランクモンスターと戦って、倒してきた。このドラゴニックバレーでも、灼熱竜と遭遇して討伐出来た……それだけ多くの強敵と戦ってきたのに、あの逆鱗状態になった風竜から確かな恐怖を感じた」

まだモンスターと戦い始めてから三年も経っていないソウスケだが、その戦闘経験数は既に百戦錬磨と言っても過言ではない。

そんなソウスケが、恐怖という感情を感じた。
彼と共に行動しているミレアナとザハークは、特にその意味をよく理解していた。

「だから、負けじと吼える。雄叫びを上げて……空元気でも、虚勢でも良い。多分……本当に退いてしまったら、一気に食われてしまう」

「な、なるほど」

「後、これもまた個人的な感想なんだけど、モンスターにも人間と同じように体の一部が壊れても攻撃しようとしてくる個体がいるでしょう」

「えぇ。極稀にですがいますね」

「逆鱗状態になってると、常にその覚悟が決待ってる状態だと思って良いかな」

「いつでも、こちらを殺せるなら自傷覚悟で攻めてくると」

「うん。そう思って行動してないと、防御したつもりでもそのまま砕かれたり、カウンターが決まったと思ってもそれを利用して動きを止めて無理矢理攻撃してくるかもしれない」

ソウスケが語る内容は、全てかもしれないという可能性の話。

しかし、既にノックスたちはソウスケという冒険者の実力を信用しているからこそ、全員彼が語る内容を頭の中に運プットした。

そしてソウスケがノックス以外からの質問に答えていると、複数……どころから、十を越える存在が彼らの方向へと向かって来た。
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