スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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千三百九十一話 躓いた時に支えるため

SIDE 先輩騎士

「……アラッドさんが言ってる事って、結構えげつねぇよな?」

「そうだな…………英雄からの助言だとしても、あいつら本当に実行できるか?」

後輩騎士たちと変わらず、アラッドのことを呼び捨てで呼ばない先輩騎士たち。

先輩たちとしては、後輩たちがあそこまで強くなることに貪欲なのは喜ばしいことである。
ただ……そんな後輩たちが助言を求めた英雄から伝えられた内容は……割と鬼であった。

「どうだろうな。気合は十分って面してるが……要は、暇な時間はとことん自分を高めるために使えってことだろ」

「アラッド殿自身、そのようにして自身を高めてきたのだろう。強くなるために必要なことがよく解っておる」

「っすね。それはそうなんすけど、やっぱり簡単なことじゃないっすよ」

強くなるための道に、楽はない。

効率……というのも重要ではあるが、アラッドの前世と同じく様々な面において、合う合わないというのは存在する。

それは先輩騎士も解ってはいるが、それでも自身の過去を振り返ってみると……強くなることに全てを費やしていたとは言えない。

「そこも解っているからこそ、アラッド殿も楽しいと思えることを、幸せだと感じることを事前に把握しておくべきと伝えている」

「…………マジで十六なんすかね?」

一応今年十七の代ではあるが、二十代半ばを越えた騎士たちからすれば、なんで十代の若造がそこまで悟れてるんだとツッコみたくなる。

アラッドが鍛錬内容を上手く実行するために付け加えた内容は、絶妙なバランスを取るための……人生のバランスを取るためのアドバイスであった。

一般的に見て……冒険者になってからの人生はともかく、学園に入学するまでの人生は決して豊かと言えるものではない。
基本的に家に、領地内に留まり、社交界には殆ど出席しない。

一部の人間としか付き合いがないということもあり、人生経験という面ではどうしても得られる経験値が少ない。

「間違いないみたいですよ。本当に幼い頃から冒険者になると決めてたみたいだから、考え方とか……物事の捉え方が根本的に違ったのかもしれないね」

「だとしてもって気がするけどな……つっても、言ってることは至極真っ当だな」

先輩騎士は、アラッドのことをバカにしている訳ではない。

ただ、実力者が指導力まで優れているとは限らない。
加えて……強いにしても、アラッドの実力があまりにもとび抜けているため、何かしらぶっ飛んだ鍛錬を積んでいたんじゃないかと思っていた。

「僕らとしても、少し耳が痛くはありますね」

「…………まっ、そうだな」

先輩騎士たちとしても、まだまだ若い奴らに負けてられるか、といった思いはある。

思いはあるが……現実にするためには、やはり現在よりも自分に厳しくしていかなければならない。

「新しい技術ねぇ…………冒険者みたいな戦い方を覚えろってことか?」

「単純に使える武器の種類を増やすとかじゃないですかね」

「新しい武器ねぇ……ありと言えばありだよな」

全員貴族出身の先輩騎士たち。

貴族としての誇りやプライドは大なり小なり存在するが、長年磨き続けてきた得物以外の武器を扱うということに関して……そこまで大きな抵抗はなかった。

主な理由として、技術という観点から見ると、ほぼ頭打ちだと感じているから。

使い続けている武器に、相棒には思い入れや自信がある。
だが、騎士としての経験を積み重ねていく中で、どうしても最後の……何をどうしても越えられない壁というものが見えてくる。

そのため、文字通り新しい武器を手に入れ、技術を磨くというのはプラスと捉えられる部分が大きい。

「問題があるとすれば、財布と要相談ってところだなぁ」

「ふっ、相変わらず酒が好きなようだな」

「うっせ。呑んでなきゃやってらんねぇ時も……ってのは、逃げか」

呑まなきゃやってやってられない。

子供からすれば、情けないと感じる姿かもしれない。
だが……大人も、人間である。
何かに縋りたい、寄りかかっていなければ、どこまでも沈み続けてしまう沼にハマることがある。

アラッドが聞けば、吞まなきゃやってられないという気持ちを否定はしない。

しかし、あなたはどちらを優先したいのか、という言葉が口にする。

「よく解っているじゃないか」

「そりゃあ、アラッドさんの話を聞けばねぇ……本当に強くなりたいと思ってるなら、そんなこと口にしてる暇なんてねぇって嫌でも解るってもんよ」

冒険者になるまでの人生に、特例で学園を卒業した後の人生。
アラッドの人生をザっと聞いてみると、そんな時が全くないように思える。

「あとな……ほら、やっぱあれだ。後輩たちがあんだけ頑張ろうとしてんだ……そのまんま強くなってくれるに越したことはないけどよ……躓かねぇとは限らないだろ」

楽でも、簡単な事ではない。
先輩騎士たちが口にした通り、現在騎士として活動していることを考えると、鬼じゃないのかと言いたくなる内容。

「そういう時、俺らが似たような経験してないと、どんな言葉を掛けても伝わらないかもしれないだろ」

それでも後輩たちがその道を進もうとするならば、先輩としては……せめて彼らが躓いた時、手を掴んで引き上げられる言葉を掛けてあげたかった。
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