スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
525 / 1,355

五百二十四話 そこは変えなくて良い

しおりを挟む
「なんとか出来る力が足りなかったから、か……そうだな。単純で根本的な問題だな」

「正直なところ、英雄は英雄になろうとした時点でなれないと思いますが」

「だっはっは!!! 痛いところにクリティカルヒットだな。エレムがそれを聞けばボロボロに泣き崩れるかもな」

英雄は英雄になろうとした時点で、もう道は閉ざされている。

アラッドと同じ様に考える者はそれなりにいるが、そんな子供じみた目標を笑う連中に対して、エレムはこれまで実力で黙らせてきた。

しかし……今回の一戦で、エレムは自分の夢を笑う者たちを黙らせる功績を取り損ねた。

「英雄になろうとした時点で、そもそも英雄にはなれないか。俺もあいつのことが可愛かったから眼を背けてきたけど、やっぱり本物の英雄から見ればエレムの奴は道化に近いのか?」

「そんな事は思ってませんよ。というか、その呼び方は止めてください。物凄くむず痒いんで」

第三者視点から見てもアラッド、スティームはイスバーダンの住民にとって英雄と呼んでもおかしくない存在である。

とはいえ、アラッドだけではなくスティームもその呼ばれ方は遠慮したかった。

「あそこまでの力を手に入れるには、並み対手の鍛錬と冒険では足りません。そこまで上り詰めたのは素直に凄いと思いますよ。ただ、俺はそこまで英雄譚とか読まないんですけど、大体物語の主人公たちって気付いたら英雄って呼ばれるようになってるじゃないですか」

「……つまり、あいつは自分の夢を諦めて……いや、別に諦める必要はねぇのか」

「諦めるというか、クソイケメン優男先輩が持ってる正義感はそのままで良いと思いますよ。ただ、無理に物語を読んで得たのか、実際にその背中を見たのかは知りませんけど、その陰に捉われずに……そうだな~」

グラスが空になったため、ソルティドッグを注文。

「Aランク冒険者を目指す。それが一番良い目標じゃないですか? 現実的に無理な目標ではなく、目指そうと思えば思うほど遠ざかることもない。Aランク冒険者になれば、それなりの権力が手に入ります。世の中にはそういった
権力を行使しなければ助けられない人たちもいるでしょう」

「確かに、あいつらが持つ権力は中々のもんだからな。ぶっちゃけ、下手な準男爵や男爵よりも上の力を持ってるからな」

冒険者たちの中のほぼ頂点と言えるAランク。

貴族出身であろうと平民出身であろうと、その域にまで上り詰めれば多くのファンができる。
そのファンの中には豪商、貴族の当主なども含まれるため、中途半端な権力しか持っていない者が楯突こうものなら、逆に消されてしまう可能性がある。

「そこまで辿り着けた時、自然と周りがクソイケメン優男先輩のことを英雄って呼び始めるんじゃないですか?」

「……わざわざ色々と答えを求めた側の俺がこんなことを言うのは失礼だと解ってるんだけど、アラッド君って本当に十五歳?」

「だいたいそのくらいですね。確実に二十は越えてませんよ」

「はっはっは、すげぇな。多分、全大人が君の考えに驚くぜ」

「そんな事はないと思いますけど……あ、後クソイケメン優男先輩が俺の言葉を素直に受け入れてAランクを目指すのはどうでも良いんですけど、その際にちゃんと周りを見れるようになっとかないと駄目っすよね」

「…………アラッド君は、あれか。仙人の生まれ変わりとか?」

「貴族の令息ってだけですよ」

異世界の魂が転生した存在ではあるが、前世では歳相応のガキであった。

「英雄を目指してる訳じゃないっすけど、俺の身内でこう……うちの侯爵家は、全員強くて当たり前なんだ! って考えを持ってる奴がいたんですよ。今はもう落ち着いてるんですけどね」

アラッドからちょいちょい身内の話を聞いていたスティームは、直ぐに誰のことだか分かった。

「そいつが他の身内とぶつかったことがあったんですよ。まっ、その時にあんまり強さに興味がない奴に負けたんですけどね」

「ほぅ~~、それは随分手痛い負けだな。それでも、今は前を向けてるんだろ……偉いもんだな」

「まだ幼かったんで、素直に俺や他のもっと歳上の者たちの意見を聞き入れられたんですよ」

「素直さ、か……それなりに成長して、一丁前に自分の考えを持っちまってる俺やエレムからすれば耳が痛い言葉だな」

「そうですか? 俺だって、学園に入ってた時期とか考えとかが合わず、同級生とぶつかり合うことがありましたし、身内とも思いっきりぶつかってますよ」

侯爵家の恥部……と思われるかもしれない内容を、大っぴらではないものの、遠慮なく話し続ける様子に若干不安を覚えるスティーム。

「……あれっすね。クソイケメン優男先輩に、心の底から全力でぶつかり合えるような傍に居れば、沈んでる今の状況を変えられるかもしれませんね」

「ライバルってやつか……それまた厳しいアイデアだな」

「でしょうね。まっ、そういうのは互いに互いをそういう存在だと認めない限りは、得られる存在じゃないですからね……俺がアドバイス出来るのは、これぐらいですね」

「十分だ。色々と我に返れたというか、初心に帰ることも……あいつに伝えるべき言葉も浮かんだよ」

「お役に立ててなによりです」

当然だが、そこで会話はが終わる訳がなく、ドミトルが満足するまで二人は呑み続け……スティームはあえなく撃沈。
アラッドも宿屋に戻ってから速攻でぶっ倒れたが、朝になってもとても良い酔いだったことだけは覚えていた。
しおりを挟む
感想 480

あなたにおすすめの小説

醜悪令息レオンの婚約

オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。 ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、 しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。 このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。 怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

君だけの呼び名

章槻雅希
ファンタジー
 カリーナは自分は王子様に愛されていると確信していた。だって、彼は私にだけ特別な呼び名をくれたから。  異世界のロシア語と同じような言語形態を持つ国であり、名前には友人や親戚が呼ぶ略称、家族・恋人・主君が呼ぶ愛称がある。更には隠されたもう一つの呼び名もあり、複雑な名前の言語形態はそれを有効活用されているのだった。  『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

処理中です...