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五百九十九話 基本があれば例外もある
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「…………」
「だ、大丈夫、アラッド?」
「おぅ……大丈夫だ」
宴会中、アラッドは多くの同業者やギルド職員から礼を込めてエールを杯に注がれた。
当然……彼らに悪意はない。
暴れる二体の火竜、これだけでも十分過ぎる脅威。
そこで、水蓮のメンバーに……これまた悪意がないとはいえ、結果として一体の轟炎竜を生み出してしまった。
そんな災害と呼ばれるクラスのモンスターを討伐したアラッド。
彼等はそんな英雄に感謝しかなかった。
アラッドも呑むことは嫌いではないため、注がれたエールをごくごくと呑んでいき……初めて、本気で限界が近いかもと感じた。
(度数が高くないエールとはいえ、あれだけ呑むと……うん、中々にヤバいな)
とはいえ、スティームも少々ドン引くほどの量のエールを呑んでもぶっ倒れて吐いてしまわないあたり、肝臓の強さが窺える。
「アラッド……さん」
「ん? あれ、あんたは……水蓮の、メンバーの」
「ホルダだ」
宿に戻る途中のアラッドに声を掛けてきた人物は、ウグリール山から街に戻る際に、狂化の習得方法を尋ねてきた青年だった。
「ホルダさん、ですか」
「さん付けはいらない。あんたの方が上だ」
「……どうも。では、いったい俺に何の用で?」
アラッドの問いに、ホルダはジャラジャラと聞こえる袋を取り出した。
「受け取ってくれ」
「……っ。えっと……本当に、何の用で?」
袋の中には本物の金貨が大量に入っており、白金貨もチラホラと入っている。
「…………強くなる方法を、教えてほしい」
「まだ、正確な狂化の習得方法を知りたいと」
「いや……そうじゃない。とにかく、強くなる方法を、教えてほしい……この通りだ」
「っ!!??」
宴会が終わった時間という事もあり、人によってはもう就寝している者も少なくない。
とはいえ……決して街中に誰一人としていないわけではない。
そんな中、ホルダは誰に教わったのか……綺麗な土下座の体勢を取り、頼み込んだ。
「……とりあえず、頭を上げてください」
冒険者というのは、よっぽど自分の実力や能力に自信がない者以外は、大なり小なりプライドを持っている。
水蓮という名の知れたクランに所属し、今回の討伐に選ばれるレベルのメンバーであれば、そのプライドもそれなりの大きさ。
教えを乞うのだから、頭を下げるのは当然……だとしても、地面に額を付けてまで頼み込むというのは、非常に珍しい光景ではある。
「とりあえず、場所を変えましょう」
その光景は……詳しい内容を知らなければ、見た人の感じ方によって解釈が変わってしまう。
アラッドはホルダを自分たちが泊っている部屋に案内し、スティームは何やら面白そうなことが始まると思いながら、紅茶を淹れ始めた。
「再度……言いますが、強くなる方法はあっても、それは基本的にまだ幼く……自我がそこまで確立していない子供に対する方法です。ホルダは……多分、スティームと同じぐらいの年齢ですよね」
「今年で十九だ」
「そうですか。そうなると、やはりこれから劇的に強くなることは難しいです」
当たり前の事を、当たり前の様に説明する。
アラッドはひとまず貰った大量の金貨が入った袋を、そのまま持ち逃げするつもりはない。
ここで諦めてくれるのであれば、そっくりそのまま返すつもり。
「基本的に、ということは例外と言える方法があるんだろ、アラッドさん」
(……直線的に進むだけの脳筋タイプじゃないみたいだな)
確かに、例外と言えなくもない方法は確かにある。
だが……それでも決して容易に勧められる方法ではない。
「……どうしても、そこまで今強くなる方法を求めるんですか」
実際に戦っているところは観ていない。
視てもいないが……ホルダが派遣されたメンバーの若手の中でも有望株であることは、直感的に解っていた。
このまま順当に成長していけば、間違いなくBランクには昇格できる。
Aランクには……辿り着ける可能性は小さいが、それでも冒険者を全体的に見た時、間違いなく戦闘力が優秀と言える部類に入る。
「置いて行かれたくねぇんだ。天才と言われる連中たちに」
(アリファさんみたいな人のことを言ってるのか?)
確かにアリファの事も入っているが……当然、アラッドという鬼才もその中に入っている。
「けど……当たり前だが、周りと同じことをやってるだけじゃ、追いつくなんて夢のまた夢だ」
(まぁ、それは間違ってないな)
よっぽどずば抜けたセンスや身体能力、吸収力がない限り……後から走り出した者が、同世代の天才や怪物と呼ばれる者たちに追い付くのは、不可能に近い。
「俺は、あんたに代わりに倒してもらった事が悔しいと思ってる。ただ…………それ以上に、あの時、仲間を守れなかったことが、心底悔しい」
「…………」
「解ってる。仲間を守る力は、何も戦闘力だけではないってのは解ってる。でも、俺にはそれしかないんだ」
決めつけるにはまだ早い、とも言えない。
現時点でホルダに戦闘力や探索力、そういった実戦で使用出来る能力以外は全く磨かれておらず、既に成長してるそれらの点を捨てるのは非常に勿体ない。
(……期限は、三年ってところか)
「だ、大丈夫、アラッド?」
「おぅ……大丈夫だ」
宴会中、アラッドは多くの同業者やギルド職員から礼を込めてエールを杯に注がれた。
当然……彼らに悪意はない。
暴れる二体の火竜、これだけでも十分過ぎる脅威。
そこで、水蓮のメンバーに……これまた悪意がないとはいえ、結果として一体の轟炎竜を生み出してしまった。
そんな災害と呼ばれるクラスのモンスターを討伐したアラッド。
彼等はそんな英雄に感謝しかなかった。
アラッドも呑むことは嫌いではないため、注がれたエールをごくごくと呑んでいき……初めて、本気で限界が近いかもと感じた。
(度数が高くないエールとはいえ、あれだけ呑むと……うん、中々にヤバいな)
とはいえ、スティームも少々ドン引くほどの量のエールを呑んでもぶっ倒れて吐いてしまわないあたり、肝臓の強さが窺える。
「アラッド……さん」
「ん? あれ、あんたは……水蓮の、メンバーの」
「ホルダだ」
宿に戻る途中のアラッドに声を掛けてきた人物は、ウグリール山から街に戻る際に、狂化の習得方法を尋ねてきた青年だった。
「ホルダさん、ですか」
「さん付けはいらない。あんたの方が上だ」
「……どうも。では、いったい俺に何の用で?」
アラッドの問いに、ホルダはジャラジャラと聞こえる袋を取り出した。
「受け取ってくれ」
「……っ。えっと……本当に、何の用で?」
袋の中には本物の金貨が大量に入っており、白金貨もチラホラと入っている。
「…………強くなる方法を、教えてほしい」
「まだ、正確な狂化の習得方法を知りたいと」
「いや……そうじゃない。とにかく、強くなる方法を、教えてほしい……この通りだ」
「っ!!??」
宴会が終わった時間という事もあり、人によってはもう就寝している者も少なくない。
とはいえ……決して街中に誰一人としていないわけではない。
そんな中、ホルダは誰に教わったのか……綺麗な土下座の体勢を取り、頼み込んだ。
「……とりあえず、頭を上げてください」
冒険者というのは、よっぽど自分の実力や能力に自信がない者以外は、大なり小なりプライドを持っている。
水蓮という名の知れたクランに所属し、今回の討伐に選ばれるレベルのメンバーであれば、そのプライドもそれなりの大きさ。
教えを乞うのだから、頭を下げるのは当然……だとしても、地面に額を付けてまで頼み込むというのは、非常に珍しい光景ではある。
「とりあえず、場所を変えましょう」
その光景は……詳しい内容を知らなければ、見た人の感じ方によって解釈が変わってしまう。
アラッドはホルダを自分たちが泊っている部屋に案内し、スティームは何やら面白そうなことが始まると思いながら、紅茶を淹れ始めた。
「再度……言いますが、強くなる方法はあっても、それは基本的にまだ幼く……自我がそこまで確立していない子供に対する方法です。ホルダは……多分、スティームと同じぐらいの年齢ですよね」
「今年で十九だ」
「そうですか。そうなると、やはりこれから劇的に強くなることは難しいです」
当たり前の事を、当たり前の様に説明する。
アラッドはひとまず貰った大量の金貨が入った袋を、そのまま持ち逃げするつもりはない。
ここで諦めてくれるのであれば、そっくりそのまま返すつもり。
「基本的に、ということは例外と言える方法があるんだろ、アラッドさん」
(……直線的に進むだけの脳筋タイプじゃないみたいだな)
確かに、例外と言えなくもない方法は確かにある。
だが……それでも決して容易に勧められる方法ではない。
「……どうしても、そこまで今強くなる方法を求めるんですか」
実際に戦っているところは観ていない。
視てもいないが……ホルダが派遣されたメンバーの若手の中でも有望株であることは、直感的に解っていた。
このまま順当に成長していけば、間違いなくBランクには昇格できる。
Aランクには……辿り着ける可能性は小さいが、それでも冒険者を全体的に見た時、間違いなく戦闘力が優秀と言える部類に入る。
「置いて行かれたくねぇんだ。天才と言われる連中たちに」
(アリファさんみたいな人のことを言ってるのか?)
確かにアリファの事も入っているが……当然、アラッドという鬼才もその中に入っている。
「けど……当たり前だが、周りと同じことをやってるだけじゃ、追いつくなんて夢のまた夢だ」
(まぁ、それは間違ってないな)
よっぽどずば抜けたセンスや身体能力、吸収力がない限り……後から走り出した者が、同世代の天才や怪物と呼ばれる者たちに追い付くのは、不可能に近い。
「俺は、あんたに代わりに倒してもらった事が悔しいと思ってる。ただ…………それ以上に、あの時、仲間を守れなかったことが、心底悔しい」
「…………」
「解ってる。仲間を守る力は、何も戦闘力だけではないってのは解ってる。でも、俺にはそれしかないんだ」
決めつけるにはまだ早い、とも言えない。
現時点でホルダに戦闘力や探索力、そういった実戦で使用出来る能力以外は全く磨かれておらず、既に成長してるそれらの点を捨てるのは非常に勿体ない。
(……期限は、三年ってところか)
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