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六百五話 勇者ではない
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「ん~~~~……あまりそれらしい跡も、穴もないな」
ケルピー以降も積極的にスティーム、ファルが遭遇したモンスターと戦闘を行い、既にアップは十分な状態。
ただ、肝心のソルヴァイパーが見つからない。
(クロの聴覚や嗅覚ばかりに頼ってられないと思って、俺も頑張って探してるんだが…………それらしい気配すら見つからないな)
正直なところ、アラッドはそこまで病に侵されている侯爵家の令嬢の為に頑張らなければ……とは思っていない。
前回は自分の我儘で轟炎竜との戦いを己とクロだけで挑んでしまったため、その埋め合わせをしなければという思いが強い。
強いモンスターなら、探せば見つけられるかもしれないが、だからといって先送りして良いと思っておらず、アラッドはクロだけに頼らず真剣に探していた。
「……一応、既にソルヴァイパーが既に別の場所に移っている、っていうのも考えておいた方が良いよね」
「わざわざソルヴァイパーと戦う為にここまで来たんだろ。そんな弱気になるなよ」
「それもそうだけど…………でも、あまり時間を無駄にするのもどうかって感じでしょ。俺としては白雷を使えるなら、それを赤雷で破って倒したいけど……一応、期限を決めといた方が良いよね」
時間は有限。
まだ二十にもなっていない若者が何を焦っているんだと思われるかもしれないが……その時、その年齢での冒険でしか感じられない高揚感というものがある。
スティームの言葉通り、ソルヴァイパーの討伐には期限を決めておいた方が賢明である。
「それなら、侯爵家の令嬢が亡くなるまで、とか?」
「後一か月ぐらいだっけ。それぐらいなら……まぁ、良いかな。でも、なんかちょっと決め方が不謹慎だね」
「そうか? ……そうだな。確かに、そうかもしれない。けど……別に、俺たちはヒーロー……勇者じゃないんだ」
アラッドの目的は、あくまで自分の我儘で奪ってしまった強敵と戦う機会を、スティームに与えたい。
令嬢の命の優先事項は二番目である。
「勇者じゃない、か…………変に気負う必要はない方が良いね」
「そういう事だ。強いモンスターと戦いに来たんだろ。それだけを考えて行動してれば良い」
アラッドという規格外と一緒に居たからか、自分までなんでも出来てしまう……出来ることなら、やらなければという思いをいつの間にか抱えてしまっていた。
(……良くない、良くないぞ僕。アラッドはアラッドで、僕は僕なんだ……僕は、まだ何者でもないんだ)
深呼吸をして心を落ち着かせる。
それでも、このままでは負のスパイラルに落ちそうだと思い、どうソルヴァイパーと戦い、倒すかをイメージして無理矢理気持ちを切り替える。
(ソルヴァイパーがどれだけ強いのかは分からないが、場合によっては心臓を潰して倒す形になるかもしれない。本当に、そこを気にする必要はないんだ)
雷を纏って攻撃するのが得意なスティームであれば、そのつもりがなくとも纏う雷が心臓を傷付けてしまう場合もありうる。
優しさはスティームの美徳の一つではあるが、優しさを優先するあまりに戦闘中の動きが鈍って死んでは、元も子もない。
結果的にどうなっても、アラッドはスティームを絶対に責めないと決めている。
「まっ、初日はこんなもんだよ」
「そうだね。焦っても仕方ない」
冒険者のプロとして活動してきた経験はアラッドよりも長く、初日の探索が終了するころには、既に切り替えられていた。
「買取お願いします」
「かしこまりました」
(……やっぱり、手練れの冒険者がそこそこ多いな)
素材の買取もらう為に冒険者ギルドに訪れた二人。
ロビーには既に一日の仕事を終えた冒険者たちで溢れており……ソルヴァイパーを狙っている冒険者たちは、親交がある者同士で情報を交換しあったり…………聴覚を強化してその情報を盗み聞きする者。
彼等の中に……本気で病に侵されている令嬢を助けたいと思ってソルヴァイパーを探している者は少なく、基本的に皆依頼を達成して得られる物にしか興味がない。
故に……その依頼達成の邪魔になりそうな同業者は、できれば今のうちに牽制しておきたい。
(あの二人って、やっぱり雷獣を倒したアラッドとスティーム……)
(チッ! あの二人組も狙ってやがったのか)
(不味いね……機動力がある従魔を持っている二人が参戦するとなると、先に発見されて討伐される可能性が高い)
(なんとか対応してぇが…………クソったれが。持ってるカード強過ぎんだろ)
今回の依頼を達成して、侯爵家に恩を売りたい、縁をつくっておきたい……そう考えられる冒険者程、そこら辺の冒険者たちよりも頭が回り……二人は敵に回してはならない存在だと解っている。
(? チクチクと視線は感じるけど、もう査定も終わりそうなのに絡むぞ~~~って雰囲気の人は……いなさそうだな。それはそれで非常に有難いというか嬉しいというか……でも、珍しいな)
できれば、この街にいる間は……贅沢を言うのであれば、このまま面倒な絡み方をしてくる人がゼロになって欲しい。
そんな願いが……天に届いたのか、驚くほどダル絡みをしてくる者は現れなかった。
ただ、最悪なことに、十日もソルヴァイパーと遭遇することが出来ない日々が続いた。
ケルピー以降も積極的にスティーム、ファルが遭遇したモンスターと戦闘を行い、既にアップは十分な状態。
ただ、肝心のソルヴァイパーが見つからない。
(クロの聴覚や嗅覚ばかりに頼ってられないと思って、俺も頑張って探してるんだが…………それらしい気配すら見つからないな)
正直なところ、アラッドはそこまで病に侵されている侯爵家の令嬢の為に頑張らなければ……とは思っていない。
前回は自分の我儘で轟炎竜との戦いを己とクロだけで挑んでしまったため、その埋め合わせをしなければという思いが強い。
強いモンスターなら、探せば見つけられるかもしれないが、だからといって先送りして良いと思っておらず、アラッドはクロだけに頼らず真剣に探していた。
「……一応、既にソルヴァイパーが既に別の場所に移っている、っていうのも考えておいた方が良いよね」
「わざわざソルヴァイパーと戦う為にここまで来たんだろ。そんな弱気になるなよ」
「それもそうだけど…………でも、あまり時間を無駄にするのもどうかって感じでしょ。俺としては白雷を使えるなら、それを赤雷で破って倒したいけど……一応、期限を決めといた方が良いよね」
時間は有限。
まだ二十にもなっていない若者が何を焦っているんだと思われるかもしれないが……その時、その年齢での冒険でしか感じられない高揚感というものがある。
スティームの言葉通り、ソルヴァイパーの討伐には期限を決めておいた方が賢明である。
「それなら、侯爵家の令嬢が亡くなるまで、とか?」
「後一か月ぐらいだっけ。それぐらいなら……まぁ、良いかな。でも、なんかちょっと決め方が不謹慎だね」
「そうか? ……そうだな。確かに、そうかもしれない。けど……別に、俺たちはヒーロー……勇者じゃないんだ」
アラッドの目的は、あくまで自分の我儘で奪ってしまった強敵と戦う機会を、スティームに与えたい。
令嬢の命の優先事項は二番目である。
「勇者じゃない、か…………変に気負う必要はない方が良いね」
「そういう事だ。強いモンスターと戦いに来たんだろ。それだけを考えて行動してれば良い」
アラッドという規格外と一緒に居たからか、自分までなんでも出来てしまう……出来ることなら、やらなければという思いをいつの間にか抱えてしまっていた。
(……良くない、良くないぞ僕。アラッドはアラッドで、僕は僕なんだ……僕は、まだ何者でもないんだ)
深呼吸をして心を落ち着かせる。
それでも、このままでは負のスパイラルに落ちそうだと思い、どうソルヴァイパーと戦い、倒すかをイメージして無理矢理気持ちを切り替える。
(ソルヴァイパーがどれだけ強いのかは分からないが、場合によっては心臓を潰して倒す形になるかもしれない。本当に、そこを気にする必要はないんだ)
雷を纏って攻撃するのが得意なスティームであれば、そのつもりがなくとも纏う雷が心臓を傷付けてしまう場合もありうる。
優しさはスティームの美徳の一つではあるが、優しさを優先するあまりに戦闘中の動きが鈍って死んでは、元も子もない。
結果的にどうなっても、アラッドはスティームを絶対に責めないと決めている。
「まっ、初日はこんなもんだよ」
「そうだね。焦っても仕方ない」
冒険者のプロとして活動してきた経験はアラッドよりも長く、初日の探索が終了するころには、既に切り替えられていた。
「買取お願いします」
「かしこまりました」
(……やっぱり、手練れの冒険者がそこそこ多いな)
素材の買取もらう為に冒険者ギルドに訪れた二人。
ロビーには既に一日の仕事を終えた冒険者たちで溢れており……ソルヴァイパーを狙っている冒険者たちは、親交がある者同士で情報を交換しあったり…………聴覚を強化してその情報を盗み聞きする者。
彼等の中に……本気で病に侵されている令嬢を助けたいと思ってソルヴァイパーを探している者は少なく、基本的に皆依頼を達成して得られる物にしか興味がない。
故に……その依頼達成の邪魔になりそうな同業者は、できれば今のうちに牽制しておきたい。
(あの二人って、やっぱり雷獣を倒したアラッドとスティーム……)
(チッ! あの二人組も狙ってやがったのか)
(不味いね……機動力がある従魔を持っている二人が参戦するとなると、先に発見されて討伐される可能性が高い)
(なんとか対応してぇが…………クソったれが。持ってるカード強過ぎんだろ)
今回の依頼を達成して、侯爵家に恩を売りたい、縁をつくっておきたい……そう考えられる冒険者程、そこら辺の冒険者たちよりも頭が回り……二人は敵に回してはならない存在だと解っている。
(? チクチクと視線は感じるけど、もう査定も終わりそうなのに絡むぞ~~~って雰囲気の人は……いなさそうだな。それはそれで非常に有難いというか嬉しいというか……でも、珍しいな)
できれば、この街にいる間は……贅沢を言うのであれば、このまま面倒な絡み方をしてくる人がゼロになって欲しい。
そんな願いが……天に届いたのか、驚くほどダル絡みをしてくる者は現れなかった。
ただ、最悪なことに、十日もソルヴァイパーと遭遇することが出来ない日々が続いた。
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