639 / 1,361
六百三十八話 言葉は、ズルい
しおりを挟む
「…………」
アマルは黙々と……自分たちが頼んだ料理を食べていた。
とても、とても和気藹々と話しながら夕食を食べる空気ではない。
それはアマルたちが座るテーブルだけではなく……他のテーブルに座る客たちも同じだった。
先程までの流れを考えれば、アマルの言動をバカにする様な発言がチラホラと出ても、致し方ない。
アマルは先程、アラッドに対して自ら恥を晒したのだ。
周囲からひそひそと小バカにされても、それはそれで仕方ないというもの。
従者に近い存在である騎士と魔法使いは睨みつけるかもしれないが、二人もアラッドたちに対して……それなりに理不尽な要求を主が行ったという認識はあった。
だが……結果として、そういったひそひそとした声すら零れなかった。
理由はいくつかあった。
まず、あのアラッドが彼等を強いと……実力者であると認めた。
元々アマルたちの強さはある程度冒険者たちに認識はされていたが、それでも……ここ一年、噂が絶えないあのアラッドが彼等は強いと認めたのだ。
面子が大事な冒険者。
小バカにしたが故に戦いに持ち込まれ、ボロクソに負けたとあっては面子もボロクソになってしまう。
加えてもう一つ。
明らかに……アマルの体から、怒りに近い空気が零れていた。
(縋るな、だと…………それはお前だから……クッ!!!!!)
認めてしまっている。
噂を聞いた時から……先程、初めて面と向かって出会ってしまい……認めてしまっていた。
戦わずとも解ってしまった。
目の前の自分よりも歳下の青年は……自分より強い存在だと、本能が負けを認めていた。
だからこそ、駆け引きに持ち込んだ。戦闘力以外の部分でなんとかしようとした。
エスペラーサ家の人間としてと考えれば、そのアマルの考えは間違っていない。
先程アラッドに伝えた通り、結果として外の連中たちがどう騒ぐか、噂するのか……それはアラッドやアマル、両家がコントロールできない部分。
認めてはいれど、アマルとしては恥を捨ててでもという、覚悟を持ってのやり取りだった。
それを……彼は一瞬で拒否した。
面食らったが、それでも諦めなかった。
そしたら…………何故か褒められた。
訳が解らなかった。
訳が解らなかったが、途中まで……そう、途中まで気分が良かった。
自分の本能が負けを認めてしまっている間に、お前は強いのだろと認められた。
そこから、急に落とされた。
強さを持っているなら、自分に関係無い力を縋るなよと。
それは……それは、お前だからこそ言えるセリフだろうが!!!!!!!!!
そう、言いたかった。
力があるなら、他の何かに頼る必要はない?
そんな事はない。
アマルにはアマルの事情があるからこそ、自分以外の力を頼った。
恥を捨てて頼ったのだ。
にもかかわらず、その心を……覚悟を踏みにじられた気がした。
それでもアマルは発狂することも、怒りを撒き散らすこともなかった。
(……言葉と言うのは、ズルいな)
理由は、単純だった。
自分の本能が負けを認めている存在が……自分を強者だと認めてくれたから。
負けを認めているだけで、アラッドの事を尊敬したり、敬意を持っている訳でもなければ、当然忠誠を誓っている訳でもない。
それでも……この強者が、あのアラッドが自分を強いと認めてくれた。
どうしようもなくむず痒い感覚が体の中を駆け巡り続ける。
(俺は……彼ほど、強くない。同じである存在に対し、あそこまで強く自分の考えをぶつけられない…………)
アラッドが途中で切り上げたように見えるが、あそこで完全にアマルのなんとしてもアラッドをこの件から遠ざけようという気持ちは折れていた。
完全に、アラッドが言い負かした状態だった。
「ふーーーーー………………そうだな。強くなるしか、ないか」
急に主人が言葉を零したことに、肩が震える騎士と魔法使い。
同行している冒険者二人は……雇い主の怒りが限界突破し、いきなりクビにならずに済んだことに、ホッと一安心。
「さて、戻ろうか」
恥を忍んで頼んだ…………その行動自体に、悔いはない……とは言えない。
それでも、あの時点でアマルが取れる最善の行動はそれしかなかった。
剛柔の存在に関しては、それなりに力を持つ貴族たちの中では、基本的に干渉しないというのが暗黙の了解だった。
しかし、基本的に社交界に参加しないアラッドの頭には入っていなかった。
当然、他国の貴族であるスティームは知らず、そもそも貴族出身の人物ではないガルーレが知る訳がない。
そんな暗黙の了解をいきなり破ってきたのが三人である。
故に……アマルは何度も自分に言い聞かせる。
恥を忍んで頼んだあの行動は……それ自体は間違っていない。
重用なのは今、これからどう行動するか。
もう、恥は晒してしまった。
帰ったら説教を食らうかもしれない。
しばらくの間、謹慎していろと言われるかもしれない。
構わない。
死刑、一生屋敷の中というのは困るが、それ以外の罰であれば基本的に構わない。
お前ら、強いだろ。
その言葉が、彼に取って見えない支えとなった。
アマルは黙々と……自分たちが頼んだ料理を食べていた。
とても、とても和気藹々と話しながら夕食を食べる空気ではない。
それはアマルたちが座るテーブルだけではなく……他のテーブルに座る客たちも同じだった。
先程までの流れを考えれば、アマルの言動をバカにする様な発言がチラホラと出ても、致し方ない。
アマルは先程、アラッドに対して自ら恥を晒したのだ。
周囲からひそひそと小バカにされても、それはそれで仕方ないというもの。
従者に近い存在である騎士と魔法使いは睨みつけるかもしれないが、二人もアラッドたちに対して……それなりに理不尽な要求を主が行ったという認識はあった。
だが……結果として、そういったひそひそとした声すら零れなかった。
理由はいくつかあった。
まず、あのアラッドが彼等を強いと……実力者であると認めた。
元々アマルたちの強さはある程度冒険者たちに認識はされていたが、それでも……ここ一年、噂が絶えないあのアラッドが彼等は強いと認めたのだ。
面子が大事な冒険者。
小バカにしたが故に戦いに持ち込まれ、ボロクソに負けたとあっては面子もボロクソになってしまう。
加えてもう一つ。
明らかに……アマルの体から、怒りに近い空気が零れていた。
(縋るな、だと…………それはお前だから……クッ!!!!!)
認めてしまっている。
噂を聞いた時から……先程、初めて面と向かって出会ってしまい……認めてしまっていた。
戦わずとも解ってしまった。
目の前の自分よりも歳下の青年は……自分より強い存在だと、本能が負けを認めていた。
だからこそ、駆け引きに持ち込んだ。戦闘力以外の部分でなんとかしようとした。
エスペラーサ家の人間としてと考えれば、そのアマルの考えは間違っていない。
先程アラッドに伝えた通り、結果として外の連中たちがどう騒ぐか、噂するのか……それはアラッドやアマル、両家がコントロールできない部分。
認めてはいれど、アマルとしては恥を捨ててでもという、覚悟を持ってのやり取りだった。
それを……彼は一瞬で拒否した。
面食らったが、それでも諦めなかった。
そしたら…………何故か褒められた。
訳が解らなかった。
訳が解らなかったが、途中まで……そう、途中まで気分が良かった。
自分の本能が負けを認めてしまっている間に、お前は強いのだろと認められた。
そこから、急に落とされた。
強さを持っているなら、自分に関係無い力を縋るなよと。
それは……それは、お前だからこそ言えるセリフだろうが!!!!!!!!!
そう、言いたかった。
力があるなら、他の何かに頼る必要はない?
そんな事はない。
アマルにはアマルの事情があるからこそ、自分以外の力を頼った。
恥を捨てて頼ったのだ。
にもかかわらず、その心を……覚悟を踏みにじられた気がした。
それでもアマルは発狂することも、怒りを撒き散らすこともなかった。
(……言葉と言うのは、ズルいな)
理由は、単純だった。
自分の本能が負けを認めている存在が……自分を強者だと認めてくれたから。
負けを認めているだけで、アラッドの事を尊敬したり、敬意を持っている訳でもなければ、当然忠誠を誓っている訳でもない。
それでも……この強者が、あのアラッドが自分を強いと認めてくれた。
どうしようもなくむず痒い感覚が体の中を駆け巡り続ける。
(俺は……彼ほど、強くない。同じである存在に対し、あそこまで強く自分の考えをぶつけられない…………)
アラッドが途中で切り上げたように見えるが、あそこで完全にアマルのなんとしてもアラッドをこの件から遠ざけようという気持ちは折れていた。
完全に、アラッドが言い負かした状態だった。
「ふーーーーー………………そうだな。強くなるしか、ないか」
急に主人が言葉を零したことに、肩が震える騎士と魔法使い。
同行している冒険者二人は……雇い主の怒りが限界突破し、いきなりクビにならずに済んだことに、ホッと一安心。
「さて、戻ろうか」
恥を忍んで頼んだ…………その行動自体に、悔いはない……とは言えない。
それでも、あの時点でアマルが取れる最善の行動はそれしかなかった。
剛柔の存在に関しては、それなりに力を持つ貴族たちの中では、基本的に干渉しないというのが暗黙の了解だった。
しかし、基本的に社交界に参加しないアラッドの頭には入っていなかった。
当然、他国の貴族であるスティームは知らず、そもそも貴族出身の人物ではないガルーレが知る訳がない。
そんな暗黙の了解をいきなり破ってきたのが三人である。
故に……アマルは何度も自分に言い聞かせる。
恥を忍んで頼んだあの行動は……それ自体は間違っていない。
重用なのは今、これからどう行動するか。
もう、恥は晒してしまった。
帰ったら説教を食らうかもしれない。
しばらくの間、謹慎していろと言われるかもしれない。
構わない。
死刑、一生屋敷の中というのは困るが、それ以外の罰であれば基本的に構わない。
お前ら、強いだろ。
その言葉が、彼に取って見えない支えとなった。
205
あなたにおすすめの小説
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。
凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」
「それは良いですわね、勇者様!」
勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。
隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。
毎日の暴行。
さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。
最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。
今までの行いを、後悔させてあげる--
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる