995 / 1,361
九百九十三話 そういう事
しおりを挟む
『……お母さんは、あの人に……殺される、べき? だったの?』
『それは違うかな。ただ…………彼女に挑まれて、逃げれば……それは弱者の、弱虫のすることかな』
虎竜は出産から日数があまり経っておらず、体力が戻っていない状況であるにもかかわらず、ディーナとの勝負から逃げなかった。
その理由は、クロが伝えた内容以外にもあるが、虎竜の子が理解するには、その内容だけでも十分だった。
『それじゃあ……あの、人間のメスは、強かったん、だね』
『君のお母さんを追い込むほどの強さを持った人だね』
『………………………』
虎竜の子は何を思ったのか、ゆっくり……ディーナの方に近づいた。
既にディーナに対する敵意や怒気、憎しみが消えているため、クロは無理に止めようとはせず、アラッドたちも動かなかった。
「……?」
「ナゥ~~~」
ディーナに近づいた虎竜の子は、爪撃によって切傷を負った拳を舐めた。
それが何を意味するのか……ディーナも、その場にいる他の者たちも、なんとなくではあるが……理解出来た。
「ねぇ、アラッド。あれって…………そういう事、なのかな」
「……多分、そういう事なんだろう。なぁ、クロ」
「ワゥ!」
同じ境遇となった相手。
加えて、正々堂々と戦い、強い母に勝った強い人間。
クロが冷静に……丁寧に伝えた言葉もあってか、虎竜の子は…………ディーナな事を、既に他人とは思えなくなった。
「お疲れ様、ディーナさん」
もう良いだろうと思い、アラッドはディーナの元へ駆け寄り、ポーションを渡した。
「……すまない。色々と……ありがとう」
ポーションの礼だけではなく、約束通り始まった戦いに横やりを刺さないでくれたことや、乱入者を止めてくれた事……諸々の事に関して、感謝の意を伝えた。
「俺たちは、約束した内容を守っただけですよ。それに、クロはクロで十分満足出来る戦いが出来ましたから」
「ワゥ!!!」
アラッドの言う通り、クロは本当に……本当に久しぶりに、モンスターとの戦闘で百パーセントと満足出来る戦いを行うことが出来た。
時間にしてたった数分の戦いではあったが…………クロは本当に楽しんだ。
本来は、もっと時間を掛けて楽しもうと考えていたが、牛飢鬼の強さに引っ張られ、直ぐにギアが高まった。
結果、怪我を負うリスクがありながらも牛飢鬼を仕留める攻撃を、行動を何度も取る様になり、激闘はたった数分で終わった。
ただ……牛飢鬼は元々虎竜の様になるべき木々を、森を傷付けないように戦おうという気持ちなどサラサラなく、クロもそういった戦い方をするならばと、森の様子など気にせず動くしかなく……先程まで彼らが戦っていた場所は、禿山状態になっていた。
「そうか……それは良かった。ところで…………この子は、本当に私の元に来ると、言っているのだろうか」
傷口を舐めるという行動から、先程まで向けられていた敵意や怒気はないとなんとなく解った。
それでも、ディーナはディーナで両親の仇である虎竜と戦い、結果として子の親を奪ってしまったという思いがある。
「そうみたいですよ。なぁ、クロ」
「ワゥワゥ!」
その通りだと、自信を持って返事を返すクロ。
信頼出来る冒険者と、その従魔からその通りだと言われ……ディーナは虎竜の子と視線を合わせた。
「私の名前はディーナだ……これから、よろしく頼む」
「ルァウっ!!!」
こちらこそよろしくと、大きな声で返す。
そんな虎竜の子の様子を見て、エルダートレントは空気を読んだのか……子に何も講義をすることなく、森の奥へと去って行った。
「ディーナさん、そいつの名前はどうするんですか?」
「名前……そうだな、確かに名前は必要か」
帰り道、話題は虎竜の子の名前が上がった。
「……因みに、アラッドはどういう考えで、名前を付けたんだ」
「毛並みが深い黒だったんで、そのままクロって付けました」
「そうか……」
ディーナは強面ではあるが喋ってみれば理知的な部分があると知ったため、あまりにもあっさりとした名付け理由に少し意外だと感じた。
(……親の虎竜と違い、やや赤い)
虎竜の子……虎竜ジュニアの鱗は、虎竜と比べてやや赤い。
だからアカ……と、単純過ぎる名前は付けられなかった。
「ドラゴンと虎……タイガー? の子の子だから……ドライガーとか?」
「タイゴンより、そっちの方が良さそうではあるね…………アラッドは、何か良い感じの名前を思い付いた?」
「俺か? …………そうだな……」
アラッドは諸々の記憶を掘り返しながら、何か良い名前はないかと考えながら……チラッと虎竜ジュニアの方に視線を向けた。
アラッドから視線を向けられた虎竜ジュニアは、ほんの少しだけ体を震わせた。
特に敵意は感じられない。人間の中では少々強面な部類に入るが、モンスターからすればだから何なんだという外見。
しかし……まだ戦闘経験と言える経験はない虎竜ジュニアであっても、目に見えない強さを強制的に感じさせられる。
「…………ブローズっていうのはどうだ」
言葉の響きは悪くないと感じるも、ディーナたちはその言葉がどこから出てきたのか全く解らなかった。
『それは違うかな。ただ…………彼女に挑まれて、逃げれば……それは弱者の、弱虫のすることかな』
虎竜は出産から日数があまり経っておらず、体力が戻っていない状況であるにもかかわらず、ディーナとの勝負から逃げなかった。
その理由は、クロが伝えた内容以外にもあるが、虎竜の子が理解するには、その内容だけでも十分だった。
『それじゃあ……あの、人間のメスは、強かったん、だね』
『君のお母さんを追い込むほどの強さを持った人だね』
『………………………』
虎竜の子は何を思ったのか、ゆっくり……ディーナの方に近づいた。
既にディーナに対する敵意や怒気、憎しみが消えているため、クロは無理に止めようとはせず、アラッドたちも動かなかった。
「……?」
「ナゥ~~~」
ディーナに近づいた虎竜の子は、爪撃によって切傷を負った拳を舐めた。
それが何を意味するのか……ディーナも、その場にいる他の者たちも、なんとなくではあるが……理解出来た。
「ねぇ、アラッド。あれって…………そういう事、なのかな」
「……多分、そういう事なんだろう。なぁ、クロ」
「ワゥ!」
同じ境遇となった相手。
加えて、正々堂々と戦い、強い母に勝った強い人間。
クロが冷静に……丁寧に伝えた言葉もあってか、虎竜の子は…………ディーナな事を、既に他人とは思えなくなった。
「お疲れ様、ディーナさん」
もう良いだろうと思い、アラッドはディーナの元へ駆け寄り、ポーションを渡した。
「……すまない。色々と……ありがとう」
ポーションの礼だけではなく、約束通り始まった戦いに横やりを刺さないでくれたことや、乱入者を止めてくれた事……諸々の事に関して、感謝の意を伝えた。
「俺たちは、約束した内容を守っただけですよ。それに、クロはクロで十分満足出来る戦いが出来ましたから」
「ワゥ!!!」
アラッドの言う通り、クロは本当に……本当に久しぶりに、モンスターとの戦闘で百パーセントと満足出来る戦いを行うことが出来た。
時間にしてたった数分の戦いではあったが…………クロは本当に楽しんだ。
本来は、もっと時間を掛けて楽しもうと考えていたが、牛飢鬼の強さに引っ張られ、直ぐにギアが高まった。
結果、怪我を負うリスクがありながらも牛飢鬼を仕留める攻撃を、行動を何度も取る様になり、激闘はたった数分で終わった。
ただ……牛飢鬼は元々虎竜の様になるべき木々を、森を傷付けないように戦おうという気持ちなどサラサラなく、クロもそういった戦い方をするならばと、森の様子など気にせず動くしかなく……先程まで彼らが戦っていた場所は、禿山状態になっていた。
「そうか……それは良かった。ところで…………この子は、本当に私の元に来ると、言っているのだろうか」
傷口を舐めるという行動から、先程まで向けられていた敵意や怒気はないとなんとなく解った。
それでも、ディーナはディーナで両親の仇である虎竜と戦い、結果として子の親を奪ってしまったという思いがある。
「そうみたいですよ。なぁ、クロ」
「ワゥワゥ!」
その通りだと、自信を持って返事を返すクロ。
信頼出来る冒険者と、その従魔からその通りだと言われ……ディーナは虎竜の子と視線を合わせた。
「私の名前はディーナだ……これから、よろしく頼む」
「ルァウっ!!!」
こちらこそよろしくと、大きな声で返す。
そんな虎竜の子の様子を見て、エルダートレントは空気を読んだのか……子に何も講義をすることなく、森の奥へと去って行った。
「ディーナさん、そいつの名前はどうするんですか?」
「名前……そうだな、確かに名前は必要か」
帰り道、話題は虎竜の子の名前が上がった。
「……因みに、アラッドはどういう考えで、名前を付けたんだ」
「毛並みが深い黒だったんで、そのままクロって付けました」
「そうか……」
ディーナは強面ではあるが喋ってみれば理知的な部分があると知ったため、あまりにもあっさりとした名付け理由に少し意外だと感じた。
(……親の虎竜と違い、やや赤い)
虎竜の子……虎竜ジュニアの鱗は、虎竜と比べてやや赤い。
だからアカ……と、単純過ぎる名前は付けられなかった。
「ドラゴンと虎……タイガー? の子の子だから……ドライガーとか?」
「タイゴンより、そっちの方が良さそうではあるね…………アラッドは、何か良い感じの名前を思い付いた?」
「俺か? …………そうだな……」
アラッドは諸々の記憶を掘り返しながら、何か良い名前はないかと考えながら……チラッと虎竜ジュニアの方に視線を向けた。
アラッドから視線を向けられた虎竜ジュニアは、ほんの少しだけ体を震わせた。
特に敵意は感じられない。人間の中では少々強面な部類に入るが、モンスターからすればだから何なんだという外見。
しかし……まだ戦闘経験と言える経験はない虎竜ジュニアであっても、目に見えない強さを強制的に感じさせられる。
「…………ブローズっていうのはどうだ」
言葉の響きは悪くないと感じるも、ディーナたちはその言葉がどこから出てきたのか全く解らなかった。
561
あなたにおすすめの小説
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。
凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」
「それは良いですわね、勇者様!」
勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。
隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。
毎日の暴行。
さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。
最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。
今までの行いを、後悔させてあげる--
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる